鈴木愛の肉体改造は「ゴルフをやめたい」から始まった

後続に6打差つける圧勝。鈴木愛が強さを見せつけた(撮影/中野義昌)

◇国内女子◇明治安田レディス ヨコハマタイヤ 最終日(10日)◇土佐CC(高知)◇6273yd(パー72)◇晴れ(観衆2152人)

鈴木愛が6打差をつける独走でツアー通算19勝目を遂げた。それも、初日から4日間首位を守り切る“完全優勝”。「やるからには一番」という言葉どおりの結果を残し、出場には世界ランキングの上昇が必要となる目標の「全米女子オープン」(5月30日開幕/ペンシルべニア州・ランカスターCC)に向けて一歩前進した。

舞台の土佐CCはアップダウンの激しいコース。5年前の優勝当時とは体つきも体力も変わり、大会2勝目を手にできたのはオフシーズンに注力してきた筋力トレーニングの成果が大きいと話す。そもそも鈴木の“肉体改造”は、「ゴルフをやめたい。プロをやめたい」と周囲にこぼしたところから始まった。

2014年「日本女子プロ選手権コニカミノルタ杯」でのツアー初優勝以降、16年と17年に2勝ずつ、18年に4勝、19年に7勝とハイペースで勝利を重ねてきた。だが、コロナ禍に見舞われた20年は未勝利で終わり、21年は2日間競技となった「資生堂レディス」での1勝のみ。「伸びしろはあったとは思うけど、モチベーション的にもどうやったら調子が良くなるのか、あまり見えてこなかった」。頭には“引退”の2文字がよぎった。

体づくりを強化してショットの安定性を高めた(撮影/中野義昌)

「でも、周囲の人から『ゴルフは続けてほしい』と言われて。なら、もっと自分の好きなようにやろうとなって、コーチ、トレーナー、栄養士をつけた」。22年シーズンに、賞金女王時代に師事していた南秀樹コーチから「年間女王を目指そう」と言われたことや、昨年6月に体調を崩すなかで2年ぶりに優勝できたことで、少しずつモチベーションを戻してきた。

トレーナーを務める工藤健正(くどう・たけまさ)さんは、トレーニングを始めた頃は「ひざの調子が良くなくて、筋力がないから痛いところが出る。痛いからトレーニングができない。そんな悪循環だった」と振り返る。都内にあるスタジオでのトレーニングは「量より質」にこだわり、スクワットひとつでも「ただ上げるのではなく、やりたいスイングができるように」と目的に合わせて色々な種類の方法で行い、体に負荷をかけてきた。「それが、きついコースでも最後まで力を出し切れる要因になったのかな」と工藤さんは分析する。

「嫌い」と言うトレーニングを逃げずにやってきたからこそ、最後までリードを広げてつかんだ1勝。「たくさん優勝してきたけど、こんなに体力的にきついと感じなかったのは初めてに近い」と実感を込めた。

モチベーションの高め方に悩む時期を乗り越えた(撮影/中野義昌)

オフシーズンに、より一層トレーニングに励んできたのにはもうひとつ理由がある。今年の元日に起きた能登半島地震と、翌2日に羽田空港で旅客機と海上保安庁の航空機が衝突した事故のニュースに胸を痛めた。「よく飛行機を利用するし、自分がそこにいてもおかしくないって。やりたいことができる環境は当たり前じゃない」ことに気付いた。

「やり残したことは?と考えたときに、ダラダラしている自分の印象しかなくて。いつ自分の人生が終わってもおかしくないよう、後悔しないようにやりたいと思ったので、トレーニングや練習にしっかり取り組みたい」。自問自答の末に導き出した答えが、全盛期を彷彿とさせる圧勝劇を呼び込んだ。(高知県香南市/石井操)

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