トランプ陣営の対日政策文書とはその6ロシアの侵略が日本を変えた

古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・自衛隊のミサイル能力強化は石垣島と南西諸島全般の防衛強化にはカギとなる。

・この動きがアメリカの対中抑止の軍事態勢に大きな寄与となる。

・ロシアのウクライナ軍事侵略が日本の防衛政策を変え、日米同盟の強化にも結びつく

アメリカ第一政策研究所(AFPI)の対日政策文書の全文紹介を続ける。

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自衛隊のこの種のミサイル能力強化は石垣島と日本のその他の南西諸島全般の敏速に継続中の防衛強化にはカギとなる。そのミサイル能力強化は中国人民解放軍を効果的に抑え込み、太平洋に進出していくことを防ぐ信頼できる抑止策となるからだ。アメリカの外交政策調査研究所の上級研究員フェリックス・チャン氏はこの最近の事態展開を以下のように分析していた。

「(この南西諸島周辺の)日本の基地群は中国の尖閣諸島奪取を完全に抑止することだけでなく、中国の海洋でのより広範な野望を抑えるという意図の戦略を示している。日本は2014年にこの紛争海域の近くの与那国島に海上偵察基地を開設した。日本側はその後すぐに日本本土から与那国島に向けて位置する琉球諸島のうちの数ヵ所の島々に対艦ミサイル発射の新たな基地群を建設する準備を始めた。最初の基地は奄美大島に建設された。この基地は12式地対艦誘導ミサイルを装備し、03式中距離地対空誘導ミサイルで防御されている。

日本当局はさらに同様のミサイル基地群を2020年には宮古島に、2022年には石垣島にそれぞれ建設した。これらのミサイル基地は中国が侵略の対象とする尖閣諸島だけでなく宮古島と沖縄本島との間にある宮古海峡を含む、中国海軍が太平洋に進出する際のすべての通過水路を攻撃範囲に入れてしまうこととなる」

写真)陸上自衛隊 石垣駐屯地

出典)@ishigaki_asf

以上の評価が明確に示すように、日本はいまやアジア太平洋海域での中国人民解放軍の膨張を防ぐ民主主義陣営の防衛線のくさびとなる戦略的な洗練性、動機、装備を有することとなったのだ。この動きがアメリカの対中抑止の軍事態勢に大きな寄与となることは指摘するまでもない。

日本と台湾にとってのロシアのウクライナ侵略からの教訓

ロシアのウクライナ侵略は日本の戦略的な思考と行動に大きな変化をもたらした。日本は2022年3月、それまで75年間も保持してきた軍事輸出規則の伝統を変える形で、ウクライナに対してロシアの侵略への防衛に必要な軍事関連物資を送ることを可能にする措置をとった。

さらに日本周辺での中国とロシアによる軍事行動はロシアのウクライナ侵略の開始以来、2.5倍も増加して、日本側を警戒させるにいたった。すでに述べたように、日本とロシアとの間には敵対的な関係の歴史があり、日本はロシアが占領する一部の領土を日本固有の北方領土と宣言して、その返還を要求している。その敵対の土壌がロシアのウクライナ侵略という新たな軍事行動によって、日本国内のロシアへの認識を硬化させ、同時に日本自身の防衛力の増強への世論を押し上げたのだった。

その一方、日本は自国内で必要な天然ガスの10%をロシア領のサハリン島で産出されるから購入し、このロシア側の産出プロジェクトに日本の企業が投資している。日本国内の一部からはこの日本のエネルギー面でのロシア依存にも反対の声が起きている。

日本の著名な政治家の林芳正氏は外務大臣だったときに、ロシアのウクライナ侵略のような行動は世界の他のいかなる地域でも繰り返されるようなことがあってはならず、「明確な失敗」として世界で認知されねばならない、と強調した。でなければ、中国のような他の国々が国際的な現状を「残酷な武力の論理」によって変更するようになる、という指摘だった。

林氏は2022年5月の日本周辺でのロシアと中国の両空軍による爆撃機飛行共同訓練に触れて、中国とロシアの軍事協力の強化は日本にとって急速に拡大する安全保障上の懸念対象だとも警告した。

さらにそれに加えて日本の2022年度の防衛省の防衛白書は中国が明白な「侵略国家」となったロシアとの協力関係を深めることへの日本としての警告を表明していた。要するにロシアのウクライナへの軍事侵略が日本の防衛面での政策や意識を変え、日米同盟の強化にも結びつくという現象が起きたのである。

(その7つづく、その1その2その3その4その5

トップ写真:最前線でロシアの無人機を捜索しながら、ZU-23対空機関砲の後部に立つウクライナ第72旅団対空部隊の隊員 2024年2月23日 ウクライナ マリンカ近郊

出典:Chris McGrath/Getty Images

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