【金鯱賞回顧】連覇プログノーシスが見せた「5馬身差」の貫禄 中距離で苦戦の4歳牡馬、ドゥレッツァは伸びしろに期待

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4歳牡馬の立ち位置

連覇を狙う6歳プログノーシスと4歳ドゥレッツァの対決は世代間の力関係を計る、とりわけ4歳牡馬がどこまで通用するか見極める一戦だったといえる。

プログノーシスは昨年、金鯱賞を勝ってGⅠでは2、3、5着。札幌記念Vと中距離路線のトップ戦線を戦い抜いた。特に天皇賞(秋)では1.55.8で3着。イクイノックスに懸命に食い下がった。かたや4歳代表ドゥレッツァは同世代のタスティエーラ、ソールオリエンスが古馬に勝てないなか、一矢報いて、世代を代表する存在として抜け出せるか。プログノーシス相手に結果を残せるかどうか。しっかり見定めないといけなかった。

というのも、4歳牡馬は年始から3月3日までに重賞で3勝を挙げるも、マイル以下の距離ばかり。芝1800m以上の重賞では日経新春杯の2、3着サヴォーナとサトノグランツ、京都記念はベラジオオペラが2着と勝利がない。

参考までにドウデュース、イクイノックスと同じ昨年の4歳勢は、同期間で芝1800m以上の重賞を3勝していた。世界ナンバー1がいた世代と比較するのはちょっとかわいそうな気もするが、ドゥレッツァが敗れれば、連敗がまだまだ伸びそうな予感が漂う。結果はプログノーシスの完勝。2着ドゥレッツァは5馬身差つけられてしまった。久々の2000m戦出走という事実はハンデといえばそうだが、5馬身では実力差を感じざるを得ない。

パーフェクトだったプログノーシス

圧倒して連覇を達成したプログノーシスは若い頃の気難しさや体質の弱さを抱えていたが、6歳となってむしろ強くなったようだ。

今年はじめて競馬が開催された中京芝は状態がよく、当然インを回る馬が優位に立てる。逃げ馬不在のこの一戦、前残りで一発を狙う馬たちが複数あらわれ、先行争いは予想外に激しくなった。スローが予想されるときは速くなり、ハイペース想定では遅くなる。競馬の展開は逆に出る。

川田将雅騎手は先行勢の動きを察知し、無理な手に出ない。この落ち着き払った騎乗こそ、日本を代表する騎手の証。折り合いに集中し、インで勝負のときを待つ。前半1000mは58.4と遅くなく、先行勢は力がないと残れない。中京芝2000mは前半1000mが上り区間、そこから残り400mまで下りが続く。58.4では展開を味方につけられない。

プログノーシスは下りに転じた残り800mからじわりと進出開始。4コーナーはインの5番手とベストポジションにいた。いつでもスパートできる態勢をつくり、状況に応じて仕掛ける。人馬ともに円熟味ある競馬だった。終始インを通って上がり最速34.3。ワンサイドも納得の記録だった。

さあ、残るはGⅠタイトルだ。今季の最大目標は昨年2着に敗れた香港だろう。シャティンの2000mは枠順など不安定な要素も多い。しかし、今回のように立ち回れるなら、チャンスはある。未来を考えれば、GⅠタイトルは何としても奪取してほしい。

ヨーホーレイクの背中を押したもの

2着ドゥレッツァは5馬身も離された。菊花賞を走ったあとで、積極的な運びができなかった。

リズムを整えた結果、プログノーシスの前で流れに乗ったのは悪くなかったが、4コーナー手前の動きたいタイミングで前に壁ができてしまい、それを交わそうと直線で外に持ち出す間に先に内から抜け出されてしまった。5馬身はスパートまで手順を要した分ではあるが、やや離されすぎた。プログノーシスほど末脚が鋭くなく、もう少し自由に動けるレース運びが理想ではないか。

とはいえ、4コーナーで前にいながら離されたのは力差も認めざるを得ない。得意条件ではなかったこと、スムーズにスパートできなかったこと。これらを差し引いても、昨年イクイノックスと対戦してきた5歳以上とは差があるようだ。

しかし、5歳以上にはない伸びしろがドゥレッツァにはある。まだまだ能力の空白地帯が残っており、こうして実戦を重ねていき、そこを埋めていけば逆転できる。いずれ強敵を打ち破る可能性にかけよう。それこそが若さというものだ。

前後半1000m58.4-59.2。ラップを並べれば、12.7-10.7-11.6-11.5-11.9-12.5-12.0-12.0-11.2-11.5で序盤が速く、中盤でわずかに緩み、最後400mが速いというハイレベルな戦いだったことがわかる。途中からハナにいったエアサージュ以下、先行勢がみんな止まってしまった状況を踏まえると、3着ヨーホーレイクは立派だ。

2年前の日経新春杯から屈腱炎で休養。久々の実戦でハイレベルな重賞3着。逆の展開だったことも加味して称えよう。クロウキャニオンの仔といえば、先日RRC(引退競走馬杯)で活躍したクリアザトラックが死亡した報に触れたばかり。天国から兄が応援してくれたのではないか。競馬にはこんな不思議なこともある。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬中心の文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。新刊『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。


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