『ゴジラ-1.0』山崎貴がアカデミー賞受賞後に語った思い 『オッペンハイマー』への言及も

日本時間3月11日に授賞式が開催された第96回アカデミー賞で、『ゴジラ-1.0』が視覚効果賞を受賞した。同賞の受賞は日本映画に限らず、アジア映画において史上初である。本稿では北米でのヒットと、受賞スピーチおよび受賞後のバックステージインタビューの回答(全文)を紹介したい。

ゴジラ生誕70周年記念作品として製作された本作は、日本では11月3日(ゴジラの日)、北米では12月1日に公開。第二次世界大戦末期に、特攻から逃げた主人公の敷島(神木隆之介)と東京で出会った典子(浜辺美波)、さらに彼女が連れていた赤ん坊が家族となり戦後の日本で復興を試みるも、彼らは再びゴジラという不条理な脅威に晒されることになる。日本では興収60億を突破し、2023年公開実写作品で最大のヒット作となった。

北米では2月1日に上映が終了し、最終興行収入として5641万ドルを記録。北米公開の邦画実写作品の興行収入歴代1位となり、外国語実写映画においても歴代3位という素晴らしい結果を残した。

視覚効果賞のプレゼンターであるアーノルド・シュワルツェネッガーとダニー・デヴィートが『ゴジラ-1.0』の受賞を発表。会場にいた山崎貴監督と映像制作会社「白組」の渋谷紀世子、 髙橋正紀、野島達司らが、それぞれ本作仕様のゴジラを抱えてステージに上がった。山崎監督が持っていた金色のゴジラは「一番くじ ゴジラ-1.0」のゴジラを原型・彩色担当した酒井ゆうじ自身が特別塗装したものだそう。手持ちアイテムが多く、スピーチ原稿を広げるまで大変そうにしていた山崎監督だが、以下のスピーチを英語で披露した。

「四十年以上前『スター・ウォーズ』と『未知との遭遇』を観たショックからキャリアをスタートさせた私にとって、この場所は望むことすら想像しなかった場所でした。ノミネートの瞬間、私たちはまさにロッキー・バルボアでした。強大なライバルたちの前でリングに立たせてもらえた事はすでに奇跡でした。しかし私たちは今ここにいます。この場所から遠く離れた所でVFXを志しているみんな! ハリウッドが君たちにも挑戦権があることを証明してくれたよ。最後にスタッフキャストを代表して去年失った我々のプロデューサー・阿部秀司さんに言いたい。俺たちはやったよ!」

会場からはノミネーション作品としてタイトルが紹介された時点から他作品以上に歓声が聞こえ、実際に受賞した際も多くの人が喜びの声をあげていた。そのことから、『ゴジラ-1.0』が多くのハリウッド人から愛されていることを実感した。本アワードで監督賞のプレゼンターとしてステージに立ったスティーヴン・スピルバーグも『ゴジラ-1.0』を絶賛する1人で、先日山崎監督と撮った写真も話題になっていた。また、今回の受賞を受けて怪獣映画の大ファンでもあるギレルモ・デル・トロ監督も喜びをツイートで表現している。

KAIJU KING + Tokusatsu = OSCAR

— Guillermo del Toro (@RealGDT) March 11, 2024

受賞後のバックステージインタビューでは、邦画初の快挙を成し遂げたことについて、日本映画業界にどんな影響を与えると思うかという質問に対し、山崎監督は以下のように答えた。

「まだそこまで実感が湧かないのですが、一つは日本の映画が海外でもある程度興行していければ日本の映画の環境は変わっていくと思いますし、僕らで変えていかなければいけないんじゃないかなって思っています。そのためにもこれからの行動がすごく重要になってくるんじゃないかなと思います」

また、『ゴジラ -1.0』が作品賞を受賞した『オッペンハイマー』の写し鏡になっているのではないかという記者の質問に対しても、以下のように答えた。

「おそらく作っている時、そういうことは全く意図されていなかったと思いますが、出来上がった時に世の中が非常に緊張した状態になっていることにはすごく運命的なものを感じます。やはりゴジラというのは戦争の象徴であったり、核兵器の象徴であるゴジラを何とか鎮めたりする話だと思うんですけど、その鎮めるという感覚を世界が今欲しているのではないのかなと、それが『ゴジラ-1.0』のヒットの一部に繋がっているのではないかと思います。それとは別に、『オッペンハイマー』に対するアンサーの映画は僕の個人的な思いとして、いつか本当に日本人として作らなければいけないんじゃないかと感じています」

監督自身が視覚効果賞を受賞するのは、『2001年宇宙の旅』でスタンリー・キューブリックが受賞して以来55年ぶりのことであり、山崎は彼に次ぐ史上2人目の受賞監督となった。
(文=アナイス(ANAIS))

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