アカデミー国際長編映画賞「関心領域」の英監督、ガザでの戦争について声明 受賞スピーチで

米アカデミー賞の授賞式が10日あり、アウシュヴィッツ強制収容所とホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を題材とした英作品「関心領域」が国際長編映画賞を受けた。ジョナサン・グレイザー監督は受賞スピーチで、パレスチナ自治区ガザで続く戦争に焦点を当て、ユダヤ人としての自分たちの存在やホロコーストが、ガザでの占領行為に「乗っ取られていることに異議を唱える」と述べた。

イギリス作品が国際長編映画賞を受けたのは初めて。アカデミー賞では5部門にノミネートされた。

「関心領域」はドイツ語映画で、アウシュヴィッツ強制収容所のルドルフ・ヘス所長の家族に焦点を当てている。ヘス所長は1940~1943年にアウシュヴィッツを運営し、その間、推定110万人が殺害された。うち約100万人はユダヤ人だった。

グレイザー監督は受賞スピーチで、製作スタッフへの感謝を述べると、事前に用意した原稿を読み上げた。

「私たちの選択はすべて、現在の私たちを映し出し、私たちと向き合うためのものだった。昔の人たちが当時何をしたか見てくれというのではなく、今の自分たちが今何をするか、見るよう求めるものだ」

「私たちの映画は、人間性の喪失が最悪の場合にどんな事態を招くかを示している。それは私たちの過去と現在のすべてを形作っている」

ユダヤ系のグレイザー監督はまた、「私たちは今、あまりに多くの罪なき人を巻き込む紛争に至った占領によって、ユダヤ人としての自分の存在とホロコーストが乗っ取られてしまった、そのことに異議を唱える者として、ここに立っている」と発言。

会場では、監督のこの発言に拍手する人たちもいた。

監督はさらに、「10月7日のイスラエルにおける犠牲者だろうと、今もガザで続く攻撃の犠牲者だろうと、人間性を奪い去る行為によって犠牲者が出ている。私たちはどう抵抗すればいいのか」と問いかけた。

パレスチナ自治区ヨルダン川西岸と東エルサレムのパレスチナ人は、1967年からイスラエルの占領下で暮らしている。

グレイザー氏は以前、自分の映画は「人間の能力の暗部をのぞき込む」もので、現在の問題にも関係するものだとBBCに話していた。

「この映画の中で描いたのは、私たちが人間として、お互いに何をするかだと思う」、「私たちは他人を自分たちより劣った存在、自分たちとは違う存在だと見ている。それがどういうわけか、次第に残虐行為へとつながっていく」と、監督は語っていた。

授賞式では、歌手ビリー・アイリッシュ氏、俳優マーク・ラファロ氏、「哀れなるものたち」のスターのラミー・ユセフ氏らが、ガザでの即時停戦を呼びかけるバッジをつけた。

ジョー・バイデン米大統領に宛てた公開書簡には、今年の賞にノミネートされたブラッドリー・クーパー氏やアメリカ・フェレーラ氏ら、アーティスト約400人が署名した。

停戦を求める動きは、会場のドルビー・シアターの外でも見られた。デモ隊が会場前の交通を妨害したため、授賞式は予定より若干遅れて始まった。

米メディアによると、会場前のデモには約1000人が参加した。会場に向かうリムジンの車列がデモ隊に進行を阻まれ、「キラーズ・オブ・ザ・フラワー・ムーン」のスター、リリー・グラッドストーン氏ら何人かのスターは車を降りなくてはならなかった。

イスラエル南部では10月7日、イスラム組織ハマスの武装集団の襲撃で約1200人が殺害され、約250人がガザ地区に連れ去られた。それら人質の多くがまだ生存しており、ガザで拘束されている。

イスラエルは大規模な砲撃とガザへの侵攻でこれに応じ、ハマスを壊滅させると宣言した。ガザではこれまでに3万900人以上が殺されたと、ハマスが運営するガザ保健当局は発表している。

国連は、ガザで飢餓が発生するのは「ほぼ避けられない」状況だとし、子どもたちが餓死していると警告している。

(英語記事 Zone of Interest director Jonathan Glazer makes Gaza statement in Oscars speech

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