連載『lit!』第92回:SUPER BEAVER、ハンブレッダーズ、The Last Dinner Party……新時代担うロックバンド注目アルバム5選

週替わり形式でさまざまなジャンルの作品をレコメンドしていく連載『lit!』。この記事では、先月リリースされた国内外のロック作品を中心に、5枚の新作アルバムを紹介していく。

特に、今回ピックアップした海外のロックバンド2組について、The Snutsは5月に来日公演を控え、The Last Dinner Partyは7月に行われる『FUJI ROCK FESTIVAL’24』への出演が決まっている。ぜひこの記事をひとつのきっかけとして、それぞれのアーティストや楽曲への興味や理解を深めてもらえたら嬉しい。

■SUPER BEAVER『音楽』
SUPER BEAVERが『COUNTDOWN JAPAN 23/24』初日、メインステージのトリを務めた時、渋谷龍太(Vo)は、その日のステージが彼らにとって「2023年102本目のライブ」であると告げていた。「ひたむき」、「グラデーション」、「儚くない」をはじめとした大型タイアップ曲を次々とドロップしていることが表すように、今の彼らは自分たちの認知と支持をこれまで以上に拡大させていく過程にあるが、それでも、4人にとっての主戦場はライブのステージの上であることに変わりはない。一本一本のライブが真剣勝負。その実直な積み重ねによって深め続けてきたロックバンドとしての自信、そして目の前の一人ひとりの観客との〈気持ちの往来〉を繰り返すなかでさらに揺るぎないものになった眩いメッセージ。そのすべてを詰め込んだ最新アルバムに、彼らは『音楽』と名づけた。渋谷のお決まりの言葉「レペゼン・ジャパニーズ・ポップ・ミュージック、フロム・トーキョー・ジャパン」に照らし合わせて言えば、まるでセルフタイトルのようなアルバム名だ。毎回そうではあるのだが、今回は特に全編から「これぞ渾身の自信作」と言わんばかりの熱き気概を感じる。

特筆すべきは、幕開けと幕引きを担う2曲。すでに新たなライブアンセムと化している1曲目「切望」について、渋谷は、Xで「SUPER BEAVERの今の顔。俺たちの音楽。無論あなたを含めた“俺たち”だ。」という言葉を残している(※1)。アルバムラストを締めくくる「小さな革命」では、他でもない一人ひとりの〈君〉に〈小さな革命〉の〈当事者であれ〉と力強く呼びかける(そのメッセージは、これまでのライブにおける渋谷のMCと通じ合うものである)。〈音楽で世界は変わらないとしたって/君の夜明けのきっかけになれたら〉、世界は一人ひとりの〈小さな革命〉から変わっていく。そして、『音楽』は、そのきっかけになることができる。それこそが、4人が無数のステージに立ち続けるなかで、リスナーとのダイレクトなコミュニケーションを重ねるなかで得た輝かしい確信であり、その確信をひとつの作品へと美しく結実させた今作は、まさに生粋のライブバンド・SUPER BEAVERだからこそ生み出し得た新たな最高傑作と言えると思う。

■ハンブレッダーズ『はじめから自由だった』
渾身のダンスナンバー「DANCING IN THE ROOM」が象徴的なように、今作はこれまで以上にダイレクトかつフィジカルに訴求するダンサブルなナンバーが増え、また、「十七歳」や「無駄な抵抗」をはじめ、豊かなバンドアンサンブルや遊び心溢れるリズムを追求した楽曲も多い。もちろん、ハンブレッダーズの最強の武器としての8ビート&4つ打ちナンバーの最新型も多数収められていて、総じて、かつてないほどバラエティに富んだ一作となった。アルバムタイトルに則して言えば、より自由な広がりを得た今作だが、それぞれの楽曲に込められたメッセージはやはりブレない。

昨年8月、メンバーに取材した時にムツムロ アキラ(Vo/Gt)は、「『大丈夫だぞ』って、曲ごとに違う言葉で毎回言っているバンドだと思います、ハンブレッダーズは」と語っていた(※2)。そのスタンスは今作にも貫かれていて、論理や理屈を超えた全能感を授けてくれる「はじめから自由だった」や「サレンダー」があれば、ピンチに駆けつけてくれるヒーローのような宣誓〈後ろ髪引かれた時は僕が切ってやるから!〉を込めた「グー」のような曲もある。このアルバムは、「THE SONG」の〈ヘッドフォンをしろ!〉というリスナーへの呼びかけによって締めくくられる。ヘッドフォンをしてロックの世界に飛び込むのは、決して現実逃避をするためではない。ムツムロが「大丈夫だぞ」という想いを込めたそれぞれの曲は、私たちリスナーの背中を、時に強く、時に優しく押し、現実へ立ち向かう手助けをしてくれる。そして、〈見覚えのある拘束〉が蔓延る世界のなかにおいてもなお、私たちは『はじめから自由だった』と気づかせてくれる。今作は、ロックにはそうした魔法のような力があることを今一度フレッシュに思い出させてくれるアルバムであり、世代を問わず多くのロックリスナーの心を震わせる普遍的な力が宿っているように思う。

■ねぐせ。『ファンタジーな祝日を!!!』
満を持してリリースされた初のフルアルバム。初期ナンバーの再録版「猫背と癖 (fantastic ver.)」、「花束が似合う君へ (fantastic ver.)」、「スーパー愛したい (fantastic ver.)」や、TikTokなどショート動画でのバズを通して彼らの存在を広く世に知らしめるきっかけとなった「グッドな音楽を」、そしてメロウなテイストを前面に押し出した新機軸の一曲「恋と怪獣」など全10曲を収めた今作は、彼らの結成以降の歩みを凝縮した、ひとつ集大成的な一作となった。多くの楽曲に共通するのが、快活で軽快なバンドアンサンブル。なかには、爆速ロックンロールチューン「あの娘の胸に飛びこんで!」のような熾烈な曲もあるが、ほとんどの楽曲は自然体でカジュアルな佇まいであり、ねぐせ。の世界にそっと優しく誘い込むような不思議な吸引力、豊かな包容力がある。

では、ねぐせ。の世界とはいったいどのようなものか。それを指し示すキーワードが、前作にあたる3rdミニアルバム『ワンダーランドに愛情を!』との連続性を感じさせる今作のタイトル『ファンタジーな祝日を!!!』である。祝日と聞くとワクワクする人は多いと思う。決して楽しいことばかりじゃない、なんなら大変なことや面倒なことばかりの平日を経て、ついに辿り着いた祝日。ただでさえ特別なその一日を、もっと特別な、ファンタジーな日にしよう。なんなら、平日も丸ごと最高な日々にしてやろう。今作に貫かれているのは、そうした大胆なポジティビティだ。“タイムマシン”、“怪獣”、“スペースシャトル”をはじめとしたフィクショナルなモチーフが象徴的なように、それぞれの曲には、日々の小さな出来事を壮大なスケールで描くりょたち(Gt/Vo)の筆致が冴えわたっている。また上述した温かなサウンドと相まって、うだつの上がらない日々や失恋を歌った曲であったとしても、そのなかにいまだ見ぬ未来へ向けた希望的なフィーリングを確かに感じ取ることができる。〈気が沈んだ時こそ聞いてみよう/音楽にはそんな力がある〉(「グッドな音楽を」)――その深い確信が詰まった今作の楽曲たちが6月の日本武道館単独公演『ファンタジークライマックス』で、どのような景色を描き出していくのか、期待が高まる。

■The Snuts『Millennials』
スコットランド出身の4人組ロックバンド The Snuts。ギターロック、特にUKロックが好きなリスナーにとって、この数年間ずっと目が離せない存在である若手バンドだ。彼らのルーツは、The LibertinesやArctic Monkeys。そうした偉大な先人たちからUKロックの真髄をまっすぐに継承し、2020年代におけるUKロックシーンの王道を闊歩する姿がとても眩しい。昨年の『SUMMER SONIC 2023』では待望の初来日を果たし、InhalerやNOVA TWINSらとともに、UKロックシーンの最前線における熱きリアルを堂々と示してくれた。まさに今、破竹の勢いで躍進し続ける彼らから届けられた今回の新作。まず、軽妙に躍動する鮮やかなギターサウンドが光るオープニングナンバー「Gloria」からして最高で、その後も次々と親しみやすさに満ちた爽快なギターロックナンバーが畳みかけられていく。なかには、ディスコポップに大きく接近した「Deep Diving」もあり、全編から聴く者を問答無用で踊らせようとするバンドの意図が伝わってくる。不穏でシリアスなテイストが強く打ち出されていた前作と比較すると、今作に至る変化の大きさが浮き彫りになる。ジャック・コクラン(Vo/Gt)は、今作について「今は、何かを分析するのに時間を掛けたい時代ではないと思います。初めて聴いたときに感じてもらいたいのです」と語っていて、そうした時代感覚があったからこそ、今まで以上に感覚的に楽しめるキャッチーなテイストに着地したのだと予想できる。その感覚がきっと間違っていないことは、これから数々のライブの場で証明されていくはずだ。

数ある楽曲のなかでも筆者が特に心を掴まれたのが、ロックアンセムとしての輝かしい存在感を放つタイトル曲「Millionaires」。コーラス(サビ)のメロディラインは、ライブで観客の歌声が重なることを想定して紡がれたであろうもので、フロアから壮大なシンガロングが巻き起こる光景をはっきりとイメージすることができる。ラストの一曲「Circles」の終盤も同様で、「早く彼らのライブをスタジアムで観たい!」という気持ちが抑えきれなくなるし、彼らが『SUMMER SONIC』や『FUJI ROCK FESTIVAL』のメインステージを沸かす日が来るのはそう遠くはないと思う。

■The Last Dinner Party『Prelude to Ecstasy』
2021年にロンドンで結成された5人組ロックバンド。昨年4月に「Nothing Matters」をリリースして以降、イギリスのBBCが149人の音楽業界関係者からの投票をもとに作成した活躍が期待される新人リスト「Sound Of 2024」の第1位を獲得するなど、数々のアワードで脚光を浴び、瞬く間にして大きな注目と支持を集める存在となった。すぐにその存在感は海を越えて拡大し、数曲しか楽曲をリリースしていない段階にもかかわらず、アメリカツアーのチケットはソールドアウト。この日本においても、昨年からその名が少しずつ響き始めていて、先日『FUJI ROCK FESTIVAL’24』への出演が発表されたことでも注目度が高まったと思う。そして、(これまで各先行シングルを通して小出しにされてきた)彼女たちの表現の全容が初めて示されたデビューアルバム『Prelude To Ecstasy』は、事前に高まり切った期待を大きく超えていく素晴らしい作品だった。

アルバムタイトルを冠した1曲目「Prelude To Ecstasy」は、文字通り前奏曲の役割を果たしており、まるで映画のサウンドトラックのような劇的な旋律がこの後に待つ壮大な物語への期待を否応なく高める。そして本編で待ち受けているのは、インディーロックを軸に、ハードロックやグラムロック、クラシックの要素を大胆に掛け合わせた超重量級のアートロックである。感覚としては、オペラや中世ヨーロッパを描いた映画を鑑賞している時の体験にも近い。華麗で、毒々しく、ダークな世界観をベースにしながら、ドラマチックで、スリリングで、予測不可能な展開が容赦なく続き、クライマックスでは代名詞的な一曲「Nothing Matters」が至高のエクスタシーへと誘う。最後は、やがて来たるであろう第2章の物語への期待をそそる「Mirror」で締め(特に、ラスト約50秒の高揚感に満ちたアウトロは鳥肌モノ)。ロックというジャンルが元来誇るダイナミズム、マキシマリズムを、2020年代のシーンにおいて最大出力で再現してみせた彼女たちの大胆な野心と的確な手腕に、全編を通して何度も深く驚かされてしまった。次に気になるのが、この圧巻の完成度を誇る音源作品を打ち立てた彼女たちが、いったいどのようなライブパフォーマンスを繰り広げるのか、ということだ。徹底的に世界観が作り込まれたMVやライブ映像を観れば、彼女たちの音楽は“聴く”だけでなく“観て”楽しむものであることは明らか。『FUJI ROCK FESTIVAL’24』への出演はもちろん、いつかワンマンライブで彼女たちの描く世界に深く没入できる日が来ることを楽しみに待ちたい。

※1:https://twitter.com/gyakutarou/status/1761364555303920006
※2:https://realsound.jp/2023/08/post-1403654.html

(文=松本侃士)

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