湘南ベルマーレ、昨季全敗の福岡に辛くもドロー。成功体験にしてはいけない場面とは

写真:Getty Images

2024明治安田J1リーグ第3節の計9試合が、3月9日と10日に各地で行われた。湘南ベルマーレは9日、敵地ベスト電器スタジアムでアビスパ福岡と対戦。最終スコア1-1で引き分けている。

湘南は昨2023シーズン、福岡と3回対戦し全敗(リーグ戦2回と天皇杯準々決勝)。苦手としているチームとの今2024シーズン初顔合わせで、何とか勝ち点1をもぎ取った。

ここでは第3節の福岡戦を振り返るとともに、湘南の戦いぶりを中心に検証・論評していく。


アビスパ福岡vs湘南ベルマーレ、先発メンバー

福岡vs湘南:試合展開

試合序盤から福岡のパスワークを浴びた湘南は、前半6分に先制ゴールを奪われる。福岡MF紺野和也による右サイドからのクロスを、かつて湘南でプレーした長身FWウェリントンに物にされた。

昨シーズン全敗の福岡に先制され暗雲が漂ったものの、湘南はワンチャンスを活かす。前半13分、湘南DF杉岡大暉が自陣左サイドから縦パスを繰り出すと、センターサークル付近からタッチライン際へ移動した味方MF平岡大陽がこのボールをスルー。これにより杉岡のパスがFW鈴木章斗へ渡り、同選手が対面の福岡DF奈良竜樹を抜き去って敵陣左サイドからクロスを上げる。これを逆サイドにいた湘南MF池田昌生が押し込んだ。

その後も一進一退の攻防が続いたが、両軍とも決め手を欠いて勝ち越しゴールを奪えず。福岡は今季J1リーグの勝ち点を5、湘南は4に伸ばしている。


湘南ベルマーレ DF大岩一貴 写真:Getty Images

湘南のクロス対応に難あり

湘南の山口智監督は、この試合で[3-1-4-2](自陣撤退時[5-3-2])の布陣を採用。第1節川崎フロンターレ戦と第2節京都サンガ戦で敷いた[4-4-2]から、昨年までのものに基本布陣を戻した。

試合序盤に5バックで自陣ゴール前の守備を固めたものの、前述の通り湘南は相手のクロスから失点。アウェイチームのDF大岩一貴が、自身の背後を相手FWウェリントンに突かれたことが原因だ。

自陣ペナルティエリア内のセンターバック陣がクロスボールとマークすべき相手選手を同一視野に収めるような立ち位置や体の向きを整えられず、背後を突かれてしまうのが湘南の悪癖。クロスボールに気を取られ、マークすべき相手選手を見失いがちなのも気がかりで、今回の失点シーンでもペナルティエリア外から侵入してくるウェリントンの動きを大岩が捕捉できていない。首を振るなり間接視野で捉えるなりで、ウェリントンの動き出しをもっと敏感に察知したかった。

湘南センターバック陣のこうした光景は好調だった昨2023シーズンの終盤にも見受けられ、同クラブは未だにこの問題を解決できていない。今季リーグ戦3試合で喫した失点数は4で、クリーンシート(無失点試合)はまだ無し。近年巻き込まれているJ1残留争いから脱却し、上位進出を果たすためにはクロス対応を含む守備の改善が急務だ。

湘南ベルマーレ MF田中聡 写真:Getty Images

気がかりだった攻撃配置の未整備

ロングボール主体だった第1節や2節と比べ、この日の湘南は最終ラインから細かくパスを繋ごうとする場面が多かった。

筆者から見て気がかりだったのは、最終ラインからのパス回し(ビルドアップ)を安全に行うための配置が整っていなかったことだ。前半9分、基本布陣[3-1-4-2]の湘南はMF鈴木雄斗(右ウイングバック)に高い位置をとらせたうえ、右から大岩、DFキム・ミンテ、DF大野和成、杉岡で一時的に4バックを形成。大野がボールを受けると同時に杉岡が攻め上がったが、両者の距離が開きすぎたためパスが繋がりにくい状態に。センターバック大野とサイドバック化した杉岡の間にMF田中聡が降り、パスの中継役を担うなどの工夫も見られなかった。

これらに加え、ボールを前へ運ぼうとした大野が早いタイミングで自身の体を左(杉岡方面)に向けたため、福岡陣営にパスコースを読まれる展開に。ゆえに湘南のビルドアップは不発に終わった。


湘南ベルマーレ DF杉岡大暉 写真:Getty Images

リスキーな杉岡の立ち位置

前半12分にも湘南は4バック化しビルドアップを試みたものの、杉岡が自陣後方タッチライン際でボールを受けようとしたため、基本布陣[3-4-2-1]の福岡DF小田逸稀(右ウイングバック)のプレスを浴びてしまっている。杉岡のバックパスを受けたキム・ミンテの縦パスは福岡陣営にカットされかけており、湘南にとって危険な場面だった。

4バック時のサイドバックが自陣後方のタッチライン際、かつ相手チームのサイドハーフ(ウイングFWやウイングバックを含む)の手前でボールを受けた場合、左右どちらかのパスコースが必然的に消え、相手のプレスをもろに受けやすい。湘南の同点ゴールはタッチライン際にいた杉岡の縦パスから生まれたものだが、これはサイド突破を試みた鈴木章斗への奈良の守備対応が淡白だったことに起因すると、筆者は考える。一見すると杉岡のポジショニングが功を奏したように思えるが、これを成功体験とみなし同様の配置でビルドアップを続けるのはリスキーだろう。昨年まで[3-1-4-2]を基本布陣に据えていた湘南の選手たちが、4バックでのビルドアップに慣れるには時間がかかりそうだ。


湘南ベルマーレ 山口智監督 写真:Getty Images

3バックと4バックの併用は成功するか

湘南の今季リーグ戦3試合を見た限り、3バック(自陣撤退時5バック)と4バックを併用していく意図が窺える。戦い方の幅を広げようとする試みは良い。ただ、[4-4-2]で臨んだ試合では相手のパス回しをサイドへ追い込んだ直後の守備強度不足、3バック(5バック)を敷いた試合ではクロス対応が緩慢になりがちと、シーズン序盤にして課題が表面化している。これらを解決できるかに今後注目していきたい。

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