原爆被害、描写の忌避は変わらず 7冠受賞の「オッペンハイマー」

米アカデミー賞で7冠に輝いた「オッペンハイマー」のクリストファー・ノーラン監督(左)とプロデューサーのエマ・トーマスさん=10日、米ハリウッド(ロイター=共同)

 米アカデミー賞で作品賞など7冠に輝いた映画「オッペンハイマー」は、鬼才クリストファー・ノーラン監督が観客を引きずり込むような野心的な手法で原爆開発者の葛藤を描き出した。一方、原爆被害の直接的な描写は回避。識者は「核兵器の人的被害を見せないのは米国での王道」とした上で、同作の成功は米国における核問題の語られ方の変わらなさを表していると指摘する。

 主人公の物理学者オッペンハイマーが原爆開発計画「マンハッタン計画」を主導し、実験を成功させる過程が一つのヤマ場。その後、彼が原爆のもたらすものにおののき、水爆開発に反対する様子も描かれるが、被害の生々しい描写はない。

 ノーラン監督は米バラエティー誌のインタビューで広島と長崎の被害を見せなかったことを問われ、「この映画はオッペンハイマーの体験を主観的に描いている」と強調。「彼が原爆投下を知ったのは、世界中の人々が原爆投下を知ったのと同じ時だった。(略)何を見せるかと同じくらい、何を見せないかが重要だった」と説明している。

© 一般社団法人共同通信社