『厨房のありす』晃生の死の真相と思いが明らかに 怪しすぎる“真犯人候補”誠士と蒔子夫婦

倖生(永瀬廉)の父・晃生(竹財輝之助)は、なぜ自ら命を絶ったのか。『厨房のありす』(日本テレビ系)第8話では、晃生の死の真相とそこに隠された思いが明らかに。だが、それは倖生をさらに苦しめるものだった。

9年前、五條製薬の研究所の所長だった晃生。彼は愛人だった心護(大森南朋)にお金を無心され、横領までさせられていたと倖生は母親から聞かされていた。だが、心護は全部濡れ衣だったと告白。晃生は自分の知らない所長名義の隠し口座に研究費を横流しされ、真犯人に「バラせば家族の安全は約束しない」と脅されていたというのだ。

その事実を晃生が亡くなるまで知らなかったという心護。2人が別れてからも頻繁に会っていたのは本当だが、晃生は倖生のことを心から愛していたという。愛していたからこそ、真実を明らかにして晃生を危険に晒すことはできない。けれど、無実の罪を被り、自分を尊敬し、同じ創薬化学者を夢見る倖生に失望されることは晃生にとって耐え難かったのだろう。追い詰められた末に晃生は自ら命を絶った。「お父さんを殺したのは僕だ」という心護の言葉は、そんな晃生の苦しみに気づけなかったことへの後悔から生まれたものだった。

真実が人を救うとは限らない。ありすは火事から自分を守ろうとして亡くなった母・未知子(国仲涼子)の愛情を知り、前を向くことができたが、倖生の場合はそうじゃなかった。自分が知らない間に父親を追い詰めていたのではないかと心を痛める倖生。そんな中、虎之助(三浦綺羅)から小学校の飼育小屋の建設を頼まれ、父親として良いところを見せようと腕の怪我を隠して張り切る金之助(大東駿介)の姿と、自分の父親の姿がオーバーラップする。もしそれで取り返しのつかないことになったら、息子がどれだけ傷つくか分かっていない。倖生の言い分は最もだ。

けれど、愛する人のためについ無理をしてしまうのは父親に限らず、人間の性なのかもしれない。懸命に自分を励まそうとするありすに心配をかけまいと、和紗(前田敦子)にアドバイスされた通り、無理して元気に振る舞う倖生もそう。往々にして、人は一人で全てを背負い込もうとして頑張りすぎていることに無自覚だ。

ありすもまた、倖生のことを一人で何とかしようとしていた。だが、水族館デートの帰りにありすは倖生の作り笑顔を指摘したことで「俺の気持ちなんかありすに分かんないだろ!」と言われてしまい、喧嘩になってしまう。そんな彼女を鼓舞してくれたのは、なんと百花(大友花恋)だ。お弁当を持って来てくれた時の暴言を謝罪しに「ありすのお勝手」にやってきた百花は、自分にはないものをたくさん持っているにもかかわらず、「自分は空気も読めないし、気も使えない」と落ち込むありすに「そんなのは他の人に任せればいい」と言う。「人間はもともと一人じゃ生きていけない」という和紗の言葉にも通ずるその台詞は本作の重要なテーマかもしれない。心護が三ツ沢家のみんなをはじめ、いろんな人の協力を得てありすを育ててきたように、人間が一人でできることには限界がある。だからこそ、助け合って生きていくことが大事なのだと、このドラマは繰り返し繰り返し説いてきた。

百花の言葉を受け、ありすはおでんの屋台を開き、倖生と金之助を招待する。二人が暖簾をくぐると、すでに心護と定一郎(皆川猿時)が待っていた。大根、たまご、はんぺん、餅巾着……。おでんにはいろんな魅力のある具材が集まっているが、どれも一つだけではおでんにならない。それぞれの具が良い味を出し合って、美味しいおでんになるのだと、ありすも自分なりの方法で相互扶助の重要性を伝える。

ありすの言いたいことを理解した金之助は後日、みんなの力を借りて飼育小屋を完成させた。すると虎之助は、自分が友達に自慢したせいで金之助に無理をさせてしまったことを謝る。そんな虎之助の頭を撫で、「めちゃくちゃうれしかったよ」と笑顔を見せる金之助。ありすが言うように、晃生も金之助と同じ気持ちだったのだろう。大切な人には自分のために無理をしてほしくない。けれど、大切な人にとって頑張る理由があるというのは幸せなことなのだ。その矛盾の中で人は生きている。だからこそ、大事なのは一人では無理だと思った時に頼れる人がいること。「倖生さんは1人じゃないです。私たちの家族のようなものです」というありすの言葉が、倖生の頼れる場所を作った。

晃生の死の真相が明らかになり、残る謎は誰が彼に横領の罪をなすりつけたかということ。ありすは倖生に真犯人を見つけようと提案する。そんな中、25年前にありすが巻き込まれた火事の原因が放火で、未知子が誰かに殺されたという可能性が浮上。もし、それが真実だったとしたら、未知子を殺した犯人は晃生に罪をなすりつけた人間と同一人物なのだろうか。これまでは誠士(萩原聖人)が最も怪しい人物として描かれてきたが、改ざんされたと見られる臨床試験の資料を燃やす蒔子(木村多江)の表情も意味深に映し出され、いよいよ分からなくなってきた。この夫婦、怪しすぎる。

(文=苫とり子)

© 株式会社blueprint