能登の魚醬、発信拠点閉店 七尾・いしり亭 建物損壊で再建困難

震災の被害で閉店した「いしり亭」=七尾市生駒町

  ●製造は継続意向

 七尾市中心部の御祓川沿いにある飲食店「いしり亭」が11日までに、能登半島地震による建物被害の影響で閉店した。旧十二銀行跡の大正時代の蔵造りの建物を利用して、国登録無形民俗文化財となった能登の魚醬(ぎょしょう)「いしる・いしり」を使った料理を提供して親しまれてきたが、床板が大きく傾くなど再建が困難と判断した。貴重な食文化を残すため、工房でのいしり製造は継続する方針で、販路拡大などを通じて復興を目指す。

 同店は2000年に開業。全ての料理に自家製のいしりを使用してきた。ランチタイムでは、肉か魚のメイン料理に6種類の総菜が付く月替わりの「豆皿の彩り定食」などが人気を集めた。

 運営する「もりやま」(七尾市)は飲食店としての経営が困難として、2月末で店を閉じたが、いしりは16年に同市古府町に建設した工房で製造している。

 県内では珍しいメギスを材料に用いており、臭みが少ないのが特長。福井県立大と協力して、通常より醸造期間を短縮できる「速醸法」と呼ばれる製法を確立し、年間約1.4トンを製造している。

 工房は震災によって瓶が倒れるなどの被害が出たものの、建物自体に目立った損傷はなく、今後も活用していく予定。「もりやま」の森山典子取締役(75)は、いしりが昨年3月に国登録無形民俗文化財になったことに触れ「せっかく注目が集まってきたところでの閉店は残念。いしりは何にでも合う万能調味料で、その魅力を今後も残していきたい」と意欲を示した。

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