「オッペンハイマー」が7冠、米アカデミー賞 平和へのメッセージ伝えるスピーチも

米アカデミー賞の受賞式が10日、ロサンゼルスで行われ、「オッペンハイマー」が7部門で受賞した。同作品は13部門にノミネートされ、史上最多受賞の期待もかかっていたが、いくつかの技術部門で敗れた。

「原爆の父」として知られる理論物理学者J・ロバート・オッペンハイマー氏の半生を描いたこの作品は、作品賞、主演男優賞、助演男優賞、監督賞、作曲賞、撮影賞、編集賞を獲得した。

オッペンハイマー氏を演じ、主演男優賞を受賞したキリアン・マーフィー氏は「圧倒されている」と語り、 「アイルランド人として、今夜ここに立っていることをとても誇りに思います」と付け加えた。

また、監督のクリストファー・ノーラン氏とプロデューサーのエマ・トーマス氏に、「最もワイルドで、最も爽快で、最も創造的に満足する旅に連れて行ってくれた」と感謝した。

スピーチの最後にマーフィー氏は、「私たちは原爆を作った男の映画を作り、良くも悪くも、皆オッペンハイマーの世界に生きています」と指摘。

「なので、世界中で平和のために活動している人たちに、この賞を捧げたいと思います」と締めくくった。

助演男優賞を獲得したロバート・ダウニー・ジュニア氏は、「自分のひどかった幼少時代と、アカデミーに、この順番で感謝します」とジョークからスピーチを開始。

「この仕事が私を必要とする以上に、私がこの仕事を必要としていた」、「仕事のおかげで、私はより良い人間としてここに立っている」と続けた。

ダウニー・ジュニア氏は。20年以上前に深刻な薬物中毒の問題を起こし、裁判所命令の薬物検査を欠席して実刑判決を受けた。しかしその後、「マーベル」シリーズのアイアンマン役で大成功のうちにハリウッドに返り咲いた。

今回の受賞は、自身初のアカデミー賞となった。

自身初となる作品賞と監督賞を獲得したクリストファー・ノーラン氏は、「映画は100歳を少し超えたばかりで、この信じられないような旅がこれからどこへ行くのかわからない。でも皆さんが私のことを、映画の旅路の有意義な一部と思ってくれていることに、とても意味を感じています」と述べた。

プロデューサーのエマ・トーマス氏は、同作品の現場では、男女比を同率にすることに成功したと語り、「より多くの女性を業界に取り入れる方法は、雇用し続け、支援し続けることです」と述べた。

主演女優賞は、「哀れなるものたち」のエマ・ストーン氏が獲得した。同氏にとっては2度目のオスカー受賞となった。

ヨルゴス・ランティモス監督のこの映画は、死んだ母親の体に脳を移植された幼児が成長しながら、世界と自分を知るために冒険の旅に出るという物語。

ストーン氏は、「本当に感無量です。キャスト、クルー、この映画製作に愛情、配慮、そして輝きを注いでくれたすべての人たちとこれを分かち合えることをとても光栄に思います」と述べた。

主演女優賞では、ストーン氏と、マーティン・スコセッシ監督の「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」に主演したリリー・グラッドストーン氏が接戦だと言われていた。グラッドストーン氏には、アメリカ先住民として初の俳優部門受賞がかかっていた。

しかし、「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」は10部門にノミネートされたものの、主演女優賞を含めオスカー像を手に入れられなかった。

一方、「哀れなるものたち」は衣装デザイン賞、メイクアップ・ヘアスタイリング賞、美術賞も獲得し、「オッペンハイマー」に次ぐ4冠を達成した。

助演女優賞を受賞したのは、「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ」で、息子の死に向き合おうとする学生寮の料理人を演じたダヴァイン・ジョイ・ランドルフ氏。

ランドルフ氏はスピーチで、 「長い間、私はいつも人と違う人間になりたいと思っていました。そして今、私は自分自身でいる必要があったことに気づきました。私をみてくれてありがとう」と語った。

現在進行中の戦争に言及

アウシュヴィッツ強制収容所の隣に住むドイツ人家族を描き、全編がドイツ語で話される「関心領域」は音響賞のほか、イギリス映画として初めて国際長編映画賞を受賞した。

ジョナサン・グレイザー監督は受賞スピーチで、「私たちの映画は、人間性を奪うことが最悪の事態につながることを示している。それは、私たちの過去と現在のすべてを形作っている」と述べ、現在進行中のガザ戦争を批判した。

長編ドキュメンタリー映画賞は、ロシアに占領されたウクライナ南部の都市マリウポリを取材した、「実録 マリウポリの20日間」が受賞。ムスティスラフ・チェルノフ監督は、ウクライナ人初のアカデミー賞受賞者となって「光栄だ」と観客に語った。

一方で、「この映画を作らなければ良かったなどと、この壇上で言う監督は、おそらく私が初めてだろう」と語り、「この賞と交換で、ロシアがウクライナを攻撃することなく、私たちの都市を占領することがないようにしたい」と語った。

その上で、「映画は記憶を形成し、記憶は歴史を形成する」と、しめくくった。

日本からは2作品が受賞

日本からは、スタジオジブリ製作、宮崎駿(※崎=たつさき)監督の「君たちはどう生きるか」が、長編アニメ映画賞を受賞した。また、日本の作品として初めて、「ゴジラ-1.0(マイナスワン)」が視覚効果賞を受賞した。

日本の作品が長編アニメ映画賞を受賞するのは、同じスタジオジブリ製作「千と千尋の神隠し」以来21年ぶり。宮崎監督にとって、2度目のアカデミー賞獲得となった。

一方、日本を描き外国長編映画賞にノミネートされていた、役所広司氏主演、ヴィム・ヴェンダーズ監督作品「PERFCT DAYS(パーフェクト・デイズ)」は、受賞を逃した。

このほか、2023年の興行収入で1位となり、作品賞など8部門にノミネートされていた「バービー」は、歌曲賞のみの受賞となった。

「What Was I Made For?」を歌ったビリー・アイリッシュ氏にとっては2度目のアカデミー賞獲得。同曲は、今年のグラミー賞の年間最優秀楽曲賞と最優秀映画主題歌/挿入歌賞を受賞している。

脚本賞は、夫殺しの嫌疑をかけられた女性を描いた「落下の解剖学」が受賞。脚色賞は、出版業界や黒人作家の作品の扱われ方を風刺的に描いた「アメリカン・フィクション」が獲得した。

短編ドキュメンタリー賞は、ディズニープラスが配信している、楽器の修理職人を追った「ラスト・リペア・ショップ」、短編実写映画賞は、ウェス・アンダーソン監督のネットフリックス作品「ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語」がそれぞれ受賞した。

短編アニメ映画賞は、ジョン・レノン氏とオノ・ヨーコ氏の「Happy Xmas (War Is Over)」から着想を得た「War Is Over! Inspired by the Music of John & Yoko」が獲得。

3月10日はイギリスの「母の日」でもあり、壇上に登った息子のショーン・レノン氏は、「母の日おめでとう!」と叫んだ。

キメル氏がトランプ前大統領と応酬

今年の授賞式の司会は、アメリカの深夜トークショー司会で人気のコメディアン、ジミー・キメル氏が務めた。キメルさんの司会は4回目。

冒頭のモノローグでは、映画業界の過去12カ月を振り返った。ハリウッドを膠着状態に陥れたストライキについてはキメル氏は、俳優と脚本家が制作会社と公正な契約を結ぶための努力に賛辞を送った。

一方で、俳優たちは「AIに取って代わられる心配をやめ、若くて魅力的な人々に取って代わられる心配に戻ることができる」とジョークを飛ばした。

式の終盤では、

前大統領は、自分のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に「アカデミー賞でジミー・キメルほど最悪な司会者がいたか。あのオープニングは、凡人以下の人間が、自分ではない何かになろうと必死になっているようなものだった」などと書いた。

キメル氏は最初、投稿者が誰かを明かさずにこれを読み上げた。「うんぬんかんぬん」と中略した後、実際の投稿の文末にあった「アメリカを再び偉大にしよう!」という大文字のスローガンを朗読。それを聞いた会場からは、大きな笑い声と拍手がわきあがった。

「どの前大統領がトゥルース・ソーシャルにこれを書いたか分かりますか?」と、キメル氏は畳みかけた。

その上でキメル氏は 「トランプ大統領、ご視聴ありがとうございます。まだ起きていてびっくりです。そろそろ刑務所の時間では?」と痛烈に返した。

トランプ氏は現在、2020年大統領選挙の敗北を覆そうとした罪や、ポルノ女優への口止め料をめぐる疑惑など4件の刑事裁判を抱えている。

(英語記事 Cillian Murphy wins best actor as Oppenheimer sweeps Oscars 2024/ Oscars 2024 Live Reporting

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