選手権制覇の市船で同期の新人監督がJFL開幕戦で激突!「お互い全部を知っている」「この舞台で戦えたのは幸せ」結果は沖縄SVがクリアソンに4発完勝

昨季の全国地域サッカーチャンピオンズリーグで優勝した栃木シティが新たに参入し、今季は16チームで争われるJFL。2024シーズンの戦いが3月10日に開幕し、J3参入を目ざすクリアソン新宿は本拠地・駒沢陸上競技場で沖縄SVを迎えた。

クリアソンでは今季から元日本代表の北嶋秀朗がコーチから監督に昇格。対する沖縄SVも監督・選手を兼務していた高原直泰代表が現場から離れて経営者専念となり、小野木玲新監督を招聘した。

両指揮官は、1996年度の高校サッカー選手権を制覇した市立船橋の同期。北嶋監督はご存じの通り、エースFWとして名を馳せ、小野木監督は左SBとして頭脳的なプレーを披露。決勝で中村俊輔(現・横浜FCコーチ)を擁する桐光学園を倒しているのだ。

その後、北嶋監督は柏レイソル、清水エスパルス、ロアッソ熊本でプレー。2013年末に現役を引退し、熊本、アルビレックス新潟、大宮アルディージャでの指導を経て、昨年からクリアソンへ。同時にJFA公認S級指導者ライセンスを取得し、今季から正式に指揮官に就任した。前任の成山一郎監督(現コーチ)とともに1年間、選手たちを見ていたこともあり、積み上げのある状態で今季を迎えられた。

かたや小野木監督は、明海大を経て、ジェフユナイテッド千葉や清水のアカデミーで長く指導。プロ経験はないが、北嶋監督を上回る20年以上の現場経験というストロングがある。

「昨年末に突然、タカ本人から電話で監督就任を打診された。彼とは面識がなかったけど、おそらく(清水東の先輩に当たる清水の)山崎光太郎(スカウト)を通じて白羽の矢が立ったのかな」と小野木監督は言う。

トップチーム指導は初めてだったが、断る理由はない。二つ返事でOKし、今年からチームを指揮。プレシーズンは複数のJクラブと練習試合を消化し、組織力を高めた模様だ。まさに因縁深い2人が率いる両者の対戦ということで非常に興味深かった。

試合では、昨季は11位だったクリアソンが、同最下位でVONDS市原との入替戦で何とか残留した沖縄SVを圧倒すると見られたが、主導権を握ったのは後者。3-5-2の布陣を採るクリアソンの左サイドが高い位置を取ってくるのを見逃さず、左SB安在和樹からのダイアゴナルのパスを多用。そこに大卒新人の右SB山田涼太が突っ込んでいくシーンが繰り返し見られた。

33分の先制点につながったのも、この形。山田がPKを誘い、キッカーを務めたキャプテンの荒井秀賀が一度はGKに防がれたものの、自らこぼれ球を決めた。

ここから沖縄SVが畳みかける。荒井のミドルをGKが弾いたところに反応した池高暢希が2点目を決めると、後半にも左CKから池高が3点目をゲット。途中出場の伊集院雷がダメ押しとなる4点目を挙げ、終わってみれば4-0。沖縄SVが快勝を飾り、得失点差で“首位スタート”となった。

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「僕らは昨季、JFL最下位で入替戦の末に残留を勝ち取ったという過去がある。それを踏まえて新たな挑戦をしていこうというのが今季。僕の就任もその1つだし、まずは積極的に仕掛けていこうという姿勢を選手に求めています。タカからも『任せる』と言われているので、自分はそれに応えるだけの仕事をしたい」と、小野木監督は初勝利後に神妙な面持ちで語っていた。

確かに昨季のチームに比べると攻守両面で役割や戦い方が整理されたように映る。敵の弱点を容赦なく突いていく老獪さも示しており、今季の沖縄SVは台風の目になるかもしれない。そんな印象を見る者に与えたのではないか。

逆にクリアソンは予期せぬ大敗。北嶋監督は「本当にたくさんの方がクリアソンを支えてくださっているなかで、このような結果はなかなか受け入れがたい」と厳しい表情を浮かべる。

「すごく相手に圧倒されたとかそういう感覚はないですけど、やっぱりキワのところ。セットプレーやPKを与えてしまうところを含めて慌ててしまう。ミスは起こりえると思うけど、そういう悪いところが全部出た」と反省しきりだった。

特に気になったのは、沖縄SVが徹底していた左から右へのダイアゴナルのパス、相手右SB山田の上がりを阻止する守備の修正が遅れたこと。そこは北嶋監督自身も挙げていた点だ。

「左サイドバックの安在選手のところへのプレッシャーがうまくいかなくて、我々のインサイドハーフの小島心都が行く機会が多くなり、そこから相手にバイタルエリアに入られて、PKにつながった。相手右サイドバックへの対応も遅れたという個人的な反省があります」

こういった小さな綻びを未然に防ぐことができなければ、監督として勝利を積み上げるのは難しい。北嶋監督は同期対決で改めて指揮を執る難しさを痛感したという。

明暗が分かれた2人だが、ともに監督としての第一歩を踏み出したばかり。北嶋監督はここからJ3昇格という大目標に突き進まなければいけないし、小野木監督も最高のスタートの勢いを維持することが肝要だ。

「彼とはお互い全部を知っているような関係。それとは関係なく、今日は全力で倒しに行くつもりでやりました」と小野木監督が言えば、「市船で3年間一緒に戦い、クラスも同じで、ともに選手権で優勝した彼とこの舞台で戦えたのは本当に幸せ。市船出身の監督がたくさんいるなか、僕らもサッカー界の発展のために頑張っていきたい」と北嶋監督も力を込めた。

節目となった初陣から2人の新人指揮官がどのような軌跡を辿るのか。今後が楽しみだ。

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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