10位入賞ハースの小松代表は「戦略の勝利」を強調する一方、RBは「スポーツマンらしくない」と非難…角田裕毅はライバルを口撃せず

F1第2戦のサウジアラビア・グランプリ、3月9日に開催された決勝ではニコ・ヒュルケンベルクが10位入賞を果たし、ハースに今季初のポイント(1点)をもたらした。

開始から6周目にランス・ストロール(アストンマーティン)のクラッシュでセーフティーカーが出動した際、他車が一斉にピットインする中で、ステイアウトしたヒュルケンベルクは、ポジションをキープして入賞圏を最後まで守り切ることに成功したが、この戦略において大きな貢献を果たしたのが、チームメイトのケビン・マグヌッセンだった。

このデンマーク人ドライバーは、序盤にアレクサンダー・アルボン(ウィリアムズ)と接触して10秒のタイムペナルティーを受け、その後にはコース外から角田裕毅(ビザ・キャッシュアップ・RB)を抜いたことで、さらに10秒を加算されることになり、この時点で入賞の可能性はほぼ潰えた。

すると、彼は前方のヒュルケンベルクをサポートする役に徹し、意図的に2秒ほどラップタイムを落として後方の角田らを抑えることで、チームメイトとのギャップを広げさせる。これにより、ヒュルケンベルクはタイヤ交換を終えた後もマグヌッセンの前でコースに復帰でき、これで10位の座がほぼ確実となった。

2017年のハンガリーGPではレース中のインシデント(マグヌッセンが当時ルノーのヒュルケンベルクをコース外に押し出した)でかの有名な口論を展開した2人のドライバーだが、1ポイントを獲得したドイツ人ドライバーはレース後、「今日はケビンのチームワークもあり、僕がピットウィンドウを作れるように他車を遅らせてくれた。完璧なチームワークであり、シーズン後半には彼に恩返ししたいと思う」と、チームメイトへ感謝の意を示している。

対して、マグヌッセンも「僕自身は良いペースだったが、残念ながら2度のペナルティーを受けてしまい、素晴らしい日とはならなかった。しかし、ニコがピットインするためのギャップを作るためにライバルたちを後方に抑えたということで、それを補えたと思う。これによって彼がポイントを獲得できたのは、非常に重要なことだった」と、チームプレーで得た成果に満足感を表わした。

そしてハースの小松礼雄代表は、「素晴らしいチームワークでした。10位の座をめぐり、他の8人のドライバーとの戦いとなり、チャンスを活かすためには全てが完璧でなければなりませんでした。ケビンが2度のペナルティーを受けて争いから脱落したと分かると、我々は素晴らしい判断を下した。ケビンは、その間にターゲットラップタイムを設定しながら素晴らしいドライブをしてライバルを後退させ、ニコも完璧なドライブをしました。これは大きなチームワークの成果です」と、戦略の勝利であることを強調している。
F1の公式サイト『F1.com』は、「マグヌッセンのレースが大きく損なわれた状態で、チームはヒュルケンベルクがピットインしてポイント圏内に留まるのに十分な時間を作るようにデンマーク人に依頼。そして、彼は見事にその任務を果たした」と伝え、元F1ドライバーのラルフ・シューマッハーはスポーツ専門チャンネル『Sky Sports』で「素晴らしい仕事」とマグヌッセンを称賛。イタリアの自動車専門サイト『MOTORIONLINE』は「速度を落としながらも攻撃的なドライビングを維持し、わずかに興奮を提供した」と彼を評した。
しかし、マグヌッセンはペナルティーを受けたとはいえ、角田を乱暴に追い抜いた後でポジションを回復することなく、その後も抜き返されそうになってRBをコース外に押し出す(これで角田はさらに順位を落とすことになった)などの行為を見せた末に、終盤に再びラップタイムを上げたことで周回遅れを免れ、結果的にペナルティー(タイム加算)が意味をなさなかったことは、とりわけRBにとっては「アンフェア」と映っているようだ。

ローラン・メキーズ代表は「ユウキのレースが台無しにされた」と嘆き、アラン・パーメイン・レーシングディレクターは「我々にとっては、それは正しくないことであり、スポーツマンらしくない行為そのものだ。今後のレースに向けて、FIA(国際自動車連盟)と話し合うことになるだろう」とハースの戦略を非難し、運営側に対して改善を求めていくことを明言している。

角田は、チームの公式サイトではその件には言及せず、自チームの車のペース、グリップ不足を指摘したが、2戦連続でマグヌッセンに抑え込まれ、先週とはまた異なる形で悔しい思いをした彼としては、ライバルを口撃することよりも、彼らを抜き切れる車の開発、自身のパフォーマンスやチームの戦略の向上の方が、今後に向けては大事なはずだ。ハースの仕掛けた罠に嵌ったRBにとっては、あらゆる面での「改善」が求められる週末だったと言えよう。

構成●THE DIGEST編集部

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