「自分のほうが一枚上手でした」今季12点目を豪快に決めた小川航基が体感する“日本との違い”。「死にもの狂いにさせられるんです」【現地発】

FW小川航基とMF佐野航大が主軸に名を連ねるNECは3月10日、ヘーレンフェーンを2−0で下し6位に浮上。アヤックスとの差を勝点1まで縮め、5位を射程圏内に捉えた。

【動画】CKから頭でズドン! 小川航基がヘーレンフェーン戦で決めた豪快弾をチェック!

先制ゴールを奪った小川はスタンディングオベーションを浴びながら82分にベンチへ退いた。セントラルMFでスタートした佐野は50分からトップ下に移り、パンチの効いたミドルシュートを放つなど随所で好プレーを披露しフル出場を果たした。

ヘーレンフェーン相手に後半、均衡を破ったのは、背番号18を着けたエースだった。67分、MFラッセ・ショーネが蹴ったCKを小川がヘッドで合わせ、今季オランダリーグ8ゴール目、カップ戦を含め12ゴール目を記録した。

殊勲の小川が得点シーンを振り返る。

「どっちに転ぶかどうか、分からない試合内容でした。お互いに決定機という決定機がなく、『今日は先制点を取ったほうが勝つな』と思っていました。その鍵がセットプレーでした。今日はセットプレーで僕にボール集まっていたんです。 『今日はちょっとゴールを取るチャンスがあるぞ』と思っていました。だから点を取れて良かったです」

点を取るまで2度、小川はCKでバックステップを踏んでファーポストでヘディングシュートを放っていた。特に、ゴールのひとつ前のヘッドは、相手選手がゴールライン上でクリアする非常に惜しいものだった。

「今日はよく考えて、相手の逆を取ることができた――という印象があります。動き方とかの工夫はちょっと自分のほうが一枚上手でした」

小川の高さはCKの守備でも光った。敵のCKにおける彼の持ち場は、基本的にストーンを務める選手の背後。つまりニアから数えて2人目だ。そこで小川は、少なくとも3本のCKをヘッドで弾いた。「今日は当たっていましたね」と小川。

「自分より高い選手が多いので、難しい状況が多いですけど、そこで工夫して自分より先に入らせないようにしていました。今日はちょっと僕にボールがよく集まり、それを跳ね返しました。そういうこともチームを助ける意味では大事なことです」

KNVBカップの2回戦から準決勝にかけて、全試合で1ゴールずつを奪い、計4ゴールを記録している一方、オランダリーグでは4試合ノーゴールが続いていた。

「リーグ戦とカップ戦が(交互に)重なり続けていたなか、リーグ戦では取ることができず、自分でもそこはやっぱり足りないなと思っていました。リーグ戦でもっと点を取らないと自分の評価は上がっていかないと思うし、自分でももっとやれると思う。だから、この1点というのは自分の中でけっこうデカい。これからに繋がる1点だったんじゃないかなと思います。次の試合(対ユトレヒト戦)に向けて良いフィーリングで臨めます」
NECがホームゲームで負けたのは昨年12月3日のアヤックス戦(1−2)が最後。以降、NECは公式戦のホームゲームで6連勝中だ。

「やっぱりそれはサポーターの声援が大きい。ピッチもすごくいいんです。本当に芝の状態がいい。なんかすべてが味方をしてくれています。今はホームで負ける気がしません」

今でこそサポーターの信頼を集めるNEC。しかしシーズン序盤は、昨シーズン終盤に失速した影響もあり、不満のマグマが溜まっていた。それが如実に現れたのがリーグ戦第2節、ヘラクレス相手に後半アディショナルタイムに失点し、1−2で惜敗した試合後だ。アルメレから夜中にホームスタジアム『デ・ホッフェルト』に着くと、怒り心頭に発したサポーターにバスが取り囲まれた。

「まだ2試合なのに!?」。そう小川は驚いたという。

2月27日、KNVBカップ準決勝。小川の同点弾と佐野の決勝ゴールによってカンブールを2−1で下し、一泊してからバスでナイメーヘンに戻ると、今度はサポーターの労いの拍手が待っていた。

「それがなんかヨーロッパというか、日本とのすごい違いというか、熱さというか…。『死にもの狂いで命を懸けるぐらいやってやらないと』という気持ちにさせられるというか。それを肌で感じられているのはすごく大きいです。お金を払って見に来てくれるサポーターたちが、得点を決められない、試合に勝てないと怒る気持ちもすごく分かります。こうやっていい雰囲気のなか、勝利を重ねているのがすごく嬉しいです」

1万2500人の観客が縦ノリで揺らし、劇場と化したスタジアム。その主役を務めたのはやはり小川だった。

取材・文●中田 徹

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