トランプ陣営の対日政策文書とは その5 日本の反撃能力保持の意味

古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・日本は軍事能力面での革命的な変化に向かって前進を続けるようになった。

・日本の防衛費はGDPの2%に達し、総合的な軍事力で世界第5位となった。

・日本の艦隊はRIMPAC(環太平洋合同演習)に参加。なかでも注視されるのは日印共同訓練(JIMEX)だ。

アメリカ第一政策研究所(AFPI)の対日政策文書の全文紹介を続ける。

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★日本の軍事革命

安倍晋三氏の創造的な法律の拡大解釈と言辞の新設定は決定的に重要だった。しかし日本が真に地政戦略的な軍事面での変質をとげるには、地に足をつけた実態の変化が必要である。その点で近年の日本は軍事能力面での革命的な変化に向かっての目にみえる前進を続けるようになったといえる。

★防衛費の増加と機材の強化

日本の防衛費は2021年には541億ドルで、全世界では9位だった。だがなおこの防衛費は日本の国内総生産(GDP)の1%内に留まっていた。安倍首相も防衛費を大幅に増加することはできなかったのだ。しかし安倍氏はそれまでの10年間の日本の防衛費の減少を止めて、わずかながらの増加を果たした。

安倍氏の後任となった岸田文雄氏は首相として防衛費の大幅増額いう目標を達成したといえる。2023会計年度の防衛省の予算請求ではその後、5年間に防衛費を倍増することをうたっていたからだ。その結果、日本の防衛費はGDPの2%というNATO諸国の最低限の水準に達するという岸田首相の目標を実現させることとなった。岸田首相が率いる与党の自民党の内部、野党の多くの政党、さらには国民多数派の間でのこの防衛費大幅増額への支持は強いことが判明したといえる。

「グローバル攻撃火力指標」という軍事力比較の調査結果によると、日本は総合的な軍事力ではすでにアメリカ、ロシア、中国、インドに次ぎ、世界第5位という地位にある。日本はすでに900機以上の軍用機、イージス・ミサイル防衛システムを装備した8隻を含む48隻の駆逐艦、20隻の潜水艦を保有して、イギリスやドイツの軍事力を越えているのだ。日本はさらに合計147機のF35戦闘機を調達することになっており、その結果、このステルス能力を持つ戦闘機の保有ではアメリカ以外では世界最大の国となるのだ。

日本はまた「出雲」と「加賀」というヘリコプターの発着できる航空母艦を改造建設中である。この加賀という艦艇の名はやや厚顔にも第二次世界大戦の1942年のミッドウェー海戦でアメリカ軍と戦い、撃沈された日本海軍の空母と同じである。この加賀はF35が垂直の離着陸の能力を有するため、日本にとっては第二次世界大戦後、初の本格的な航空母艦となる。

★インド太平洋の同盟システムでの不可欠な一員

日本がアジア地域の海洋防衛網への参入を増加させることを象徴するように、出雲は2019年以来、毎年、実施される海上自衛隊のインド太平洋への4隻での航行演習の主導役となった。この小規模ながらもの機動艦隊は2隻の駆逐艦と1隻の潜水艦とともに太平洋と東南アジアの海域全体を航行し、演習や索敵の行動を実施するようになる。

さらにもっとも重要なのは、この艦隊がリムパック(RIMPAC 環太平洋合同演習)に参加することである。リムパックとはハワイを拠点とするアメリカ軍によって主導される世界でも最大の国際的な海洋戦闘演習である。この日本の艦隊はさらにアメリカ、オーストラリア、韓国、フィリピン、などとの他の多様な軍事、文化、市民活動に関する交流にも加わることになる。なかでも注視されるのは日本とインドだけが合同で実施する訓練、日印共同訓練(JIMEX)である。

日本政府は2004年にイージス装備の駆逐艦と地上配備のパトリオット・ミサイル発射装備を組み合わせた弾道ミサイル防衛(BMD)能力の開発を始めたが、2020年夏までには安倍政権は敵国のミサイル発射基地を破壊できる能力を有する長距離の巡航ミサイルの調達を検討することを公式に明らかにした。この攻撃能力というのは日本にとって前例がない。つまり戦後の日本の防衛で初めての反撃能力の保持ということである。日本の陸上自衛隊(GSDF)はいまや台湾の海岸から186マイル(297キロ)しか離れていない琉球列島の石垣島にこの種のミサイル部隊を配備することとなった。

中国による台湾周辺での2022年8月の前例のない大規模な軍事演習の後、日本は長距離巡航ミサイル1000基以上を調達することを発表したのだった。

(その6につづく。その1その2その3その4

トップ写真:日印合同訓練(JIMTEX 2023)出典:自衛艦隊ホームページ「日印共同訓練(JIMEX2023)について

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