【中山牝馬S回顧】道悪を味方につけたコンクシェル 踏ん張り合いの競馬で真価を発揮するキズナの血

ⒸSPAIA

道悪の中山牝馬Sは逃げ馬

1番人気フィアスプライドのオッズは4.3倍。単勝一桁台が7頭と例年通り混戦だった今年は、馬場と展開が勝敗に大きく影響した。今週の中山は前日金曜日の雪、雨のほかに火曜、水曜にあわせて28.5ミリの雨量を記録した。この日も芝は直前まで重馬場の稍重。強い風が吹いても、馬場の乾きは緩やかだった。

中山牝馬Sは過去10年、逃げ馬【1-1-0-8】とイメージほど先手を奪った馬は残れない。脈ありの馬が多い混戦では、展開は早めに動いていき、逃げ馬がなかなかマイペースを貫けないレースだ。しかし、これを馬場状態別にすると、良【0-0-0-7】、良以外【1-1-0-1】。道悪になると、途端に逃げ馬が躍動する。切れ味が身上の牝馬にとって、中山のタフな道悪は体力を削られやすい。

キズナ産駒の特徴

稍重馬場発表の時点で逃げる馬を当てられれば、的中できたはずだ。だが、グランスラムアスクやフィールシンパシーなど逃げて好走した馬たちがいて、すんなりコンクシェルが逃げられるとは思えなかった。しかし、ゲートが開けば、先手を主張したのはコンクシェルただ1頭。外枠に入ったフィールシンパシーにとって1コーナーまでの205mは短すぎた。結果、先行争いは1コーナーまでにすんなり決着がついた。中山芝1800mで早めに隊列が落ち着けば、断然、先行勢のレースだ。ましてこのレース、道悪の逃げ馬は止まらない。

とはいえ、コンクシェルにとって楽だったかというと、そうでもない。ペースが上がったのは残り1000mと早く、ラップは11.9-11.3-11.9-11.7-12.6。3コーナーで後ろを引き離しにかかるも、フィールシンパシー、ヒップホップソウル、フィアスプライドについて来られた。だが、苦しくなったのはついてきた先行勢だった。

父キズナの産駒は春の中山重賞に強く、タフなタイプが多い。キズナ産駒は苦しい場面での踏ん張りがちがう。今回のような強気な競馬こそがぴったりだ。父の父ディープインパクトよりその奥にあるウインドインハーヘアに流れる血や母系のストームキャットが強い。切れ味で劣るため負けるときは見せ場なく終わるが、踏ん張り合いで真価を発揮する。そういった意味でも、豊富な乗り込み量を身上とする清水久詞厩舎は合う。キズナ産駒の成績をみると、同厩舎は3/3終了時点、29勝で2位につけている。

北風の影響もあり、最後200mは12.6とかかったが、ここで馬場のいい外側へコンクシェルを持ち出した岩田望来騎手の味つけも見逃せない。苦しいときこそ、走りやすいところへ。馬場を読んだ柔軟な騎乗も光る。ククナの猛追を交わせたのは望来騎手の好プレーも要因だ。

キズナと似たサトノダイヤモンド

後半の動き出しが早く、先行勢にとってキツい展開になったとはいえ、タフで差しにくい馬場のなか、鋭く伸びたのが2着ククナだ。ペースの割に差してこられない。そんな難しい状況下だっただけに、ククナの2着は価値がある。良馬場なら差し切っていてもおかしくない。キャロットファームの6歳牝馬。これが引退レースだろう。重賞2着4回と惜しくもタイトルに手が届かなかったが、決め手上位の力はあった。恵まれなかったといえば、それまでだが、ぜひ産駒に自身の能力を伝え、その悔しさを晴らしてほしい。ファンは競馬場で待っている。

3着シンリョクカはリバティアイランドが勝った22年阪神JF以来の馬券圏内だった。オークス以降、一貫して中距離路線を歩んできたが、エリザベス女王杯0.5秒差など決して見劣らない。今回は早めにペースアップするタフな展開のなか、先に動いた外の馬たちをインでやりすごせたのが好走要因だろう。ひと呼吸置いたことで、最後まで粘れた。

サトノダイヤモンド産駒も父の母系が色濃く出ているようで、キズナと似たところがある。タフなレースに強く、持続力に優れている。切れ味や軽さがない分、芝の良馬場や高速トラックでは目立たないが、今回のような馬場と展開は合う。シンリョクカの母レイカーラは4歳で能力を開花させた。まだまだ重賞で活躍できる。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬中心の文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。



© 株式会社グラッドキューブ