社説:中国の全人代 先行きの不透明さが増した

 先行きの不透明さがいっそう深まったといえるだろう。

 中国の国会である全国人民代表大会(全人代)の政府活動報告は、2024年の国内総生産(GDP)の成長率目標を、昨年と同じく「5%前後」に設定した。

 人口減時代に入り、不動産不況も長引く中、国際通貨基金(IMF)は4.6%と成長鈍化を予測している。目標に掲げた安定成長の達成は、そう容易ではないだろう。

 抜本的な改革が打ち出されるか注目されたが、めぼしい具体策は示されなかった。

 中国は豊かな先進国になる前に、高齢化が進む「未富先老」が現実化しており、経済の失速傾向が否めない。地方政府の債務は膨れ上がり、若者の失業者が増えている。停滞が長引くほど、世界経済に与える影響は広がるだろう。

 問題なのが、習近平国家主席「1強」体制の下、さらに強まる国家統制である。

 昨年7月には、スパイ行為の対象を広げる改正反スパイ法が施行された。容疑を明らかにせずに外国人や国民を摘発する横暴が後を絶たない。改正前でも日本人17人が拘束されており、中国で活動する外国企業のリスクと、制約の拡大が懸念されている。

 中長期経済政策を決める共産党第20期中央委員会第3回総会(3中総会)も、本来なら昨秋の予定だったが、開かないままに全人代を迎えた。

 就任して初の全人代に臨んだ李強首相だが、閉幕後恒例の首相記者会見が取りやめとなった。国内外メディアの質問に答える年1回の貴重な場が失われたのは、不都合な質問を避ける狙いがあるのではないか。習氏の独裁色の強まりと、首相権限の縮小も見て取れよう。

 経済の低迷にもかかわらず、24年予算案の国防費は、前年比7.2%増の1兆6千億元(約34兆8千億円)とした。

 台湾総統選で中国が独立派と見なす与党、民主進歩党(民進党)が勝利したことも踏まえ、軍拡路線を続ける姿勢だ。活動報告で、台湾問題について、昨年にはあった「平和的統一」という言葉が消えたことも気になるところだ。

 王毅外相の記者会見では、日中韓3カ国について「協力を推進する」と述べたが、ほぼ毎回触れてきた日中関係には言及しなかった。日本メディアは質問者にも選ばれなかった。

 東京電力福島第1原発処理水の海洋放出や中国での邦人拘束など、日中間には多くの難題が横たわっている。

 11月の米大統領選の行方も含め、米中関係が見通せない中、日本は独自の外交努力が欠かせない。

 中国の経済と国民生活の安定を図る上でも、対話による日中関係の持続的改善と国際問題での協力が求められよう。

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