買い替えは「覚悟を決めて」…専門家でも“冷や汗もの”なマンションの「購入」と「売却」気をつけたいポイント

(※写真はイメージです/PIXTA)

家族構成の変化や転職など、さまざまな理由から「いま住んでいるマンションを買い替えたい」と考えている人は少なくないでしょう。ただし、買い替えを検討する際は「覚悟を決めて」取り組まなければ、専門家であっても大変に苦労すると、『60歳からのマンション学』(講談社)著者の日下部理絵氏はいいます。日下部氏自身の経験も交えながら、マンションの買い替えで気をつけたいポイントをみていきましょう。

マンションの買い替えは「売り買い同時進行」が理想だが…

マンションの買い替えは、売りと買いのタイミングをあわせるのが難しく何からはじめたらいいか、悩む人も多いのではないか。

マンションを買い替える時は、ほぼ同じタイミングで自宅マンションを売却し、新居を買うのが理想的である。これを「売り買い同時進行」という。しかし、現実的には同時進行はとても難しい。

それは、売却と購入のタイミングを無理にあわせようとすると、割安な価格で売却せざるを得なかったり、新居をじっくり探せない恐れがあるからだ。しかも、住宅ローンなどの資金繰りも考えなければならない。

そのため実際には、無理に同時進行せずに、「売り」か「買い」どちらかを優先して進めるのがおすすめである。売却を優先するのを「売り先行」、購入を優先するのを「買い先行」という。新しく住むところを優先するなら買い先行だが、住みながら売るなら売り先行となる。

「売り先行」…売却代金を新居購入にあてられるが、空き部屋より売りにくい

「売り先行」の場合、マンションを売却した代金を、住宅ローンの残債があるなら返済にあて、余裕があれば新居の購入資金にあてられる。売却代金が確定してから新居を購入するので、予算がわかりやすく資金繰りがしやすい。

マンションを売却しないとローンの残債を返済できない場合、必然的に売り先行を選ぶことになる。なお、築古や駅遠など人気物件ではない場合は、売り先行で焦らず売却活動をするのがおすすめだ。

しかし、住みながらの売却は、空き部屋より売りにくく、次に住むところの心配もある。ただ余程の人気物件でもない限りすぐ売れるケースは少ないので、売却活動をしつつ、次の物件の候補を探しておくとよいだろう。

資金繰りからすると、売却できるまでは新居の契約は現実的ではないが、売却の目処が立ち次第、すぐに購入を決断できるよう候補物件を絞り込んでおけば、売るタイミングと買うタイミングをあわせられる可能性がある。タイミングがあわせられれば、仮住まいなどの費用を抑えることができる。

一方で新居が決まる前にマンションが売れてしまった場合、引き渡し時期に余裕がなければ、新居が決まるまでの間は賃貸などで仮住まいをしなくてはいけない。そのための賃貸物件探しや2度の引っ越し費用など、手間や費用がかかる。

「買い先行」は資金に余裕がある人向け

次に、新居の購入契約を締結してから、いまのマンションを売りに出す「買い先行」は、いまのマンションの住宅ローンが完済済みの人や、新居を退職金などの自己資金で買う予定など、資金計画に余裕がある人に向いている。

新居が建築中など引き渡しまでに時間がある場合や、新居で新たに住宅ローンを組もうと思っているなど、買い先行のほうが良い場合もある。また、いまのマンションが人気物件ですぐ売却できそうなら、新居が決まり次第すぐに売却が可能なため、買い先行もありだ。

買い先行は、焦らず納得するまで新居を探すことができ、欲しい物件が売りに出た際もタイミングを逃さずに購入できる。仮住まいに移る必要もないので、引っ越しも1回で済む。新居に引っ越しすれば、旧マンションを空き部屋にできる。空き部屋ならモデルルームのようにステージングしたり、購入希望者の内見もしやすく売却もしやすい。

高値で売れない場合、大惨事になるリスクも

一方で売り急ぎで不本意な値下げに応じたり、いまのマンションの住宅ローンが残っており、新居でも住宅ローンを予定しているなら、旧居と新居の二重ローンになってしまう。そもそも旧ローンがあると新居の住宅ローン審査に通らなかったり、通ったとしても金利などの融資条件が悪くなることも考えられる。

さらに旧マンションが思ったほど高く売れない場合、資金面で大惨事になる可能性もある。やはり「買い先行」が向いているのは、いまのマンションが人気物件か、資金に余裕がある人だろう。

なかなか売れず、ローンを組むはめに…筆者も「買い先行」で冷や汗

余談だが、私が買い替えをした際は、買い先行にした。新居が建築中で入居まで数年と時間があったこと、旧宅も駅近のデザイナーズマンションで築8年とギリギリ築浅と呼べる物件だったこと、頭金を多く入れ住宅ローンも完済済みであったからだ。

しかし、住みながらの売却は、内見時に掃除や貴重品の管理などに神経を使い、内見に立ち会う場合は、購入検討者と顔をあわせることが、とても苦痛であった。しかも売り出し価格が強気だったからか、なかなか売れず、とうとう新居の引き渡し時期になり、売却資金をそのまま新居の購入にあてる予定が、住宅ローンを組むはめになってしまった。

まさか売れないとは思っておらず、デベロッパーとの契約に「買い替え特約(購入者の所有物件が期限までに売れない場合、契約が解除でき、手付金も戻る。無料でできる)」や「住宅ローン特約(ローン審査に通らない場合、契約が解除でき、手付金も戻る。無料でできる)」の条項を入れておらず、住宅ローン審査に通らない場合、数百万円の頭金(手付金)は戻らず契約も解除されるかもと、生きた心地がしない経験をしたことがある。

デベロッパー紹介の金融機関も足元を見たのか、高い金利や不利な条件提示が相次ぎとても屈辱的だったのを覚えている。

結局、日頃から取引のある大手金融機関とフラット35を取り扱う金融機関の審査に通り、難を逃れたのだが、専門家の私でも買い替えは冷や汗ものだった。

私が所有していたマンションの場合、立地も内装も気に入ったが、登記簿面積でギリギリ50mを満たさず、住宅ローン控除(減税)が使えないことがネックだと言われたこと、ちょうど管理会社が変更されたこともあり、管理状況が不安だと言われたことも何度かあった。ようやく新居に引っ越してから数ヵ月後に住宅ローン控除も関係ない、外国籍の人に売却できた。

マンションは立地だけでなく「管理」も重要

私の経験から言えることは、マンションは立地だけではなく管理も重要だ。

マンションなど住宅は、買うのも大変だが、売るのはもっと大変。買い替えは買うと売るが同時にくるため、覚悟を決めて取りかかって欲しい。幸せになるための買い替えが老後破産を招いたのでは洒落にもならない。

日下部 理絵
マンショントレンド評論家
オフィス・日下部 代表

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