3か月待ちの人気 “コーヒー焙煎器” 手掛けているのは…「松江刑務所」 工場内はどうなっている? 受刑者が製品を製造するワケ

今、島根県松江市で話題になっている「コーヒー焙煎器」があります。
家庭で簡単に焙煎できる"優れもの"なんですが、実は、製造されている場所は『松江刑務所』。一体、どんな焙煎器なのか。そして、刑務所の中ではどのような作業が行われているのでしょうか?

松原佑基アナウンサー
「コーヒーといえば、私。きょうは、話題のコーヒー焙煎器を取材しに、松江刑務所にやってきました。」

自宅で焙煎もするほどのコーヒー通である松原アナウンサーが訪れたのは、松江市西川津町にある松江刑務所。
高い塀で覆われた中には、刑期10年未満で犯罪傾向が進んでいる受刑者約350人が収容されています。

そんな松江刑務所の入口には…たくさんの製品が並んでいます。

松原佑基アナウンサー
「こちらの製品は?」
松江刑務所 出雲路朗 所長
「こちらは、刑務所の受刑者が製作したものです」

松江刑務所をはじめ全国の刑務所では、受刑者が出所した後に働くための必要な知識や技術の習得を目的に、製品の製造を行っています。
その製品は、「矯正展」といわれるイベントやインターネットなどで購入することもできます。

Q.刑務所作業製品を製造する目的は?
松江刑務所 出雲路朗 所長
「独自の製品を手掛けることにより、就業意欲を向上させ、円滑な社会復帰や再犯防止につなげることを目的にしています」

松原佑基アナウンサー
「こちらが話題のコーヒー焙煎器ですね。」

松江刑務所で製造され、今、巷で話題となっている『家庭用コーヒー焙煎器』、インテリアとしても楽しめそうな見た目です。

Q.焙煎器を製造した理由は?
松江刑務所 法務技官
「誰でも簡単に焙煎できる製品を作ることで、地域の方に注目され、松江刑務所と社会との接点が出来るきっかけになると思ったのがきっかけです」

コーヒーには人一倍うるさい松原アナウンサー、松江刑務所製の焙煎器をさっそく使ってみました。

松原佑基アナウンサー
「火を当てていく感じですね」
松江刑務所 法務技官
「そうですね。なかでしっかり豆が回っている構造なので、ゆっくり回せばいいと思います」
松原佑基アナウンサー
「ちょっと重量のある、ちょっと抵抗されているような感じですね」

そして、およそ5分後…。

松原佑基アナウンサー
「来ましたね!一番おいしそうな色合いになってるんじゃないかな」

果たして、コーヒーの味は?

松原佑基アナウンサー
「しっかりと深炒りの香り。後味に甘みもしっかり出ています。焙煎がうまくいかないと、コーヒーの甘みは引き出せないので、これは焙煎、うまくいきましたね!」

驚くほど完成度の高いこの焙煎機。
昨年秋から販売を始めたところ、口コミで広まり注文が殺到。
いまや、3ヵ月待ちの大人気となっています。

そして、これを作っているのが松江刑務所の受刑者。
今回、松江刑務所内の工場にカメラが入りました。

朝6時40分に起床した受刑者は、朝食のあと工場に向かい、1日約7時間作業にあたります。

松江刑務所内には様々な作業工場がありますが、約20人の受刑者が、旋盤や溶接機を使い農機具部品の製造・電線の解体などを行っています。
そして、そのうち、3人ほどがコーヒー焙煎器の製造に携わっているといいます。

松江刑務所 工場担任者
「焙煎器の作業を行っているのは、金属工場でもトップレベルの技術を持つ受刑者が製造しています」

焙煎器の中にスパイラル状に加工した金属棒を取り付ける作業を見せてもらうと…かなり高度な金属加工の技術が必要なことがわかります。

松江刑務所 工場担任者
「金属加工という作業をしているので、教える私たちも緊張感をもって指導しています。その作業を通して、安全意識を高めることで、受刑者の出所後の社会復帰につながると考えています。」

この焙煎器、実は、完成までに、数十回という改良を重ねています。

例えば、2枚重ねになっている鉄板に空いたたくさんの穴。これは、熱を効率的に行きわたらせるためのものだといいます。

焙煎器製造にあたっては、コーヒーのプロのアドバイスも求めました。

珈琲専門店 スイングカフェ 青木和幸さん
「『焙煎器を作れるのかな?』と、最初は疑問でした」

しかし、焙煎器が完成し、コーヒーを試飲すると…

珈琲専門店 スイングカフェ 青木和幸さん
「香ばしくて、香りも高くて、なかなかいいんじゃないかな、と。プロ並みです。」

こうした家庭用焙煎器は、数万円するのが相場ですが、松江刑務所の焙煎器は税込み4,400円!
(※材料費高騰のため、4月以降は税込み5,000円で販売予定)

松江刑務所 出雲路朗 所長
「受刑者の改善更生が目的で、利益を得るためではないので、安価に設定されています。限られた人材で製作をしているので、大量生産はできないんです。」

それでも、品質を高めたのは、受刑者の意識を社会復帰に向け変えていくため。

松江刑務所 工場担任者
「コーヒー焙煎器の作業をするようになってから、受刑者の作業に対する姿勢も変わって。指導している方から見ても、『変わったな』と思います。」

松江刑務所 出雲路朗 所長
「受刑者の改善更生のためには、社会とつながっているという実感を得ることができることが大事だと考えています。再び罪を犯すことなく、しっかりと社会復帰するために、松江刑務所で独自の製品の開発をすることを通じて、地域の皆さんに、刑務所を理解していただければ。」

人気沸騰の松江刑務所のコーヒー焙煎器。そこには、受刑者の社会復帰にむけた思いが込められていました。

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