家畜番犬は捕食動物の行動をどのように変化させるかという研究結果

家畜番犬の存在は採食動物の行動を変化させるだろうか?

働く犬の仕事のひとつに「家畜番犬」というものがあります。日本ではあまり馴染みのない存在ですが、野生の肉食獣などの外部の脅威から家畜の群れを守るのが彼らの仕事です。番犬だけでなく、ボーダーコリーなどの牧畜犬のように家畜の群れを集めて管理する仕事もします。

野生の捕食動物を追い払うという家畜番犬の存在が、捕食動物の分布や行動に及ぼす影響については今までほとんどわかっていなかったそうです。

このたびオーストラリアのタスマニア大学、ビクトリア動物園、メルボルン大学の自然科学の研究チームがこの点についての調査を行ない、その結果が発表されました。

家畜番犬のいる2カ所といない2カ所でキツネの行動を観察

この調査はオーストラリアのビクトリア州北東部の4つの場所で行われました。この地域で家畜への脅威と考えられているのは、アカギツネ、ディンゴ、野生化した犬です。

4ヵ所のうち2つの実験地では家畜番犬が働いています。1つは1000頭の羊と3頭の家畜番犬(犬種はマレンマシープドッグ)、もう1つは6000頭の羊と4頭のマレンマシープドッグが放牧されています。

残り2つの実験地では家畜番犬を採用していないのですが、地理的な条件などは前述の2ヵ所とよく似ており比較対照として選ばれました。

犬たちは約9ヵ月間にわたって首輪にGPS追跡装置を着けて過ごし、調査地域での家畜番犬の活動がマップ化されました。実験地でのキツネの採餌行動は、地面にキツネが好むエサを埋めて遠隔カメラを使って観察されたそうです。

家畜番犬はキツネの行動に大きな影響を与えていた

家畜番犬の行動範囲とアカギツネの検知記録を分析したところ、キツネは家畜番犬が行動している地域全体に出没するものの、家畜番犬が頻繁に現れる地域ではキツネが目撃される機会は少なくなっていました。

また、家畜番犬が多く行動する場所ではキツネ用のエサが掘り返された量も少なかった、つまりキツネは家畜番犬に遭遇するリスクを避けるためにエサを探す時間を短縮していたことを示しています。

このことは、家畜番犬が必ずしも野生の捕食動物を排除するわけではないが、捕食動物の行動に強い影響を与えている可能性を示しています。家畜番犬が頻繁に現れる場所では肉食動物の採餌行動が減るということは、家畜への攻撃を抑える可能性が高いことを示しています。

この研究での観察対象はオーストラリアでは外来生物であるキツネでしたが、地域によってはディンゴやタスマニアデビルなど、保護の必要のある野生の肉食動物もいます。

家畜番犬が肉食動物から家畜への攻撃を抑える役目を果たしつつ、野生動物によるその地域の利用を可能にしていることは、家畜番犬が野生動物と牧畜の共存を可能にしているとも言えます。

さらに肉食動物に食べられる立場の小型野生動物や野鳥、爬虫類などが、家畜番犬の行動範囲に避難場所を見つけられる可能性もあり、家畜の放牧地での生物多様性保全に役立つと考えられます。

研究者はこの結果を受けて、牧畜農家が家畜番犬を使って家畜を守ることを勧めています。家畜番犬は羊と農家の人々のストレスを軽減し、家畜の福祉の向上と農業経営の持続可能性に貢献すると研究者は述べています。

まとめ

オーストラリアでの研究から、放牧地で羊などを守る家畜番犬は、野生の捕食動物を排除することなく行動を変化させ、生物多様性や牧畜農業の持続可能性に貢献するという結果をご紹介しました。

ただ家畜を守るだけでも頼もしいのに、その存在が野生動物や自然環境を守ることにもつながるとは、家畜番犬には「すごい!」という言葉しかないですね。

《参考URL》
https://doi.org/10.1002/2688-8319.12299

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