宮古のために、思いつなぐラーメン 元信金職員、店を第三者継承

被災ラーメン店の経営を第三者継承した川口敏晴さん。「地域の味を残したい」と奮闘する=宮古市磯鶏

 地域の味を守りたい-。宮古市泉町の川口敏晴さん(47)は、東日本大震災で被災し、移転再建された同市磯鶏のラーメン店「麺屋味蔵(あじくら)」の経営を1月に引き継いだ。前職は地元の信用金庫職員。創業38年の店の譲り先を探していた前店主と巡り合い、「地域のために」と味と技を継承する決断をした。津波に遭い閉店した浮島食堂の復活も思い描き、人生の新たなスタートを切った。

 「いらっしゃいませ」。黒いキャップをかぶった川口さんが男性客を出迎え、麺をゆでる。防潮堤沿いに立つ味蔵はしょうゆ、みそ、塩の「ネギラーメン」が一押し。1986年創業で、旧市役所近くの前店舗が被災し、4年後に磯鶏で再建した後も常連に愛され続けている。

 宮古信用金庫に勤めていた川口さんは震災後、「もっと地域の人のためにできることはないか」と自問していた。一ファンだった浮島食堂(同市磯鶏)の跡地近くを通るたび、食堂復活への思いが湧き上がり、4年前に退職。「地域の起爆剤になる」と地主に訴えて店舗再建の了承を得たが、新型コロナウイルス禍に見舞われ、中断を余儀なくされていた。

 そんな中で昨年、出会ったのが、当時味蔵店主の勝山耕蔵さん(76)だった。体調不良のため、店の譲り先を探していた。再建に要したローンが残るが、川口さんは店を継承すると同時に、食堂再開も見据えて飲食業のノウハウを学ばせてもらいたいと一念発起。事業承継に際し、昨年11月末に新会社フローティングアイランドを立ち上げた。

 

© 株式会社岩手日報社