日本で腕時計のシェアリングサービスに預けられていたロレックスなど高級時計800本超、総額18億5千万円が行方不明になっている。サービスを運営していた企業が急に解散し、元代表に業務上横領容疑で逮捕状が出された。ただ一部は国内外の転売市場に回っていると見られ、被害者は不安を募らせている。 問題になっているのは高級時計のシェアリングサービス「トケマッチ」。オーナーから時計を預かり、借りたい人に月額でレンタルする。預けた人は時計のランクに応じて「月額預託料」を得る仕組みだった。2021年1月に始まり、昨年8月には預かった腕時計が1500本に達する急成長を遂げていた。 ところが同サービスを運営する合同会社ネオリバース（本社・大阪市）が1月31日、ホームページ上で突如会社の「解散」とサービスの終了を発表。以来、預けていた時計が戻ってこない、フリマアプリなど転売市場に出品されているのを見つけたといった被害が報告されてきた。 被害者ら190人で結成したグループ「トケマッチ対策本部」によると、行方不明の時計は860本超。うち820本がスイス製だ。ロレックスが約620本、チューダーが60本超で、他にもオメガやIWC、ウブロなど有名ブランドが並ぶ。 日本や伊仏ブランドも合わせた被害総額は約18億5千万円に上る。このグループ以外にも被害は広がっているとみられる。 国外にも流出か 各種報道によると、警視庁は6日までに、ネオリバースの元代表、福原敬済容疑者（42）の逮捕状を取り、業務上横領容疑で指名手配した。会社解散と同時にドバイに向け出国したとされ、国際刑事警察機構（ICPO）を通じて国際手配する方針だという。 顧客から預かったロレックス1本を、今年1月に大阪府の古物商に売却した疑いで逮捕状につながった。今月1日時点で13都道府県に44件の被害届が出ている。だが会社側が解散時に「6カ月以内に返却する」とHPで発表していたため、被害届の受理が遅れたと報じられている。 逮捕状が出るまで1カ月以上がかかったことで転売の猶予が生まれ、時計返却を難しくしている。朝日新聞によると、世界最大の高級時計専門売買サイト「クロノ24」にもトケマッチに関連する時計が出品されていた。出品を把握した段階で即時掲載を停止するなど対応しているという。 被害者からは「国を超えると法律が異なり、コミュニケーションも難しくなる。とても不安だ」との声が上がっている。 時計愛のあまり SNS上では「大切な時計をなぜ見ず知らずの人に貸すのか」「利回りが良すぎるのに、詐欺と気づかない方が悪い」と被害者を批判するコメントもみられる。 被害者たちはなぜ愛する時計を預けたのか？同情すべき「時計愛好家」ではなく、欲にかられた「投資家」たちだったのか？ swissinfo.chが被害者グループに理由を尋ねたところ、「時計への愛が強いあまりにうまい話に乗ってしまった」構図が見えてきた。 昨年12月にロレックスGMTマスター1本を預託した30歳代男性は、トケマッチを知ってから預けるまで1年以上熟考した。会社情報を調べ、倒産やレンタル中の盗難・傷への対応についてもメールで確認。倒産時には「破産法に基づき返還請求できる」との回答を得て、信頼したという。業界団体シェアリングエコノミー協会の認証も得ていたことも「安心材料になった」と話す。 「預けたのは初めて買った高級時計で、時計好きになったきっかけの1本だった。本当に良い時計なので、誰かが借りて大切な日に寄り添ってもらえればと思った」。預託料月3万4900円のうち12月分として7千円を振り込まれたが、その後支払いがなく、時計も返って来ない。 Airbnb（エアビーアンドビー）ジャパンなどが加盟するシェアリングエコノミー協会は先月6日、同社への認証マークを取り消し退会処分にしたと発表した。 夫婦で時計ファンだというミワさんは「1人でも多くの人に、ロレックス以外にも良い時計がたくさんあると知って欲しかった」と話す。「投資目的以外で時計に興味を持つ人が増えれば」と考え預託に踏み切ったが、その思いは見事に裏切られた。 時計ファン歴25年になるS.ヒロキさんは、所有していた14本中8本をトケマッチに預託していた。どれも転職や昇進、結婚記念日など節目に購入したもので、売却は考えられなかったという。「普段手にしない眠っている時計を活用したい、という思いが強く、魔が差した」と語った。 編集：Reto Gysi von Wartburg、校正：大野瑠衣子
