「常磐もの」再興へ、前を向き歩む県民 震災13年 道のり険しい東電福島第1原発の廃炉作業

魅力を全国に発信し、風評に負けない地域にしたいと意気込む上野台さん=福島県いわき市小名浜

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の発生から11日で丸13年。福島第1原発の処理水の海洋放出が続けられている中、福島の海を生業(なりわい)とする人々は風評への不安と向き合いながら、「常磐もの」で知られる福島県水産品の再興や地域の再生を目指して歩みを進めている。全国各地の地方紙の記者と共に2月下旬、JOD「#311jp記者講座@福島」に参加し、全国の地方紙の若手記者と共に浜通りの被災地を取材した。(福島民報社いわき支社報道部・石塚花音)

 いわき市を出発し、福島第1原発を訪れた。初めて訪れたという参加者は「構内を防護服なしに歩けるとは思っていなかった」と驚く。林立する処理水タンク、ひしゃげた鉄骨がむき出しになった1号機などが目に飛び込む。がれき撤去に向けた囲いの設置工事が進められているが、2020(令和2)年に初めて訪ねた当時とほぼ変わらぬ光景に、廃炉作業の道のりの険しさを実感した。東電は2月28日、今年度最後となる4回目の放出を始めた。地下水の流入などで汚染水は日々発生するため、約1000基あるタンクのうち、今年度の放出で実際に減るのは10基分ほどだという。

 海洋放出の設備がある5、6号機付近で東電の担当者から「科学的な安全性は確保されている」と説明を受けた。海洋放出が始まって半年が経過し、東電は「目立った風評は起きていない」としているが、中国などが日本海産物の輸入停止措置を続け、国内外から厳しい目を注がれている。

 廃炉作業を巡っては、作業員が放射性物質を含む廃液を浴びたり、建屋外に汚染水が漏えいしたりと、トラブルが相次ぐ。いわき市小名浜で取材した小名浜機船底曳網漁協所属の第三政丸船主である志賀金三郎さん(77)は「原発でトラブルがあるたび、それが風評の芽につながる」と警戒感をあらわにする。震災後、漁港や海域のがれき撤去作業から船を沖に出すのを再開した。試験操業などで仲間と一緒に労苦を重ね、漁獲できる魚種や水揚げ量を回復させてきた。福島第1原発関連のトラブルは大小にかかわらず「世の受け止め次第で、積み上げてきた『安心』が一気に崩れてしまう」と語気を強める。

 厳しい経営環境の中、「常磐もの」の魅力発信に努める水産加工業者もいる。小名浜で「上野台豊商店」を営む上野台優(ゆたか)さん(48)は魚食離れが進む子ども向けの商品開発やブランド化などに力を入れている。地域の魅力を全国に広く発信し、「一人でも多く福島を応援してくれる人を増やし、風評に負けない地域にしたい」と前を向く。

 原発事故の発生後、安全性を確認した商品が、東電の人為的なミスや食品の放射性物質検出が判明するたびに売れなくなった経験が記憶に残っている。いまだ先行きへの不安はぬぐえないままだ。それでも海洋放出後、全国の消費者の間で県産魚介類を応援する動きが広がった。自らの店でもネット注文などが増え、多くの人の支援の気持ちを肌で感じた。処理水放出が始まってしまったからには、複雑な思いを抱きながらも、「東電には緊張感を持って、安全に、着実に、廃炉作業を進めてもらいたい」と願う。

 地域の農家や料理人らと手を携え、福島の良さを伝える料理や商品開発にアイデアを練ってきた。「福島の魚の魅力を伝え、地域の盛り上げを少しでも後押ししたい」と誓っている。

 4日間の研修を終え、参加した記者の1人は「福島県ではまだ震災の影響が続いており、地域で頑張る人の姿などさまざまな面を知ることができた」と振り返り、「福島に足を運んでみてほしいと周囲に伝えたい」と語った。

▪️JOD「#311jp記者講座@福島」 全国の地方紙などが加盟する「オンデマンド調査報道(JOD)パートナーシップ」が2月25~28日、福島県の浜通りで開いた。加盟社は福島民報「あなたとともに 福島特命取材班」をはじめ、読者とつながる報道に取り組んでおり、東日本大震災連携企画「#311jp」の一環として企画した。全国の20媒体から震災後に入社した記者が参加して取材した。

新たな風評の芽を生まないよう、緊張感を持った作業を東電に求める志賀さん=福島県いわき市の小名浜漁港
処理水などのタンクが林立するエリア。昨年8月以降、これまで4度の海洋放出が行われている(東京電力ホールディングス提供)
東京電力福島第1原発1号機では、建屋を覆うカバーの設置が進められている一方、ひしゃげた鉄骨はむき出しのままだ(東京電力ホールディングス提供)

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