【フィリーズレビュー回顧】エトヴプレの逃げ切りは近2走に布石あり 本番でよさそうなセシリエプラージュ

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コラソンビートに集まった視線

チューリップ賞に続き、フィリーズレビューも波乱が待っていた。阪神JF5着以内のうち、1、2着は桜花賞直行。4着サフィラがクイーンC9着で桜花賞出走が危うくなり、3、5着がここに駒を進めた。ある意味でチューリップ賞より出走メンバーがそろいながらも波乱決着。桜花賞は直行した1、2着馬ですんなりいくだろうか。どうも今年の春は牡牝とも荒れ模様の予感がある。

このレースの核はコラソンビートだった。阪神JF3着の3勝馬で実績的には完全に抜けた存在といえる。結局、この馬の位置取りがレース結果を左右した。栗東へ早めに入厩したことで、平常心を保ち最内からソツなく好位に収まった。スプリントで勝ちあがった馬を中心に、行きたい馬にとって好位のコラソンビートは早々に離しておきたい存在だ。その意識が高まり、前半600m33.8と序盤から速い流れになった。最内の絶好位に人気馬がいるため、ペースを落とすわけにはいかない。先行馬は厳しい流れに身を投じた。

コラソンビートの後ろにいる馬たちのターゲットも当然、最内にいる1頭。この馬より先に動きたくない。先行勢のハイペースの影響もあり、途中で動く馬はほぼいない。前が飛ばし後ろが動かない。各馬の意識はコラソンビートに集まった。ハイペースでもあり、止まるだろうというスキをついたのが逃げたエトヴプレだ。11番人気で失うものはない。桜花賞出走を目指すなら行くだけ行ってスピード勝負しかない。作戦をひとつに絞れたことで迷いなきレースに持ち込めた。

前に行く馬はいつか恵まれる

エトヴプレはキャリア5戦すべて1200mという生粋のスプリンター。コラソンビートを含め好位勢も坂で止まると踏んでいたのだろう。ところがこれが止まらなかった。逃げたのは新馬戦だけ。好位で控えるレースを経験しつつ、1400mでも上手に走る術を身につけていた。序盤600m33.8は近2戦と同じペースで走りやすかった。急坂から残り200mを踏ん張れたのはエトヴプレの進化であり、コラソンビート包囲網の間隙をついたものだ。行けばわかるさ。前に行く馬はいつか必ず恵まれる。エトヴプレにとってそれが今回だった。

父のトゥーダーンホットはサセックスSなどGⅠ・3勝のスプリントチャンピオン。その父ドバウィといえば産駒が欧州各地や米国、香港、豪州など世界中のGⅠを勝つ世界的種牡馬。あらゆる環境に適応する力を内包する。父が短距離系なのでマイルまでこなせるか微妙で、桜花賞でもとはいえないが、エトヴプレが権利を獲得したことで本番は締まった流れになりそうだ。

外回りのマイル戦に替わって面白いのは

2着コラソンビートはライバルたちの視線を一手に引き受けながらもインから抜け出した。レースが上手で馬群も苦にしない。やはり混戦向きの強さを感じた。狭いところを通ってきたため弾けきれなかったかもしれないが、阪神JFと同じく急坂を上がって脚が鈍ったようだ。距離というよりまだまだ完成は先かもしれない。東京のような緩い坂なら問題ないが、次走で阪神の坂を克服できるか。本番はそこにかかっている。

権利がかかった3着争いを制したのはセシリエプラージュ。前走京都芝1400mの平場4着と目立った実績がなく12番人気も納得。4コーナーまで外に出さず、直線に向く手前で外に出したのは見事だった。末脚身上の馬で、その武器を最大限生かせた。

母アットザシーサイドは連勝で挑んだ阪神JFで5着、フィリーズレビュー2着、桜花賞3着の実績を持つ。母と同じような道をたどって本番へ向かう。母が3着だった桜花賞を勝ったのがジュエラーで、その鞍上が今回騎乗したM.デムーロ騎手と因果を感じる。ついでに祖母ルミナスハーバーは阪神JFでウオッカの3着。フィリーズレビューは7着に敗れたが通算4勝をあげた。その母タックスヘイブンもクイーンC3着と2、3歳戦で結果を残す牝系だ。社台ファームが90年代はじめから30年以上育んだ血でもあり、セシリエプラージュの次走は一族の悲願がかかる。フィリーズレビュー組で外回りのマイル戦に替わってよさそうなのはこの馬だろう。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬中心の文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。



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