鳥山明さん死去 重篤症状を生じやすい「急性硬膜下血腫」の怖さ 医師が語る

漫画家・鳥山明さんが、亡くなられました。68歳。『ドラゴンボール』が好きでした。今でも私の周囲の日常会話には、作品に絡む言葉が入っています。本当に残念です。

死因は、「急性硬膜下血腫」。これは、頭部外傷の際によくみられる疾患です。また、児童虐待の際の死亡原因で最も多いということでも我々の間では知られています。

成人になると、転倒や不慮の事故などで起きることがあります。頭部は脳が入っている重要な部位です。脳組織は強度が脆く、豆腐のような臓器と言われています。ですから、髪の毛、頭皮、帽状腱膜、骨膜、骨、硬膜、クモ膜、軟膜という組織でしっかりと守られています。その硬膜の下に出血が生じ、血腫が生じたために硬膜下血腫と呼ばれます。

先述した通り、硬膜という組織は比較的しっかりとしています。ですから、硬膜の外側に出血が起きても、そのしっかりとした硬膜がある程度脳への圧迫を防いでくれます。硬膜外血腫といわれている病態で、硬膜下血腫と比較すると予後が良いとされています。

しかし、硬膜の下に出血が生じると硬い膜の下には脳を守ってくれる組織がありません。ですから、出血がどんどん広がり、脳を直接損傷する重篤な状態を生じやすいのです。原因としては、脳が強い外力をうけて、頭蓋内で脳が移動することにより、脳の表面の動脈や静脈がちぎれるためとされています。なりやすい

児童虐待の「揺さぶられっこ症候群」などは典型例です。成人では、転倒、柔道やボクシングなどのスポーツの最中に認められることがあります。繰り返しになりますが、硬膜下に出血をきたすと脳を守るべき硬膜が却って、脳を圧迫するという事態を招き非常に予後が悪いのです。

治療法としては、緊急手術を施行し出血部位を同定し止血、血腫の除去を行います。しかしながら、脳浮腫、脳挫傷などの合併症のために命を失うことが少なくありません。特に、動脈から出血した際には受傷直後から意識消失を来し、予後が悪いとされています。今回の発症原因は不明ですが、何らかの受傷起点があったではないかと考えられます。早すぎる急逝に心からお悔やみ申し上げます。

◆谷光利昭 兵庫県伊丹市・たにみつ内科院長。外科医時代を経て、06年に同医院開院。診察は内科、外科、胃腸科、肛門科など。

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