紫式部が「実際の政治に与えた」インパクトとは?教科書では微妙に習わないその正体【NHK大河『光る君へ』#10】

*TOP画像/藤原道長(柄本佑)とまひろ(吉高由里子) 大河ドラマ「光る君へ」10回(3月10日放送)より(C)NHK

紫式部を中心に平安の女たち、平安の男たちを描いた、大河ドラマ『光る君へ』の第10話が10日に放送されました。

本放送では、道長(柄本佑)が「一緒に都を出よう」とまひろ(吉高由里子)を誘い、二人が抱き合う官能的なラブシーンもありました。しかし、まひろが道長の誘いに対して出した答えはNO。彼女が道長の誘いを断ったのは自分や彼の宿命を受け入れており、自分たちだけではなく、世の未来について考えていたからです。

有史以来「政治の裏には女性がいた」と言いますが、平安時代の実情は

第9話の終わりで、まひろは父・為時(岸谷五朗)に「男であったなら 勉学にすこぶる励んで 内裏に上がり 世を正します」と述べていました。

平安時代、政に携わり、世をおもてに立って動かせるのは男に限られていたため、女であるまひろは自分にはその役目を担う資格がないことをよく理解しています。

しかし、彼女は性別や身分を理由に内裏に上がれないからといって、世を正すことを諦めるわけではありません。彼女は自身の夢をソウルメイトである道長と共有するのです。

藤原道長(柄本佑)とまひろ(吉高由里子) 大河ドラマ「光る君へ」10回(3月10日放送)より(C)NHK

道長は藤原家を捨てて、まひろと一緒に都を出ることを望みますが、彼女はその誘いをきっぱり断ります。

「でも あなたが偉くならなければ 直秀のような無残な死に方をする人はなくならないわ」

「2人で 都を出ても 世の中は変わらないから。道長様は 偉い人になって 直秀のような理不尽な殺され方をする人が出ないような よりよき政をする使命があるのよ」

まひろは道長の誘いにのる代わりに、彼に高貴な家に生まれた使命を果たすようにと必死に説得します。

道長が実権を握り、世が変わっていく様が今後描かれるだろうと予想できますが、それはまひろの存在があってこそ。まひろの説得がなければ、どことなく頼りなく、権力に無頓着な道長は序列に従って高い地位に就いたとしても、その地位に合った役割をまっとうしようという強い思いは芽生えてこないでしょう。道長の今後の動きにはまひろの本放送での発言や、存在が色濃く投影されていくのだろうと予想できます。

敢えて問いかける描写「ジェンダー規範の逆転」

道長がまひろに送った文(手紙)。 大河ドラマ「光る君へ」10回(3月10日放送)より(C)NHK

“感情的な生き物”としてみなされがちな女ですが、女の方が男よりも理性的で、政に向いているということもあるのです。このことは、道長とまひろの文のやりとりにもうかがえます。道長は“会いたい”という気持ちを抑えきれない感情的な歌を送りますが、まひろは志を託した漢詩を送っています。当時、漢文は男のもであり(※)、女はひらがなですてきな和歌をつくれることが好まれていました。つまり、この場面ではジェンダー規範が二人の間で逆転しているのです。

いつの時代も男が政の中心であり、実権を握っていますが、世を動かしているのは男だけではありません。その陰には女がいて、男を見守り、支え、ときには動かしていることさえもありえます。例えば、本作では吉田羊さん演じる藤原詮子は道長を一条天皇に引き立てるなど、彼の権勢を陰で支え続けていたと伝えられています。道長が権力を手中に収められたのも女(姉)の存在があってこそでした。

女であり、下級貴族の娘であるまひろは世を正せる地位におもてだって就くことはできません。夢見がちで、現実離れした一面のある彼女もこのことを分かっています。そうした中で、彼女が自分の役割としたとは、道長がこの国を変えていく様を都で見つめ続けることだったのです。

まひろは愛する人と恋愛関係で結ばれるのではなく、同じ志を抱く同士としての関係を結ぶことを望みます―大切な友人・直秀の死を無駄にしないためにも。

女性の生き方を通して見つめなおす「女の存在の軽さ・重さ」

歴史は「ヒストリー」(history)と英語で表記しますが、この単語には彼の物語(his story)という意味が込められています。つまり、歴史とは男たちの物語なのです。また、世を動かしているのは女ではなく、男であると考えられるのが一般的でしょう。しかし、歴史の構築において女が関与してこなかったわけではありません。女の存在がなければ現在と違っていた部分も多々あるでしょう。

紫式部についても貴族の恋愛模様を描いた作家という一面ばかりが取り上げられていますが、『源氏物語』は宮廷政治に影響を与えたともいわれています。また、道長にとって彼女の存在や『源氏物語』は権力拡大のための駒であったという説もあります。さらに、紫式部はうそがまかりとおる貴族社会を批判するなど、当時において恵まれた身分にありながらも自身が属する社会の在り方に疑問を抱くこともありました。

女は子どもと同様に権利もなく、作り物語を読むものとされていましたが、当時においても紫式部のように女だって政治に間接的に関与し、実社会に関心を抱くこともあったのです。

『光る君へ』はフィクションの要素が強い、オリジナルストーリー。しかし、貴族の男を中心に語られてきた平安時代について女性作家を主人公に描くことで、男を中心にとらえられてきた歴史を再構築しているという解釈もできます。

道長の活躍にまひろがどのように関わっているのか今後見逃せません。

※平安時代、漢文は男のものとされていた。女が漢文を扱うことは好まれなかったため、紫式部は漢文を読めることを隠すこともあったという。

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