『【推しの子】』『このすば』『ゆるキャン△』 高橋李依が“推される”理由

YouTubeの再生回数が4億回を超え、まさに2023年の神アニソンとなった『【推しの子】』OP曲のYOASOBI「アイドル」。

2024年2月には「アイドル」を主人公・アイがカバーした動画が公開され、あわせて話題を呼んでいる。

「アイドル」をアイの嘘や演技を込めて歌い上げたのは、今年の春アニメの中核を担う声優・高橋李依。

この記事では、2024年の春に『この素晴らしい世界に祝福を!』『ゆるキャン△』など多数の作品に出演する高橋の人気の理由に迫りたい。

●イタくてかわいい中二病

大人気アニメの続編シリーズとして4月から放送が始まる『この素晴らしい世界に祝福を!3』。本作のなかでも特に人気が高いキャラクターが、高橋が演じる中二病の魔女っ子・めぐみんだ。

めぐみんの魅力といえば、爆裂魔法への異様なこだわりと単純で少しおバカな性格。そんなめぐみんのかわいらしい中二病っぷりを表現できるのは、高橋のすごさなのではないだろうか。

めぐみんが爆裂魔法を放つ際に唱える「エクスプロージョン」とその前文。詠唱文は「黒より黒く」「万象等しく灰燼に帰し」など小難しいワードが並んで長尺なのだが、聞いていて飽きないしもっと聞きたくなる。

呪文を唱える際のめぐみんの声は普段のめぐみんよりも歯切れがよく、その自信に満ちた声からは“呪文を唱える自分に酔う”めぐみんの茶目っ気が感じられるのだ。

なお、めぐみんの唱える「エクスプロージョン」の人気はスピンオフ作品『この素晴らしい世界に爆焔を!』と「日清炎(ほむら)メシ」とのコラボにも影響している。

現在もYouTubeで公開されている炎メシとのコラボCMでは、めぐみんが「注げよお湯、垂らせよオイル……」と炎メシの調理方法を呪文風に紹介。油断すると無理矢理感が出やすいコラボ企画においても、いつもと変わらないちょっとイタいめぐみんの姿を楽しめる。

商品紹介というミッションが課せられたなかでもめぐみんの魅力を保った高クオリティのコラボには、高橋の声も大きく貢献しているのだろう。

●嘘と本音の演じ分け

高橋が演じたキャラのなかでも最近特に話題を呼んだ『【推しの子】』の絶対的アイドル・星野アイ。OP曲「アイドル」でも歌われているアイの絶妙な腹黒さを、高橋は見事に表していた。

そもそも『【推しの子】』のTVアニメでアイが登場するのはほぼ第1話のみ。しかしアイは本作において終始重要なカギを握る人物であり、高橋には短い時間のなかで視聴者にアイの存在を印象付ける役割が任されていた。

自分を淡々と嘘つき呼ばわりする普段の声と、死に際で2人の子どもに対して放った「愛してる」の澄んだ声。高橋が示した声の違いは、嘘で自分を固めたアイの"本心の愛"をはっきりと伝える見事すぎる仕掛けだった。

なお、アイの演じ分けは冒頭で言及した「アイドル」のカバーver.でも見られる。わずか3分34秒の曲のなかにアイの被った仮面の多くが表現されているのは、まさに高橋の技量によるものだろう。

いかにもアイドルらしいあざとい抑揚がついている導入のラップと1番に対し、2番からは様子がやや変化。

2番のラップで吐き捨てる口調と息が交わり、ぶっきらぼうな3番のラップであざとさが消え、少し泣きが入った最後の「愛してる」は子を持つ母としてのアイの声で歌われる。

アイドルとして、嘘つきとして、母としてのアイの顔が表現された「アイドル」は、聴いても聴いてもアイの心が見えずまた聴きたくなる不思議な魅力を備えた曲だった。

恥を捨てた演技も嘘を捨てない演技も務め、おそらくは驚くほど多くの顔を持つがゆえに“推される”存在となった高橋李依。

彼女が演じるキャラクターが作品をどのように彩るのか、2024年の春アニメが楽しみでしょうがない。

(文=三山てらこ)

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