追悼・鳥山明氏はなぜ「神様」と呼ばれたのか……少年漫画の理想形を作った偉大な才能

漫画家の鳥山明氏が3月1日に亡くなっていたことが報じられ、国内外のファンたちに大きな衝撃をもたらしている。鳥山氏といえば『ドラゴンボール』や『Dr.スランプ』など、誰もが一度は触れたことがある名作を生み出してきた国民的作家であり、『週刊少年ジャンプ』(集英社)の黄金時代を築き上げた立役者でもあった。

本稿では心ばかりの追悼として、なぜ鳥山氏が多くの人から「天才」と称賛されてやまないのか、その偉大な才能について振り返ってみたい。

『ONE PIECE』の作者・尾田栄一郎はかつて対談のなかで鳥山氏を「神様」と呼び、その理由として絵が上手すぎることを挙げていた。ほかにも多くのクリエイターが画力を賞賛しているが、“絵が上手い”とは一体どういうことだろうか。

同時代に頭角を現した漫画家としては、『AKIRA』の大友克洋も画力の高さに定評があったが、その作風には大きな違いがある。大友がリアル志向で緻密な描き込みの絵を突き詰めたのに対して、鳥山氏の絵はリアルとファンタジーを行ったり来たりするような魅力をもつ。それを可能にしたのが、卓越したデフォルメの技術だった。

作中に登場するキャラクターたちは、いずれも漫画的なキャラクターとして描かれているものの、リアリティを失ってはいない。そこに実在するかのように読者が感情移入できる上、コマのなかで誰かが殴られれば痛みがこちらにまで伝わってくる……。そんな絶妙なデフォルメによって成立する世界観は、鳥山氏が大きな影響を受けたことを公言している手塚治虫の作品やディズニーのアニメに近い。

さらにデフォルメについて言うなら、唯一無二のメカデザインについても無視することはできない。戦車やバイク、車などの描き方を見てみると、リアリティたっぷりでありながら驚くほどに線が少なく、簡略化された見た目となっていることに気づくだろう。キャラクターを描くのと同じように、巧妙にデフォルメされたデザインとなっているのだ。

またメカ描写のバックボーンとしては、父親が元オートバイレーサーで、自動車修理屋を営んでいたという家庭環境の影響も考えられる。さまざまなメカを徹底的に観察する分析眼と、手塚・ディズニー的なデフォルメのセンスが融合したことで、あの独特な“鳥山ワールド”が成立したのかもしれない。

誰でも楽しく読める少年漫画の理想形

他方で鳥山氏の絵の上手さについては、アクションシーンの迫力についても唯一無二のものがある。

『ドラゴンボール』ではスクリーントーンの使用が極端に少なく、キャラクターの描き込みもそこまで多いわけではなかった。しかしそれでありながら、なぜかド迫力のアクションシーンが実現できている。キャラクターの動きの描き方や視線誘導、ページ全体の構図などが考え抜かれているからこその成果だ。

この“バトルシーンを構図で魅せる”という発明こそが、鳥山氏の作品のすごいところではないだろうか。迫力満点でありながら画面がすっきりしていて見やすいため、大人から子どもまで楽しく読めるからだ。まさに少年漫画の1つの理想形と言っていいように思われる。

なお鳥山氏は元々漫画家になる前に広告関係の会社でデザイナーとして働いており、その後も『ドラゴンクエスト』シリーズのキャラクターデザインやパッケージイラストなどに長年携わってきた。空間把握能力や画面の構成力、デフォルメの技術が活かされていたのは、漫画家としての仕事だけではないのだろう。

2024年秋には、鳥山氏が原作・ストーリー・キャラクターデザインに関わった完全新作アニメシリーズ『ドラゴンボールDAIMA』が公開される予定。そして3月20日には、Disney+にて『SAND LAND: THE SERIES』の配信も控えている。魅力的な世界を堪能する機会がまだたくさん残されているので、この機会に鳥山氏の才能にあらためて想いを馳せてみてほしい。

最後に、鳥山氏のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

(文=キットゥン希美)

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