米アカデミー賞、日本の2作品が受賞 「君たちはどう生きるか」と「ゴジラ-1.0」

米アカデミー賞の授賞式が10日夜、ロサンゼルスで開かれ、スタジオジブリ製作、宮崎駿(※崎=たつさき)監督の「君たちはどう生きるか」が、長編アニメ映画賞を受賞した。また、日本の作品として初めて、「ゴジラ-1.0(マイナスワン)」が視覚効果賞を受賞した。

日本の作品が長編アニメ映画賞を受賞するのは、同じスタジオジブリ製作「千と千尋の神隠し」以来21年ぶり。宮崎監督にとって、2度目のアカデミー賞獲得となった。

一方、日本を描き外国長編映画賞にノミネートされていた、役所広司氏主演、ヴィム・ヴェンダーズ監督作品「PERFCT DAYS(パーフェクト・デイズ)」は、受賞を逃した。

宮崎監督の「君たちはどう生きるか」は、母親の死をきっかけに疎開した少年が、謎のアオサギと出会ったことで、幻想的な世界に足を踏み入れる物語。ゴールデングローブ賞や英アカデミー賞でもアニメ映画部門を受賞し、アカデミー賞への期待がかかっていた。

アカデミー賞の同部門では、「君たちはどう生きるか」と「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」との接戦が注目されていた。

宮崎監督とプロデューサーの鈴木敏夫氏は授賞式には出席しなかったが、記者団に読み上げられた声明の中で、鈴木氏は「とても光栄に思います」と述べ、7年前にこのプロジェクトが始まって以来、「宮崎駿も私もかなり歳をとりました」とジョークを飛ばした。宮崎監督は83歳、鈴木氏は75歳。

そのうえで鈴木氏は、「この年齢でこのような栄誉をいただき、感謝しています。これからも精進していきたいと思います。と語った。

スタジオジブリは2013年9月に宮崎監督の長編制作引退を発表していたが、監督は「君たちはどう生きるか」制作のために現場復帰。2017年2月に、復帰が発表された。

手描きで7年かけ製作

2003年に長編アニメ映画賞を受した「千と千尋の神隠し」は、英語以外のアニメーション映画として初めて同賞を獲得した。同スタジオからはこのほか、「風立ちぬ」と「ハウルの動く城」もノミネートの実績がある。

「千と千尋の神隠し」はその後、日本の歴代最高興行収入を記録し、19年間その記録を保持した。「となりのトトロ」も日本で最も人気のある作品のひとつで、トトロはスタジオジブリのマスコットキャラクターとなっている。

「となりのトトロ」は、イギリスのロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)が「My Neighbour Totoro」の題で舞台化。昨年、イギリスの優れた商業演劇作品に与えられるオリヴィエ賞では、作品賞(エンターテインメントあるいはコメディ劇部門)を含む6部門を受賞した。

アニメーションのゴッドファーザーと呼ばれる宮崎監督は2014年、その功績が評価され、アカデミー名誉賞を受賞している。

宮崎監督はこの時の受賞スピーチで通訳を介し、「私はとても幸運な男だと妻に言われます」と語った。

「紙と鉛筆とフィルムで映画を作ることができる、最後の時代に参加できたからです」

宮崎氏のアニメーションは手描きのため、「君たちはどう生きるか」の製作には7年を要した。一方、競合作品の多くはコンピューターで制作されている。

日本映画として初の視覚効果賞

視覚効果賞は、「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング」、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3」といった大作がノミネートされる中、「ゴジラ-1.0」が受賞した。同賞を日本の作品が受賞したのは初めて。

同作品のVFXは、山崎貴監督が所属する映像制作プロダクション「白組」が手掛けた。

「ゴジラ」の生誕70周年を記念した「ゴジラ-1.0」は、戦後間もない占領下の日本にゴジラが現れる物語。日本政府がゴジラに翻弄(ほんろう)され、外国の支援も得られないなか、民間人がゴジラに立ち向かっていく。

国内の興行収入は2024年3月3日時点で60.1億円を記録。アメリカでも、日本の実写映画として歴代興行収入1位となった。

受賞式には山崎監督のほか、VFXディレクターの渋谷紀世子氏、CGディレクターの高橋正紀氏、コンポジターの野島達司氏が参加。受賞が発表されると、山崎監督らはゴジラのミニチュアを持って壇上に上がった。渋谷氏は、昨年亡くなったプロデューサーの阿部秀司氏の写真も携えていた。

プレゼンターのアーノルド・シュワルツェネッガー氏とダニー・デヴィート氏からオスカー像を受け取った山崎監督は、用意した紙を見ながら英語で、「私のキャリアは45年前、スターウォーズなどの大作を見たショックから始まりました」、「ハリウッドから遠い場所からは、この場所(アカデミー賞授賞式)にたどり着くことは不可能だと思えました」と語った。

「ハリウッドの外で頑張っている皆さん、ハリウッドは私たちの声を聞いてくれました。この賞は、すべての人にチャンスがある証です」

最後に山崎監督が「We did it(やったぞ!)」とオスカー像を掲げると、客席から大きな拍手があがった。

「オッペンハイマー」との対比

「ゴジラ-1.0」は低予算で制作された映画だった。チームは楽屋からスピーチの壇上にいたるまで、ゴジラの模型を手にして授賞式に参加した。

山崎監督は記者会見で、同作品が受けた影響についてこう語った。

「たくさんのゴジラ映画を見ました(中略)ゴジラの本質をつかみたかったんです。ゴジラの起源は戦争の象徴です。観客が見たときに、恐怖が植えつけられるようにしたかった」

また、核実験によって力を得るゴジラと、核兵器開発に携わった人々を描いた映画「オッペンハイマー」の対比について尋ねられると、「『ゴジラ』は、戦争と核の象徴であるゴジラを鎮めるという話。この『鎮める』という感覚を世界が求めていたことが、ヒットの一部につながったのではないかと思います」と述べた。

その上で、「『オッペンハイマー』に対するアンサーの映画を、日本人としては作らなければいけないと考えています」と語った。

「オッペンハイマー」は今年の受賞式シーズンを席巻し、アカデミー賞では作品賞や監督賞、主演男優賞など7部門を受賞した。

(英語記事 Oscars 2024 Live Reporting/Oscars 2024: Japan's Hayao Miyazaki wins second Best Animated Film award

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