3月16日開始の「北陸応援割」 2次避難先の宿が抱く違和感「今なのか?」

能登半島地震によって、石川県全域で被害をこうむっている観光業。3月16日の北陸新幹線延伸、「北陸応援割」スタートによって活性化が期待されるものの、今も石川県金沢市以南の地域や、隣県のホテル・旅館の一部は2次避難先となっています。

3月16日、新幹線小松駅開業(筆者撮影)

北陸では被害が大きくない地域でもホテルや旅館のキャンセルが相次ぎ、旅行業界を支援するため始まる「北陸応援割」は、新潟県・富山県・石川県・福井県の旅行・宿泊代金が最大で半額に。予約増加が想定され、「2次避難している被災者を追い出すのか」という批判も湧出しています。

高級な旅館・ホテルなどは、北陸応援割は3月8日の予約開始とともに即売り切れになる施設もあるほど人気に(石川県は3月12日から予約開始)。そんななかで石川県小松市のビジネスホテルでマネジャーとして勤務するMakoto(仮名)さん、富山県南砺市にある温泉旅館「法林寺温泉」を経営する中川さんにたずねました。

「避難者を追い出す」という批判に…

Makotoさんが働くビジネスホテルは、県南部の小松市の中心街、3月16日に開業する北陸新幹線小松駅の近く。日本各地に複数のホテルを展開するグループのひとつで、客室は100程度、2次避難として確保している室数は上層部のみ把握。「法林寺温泉」は、医王山のふもとに立つ温泉旅館で、14室あり、4人用の客室を5部屋、2人用の客室の2部屋を受け入れ期間の3月31日まで確保しています。

どちらも一般客向けの営業も同時に行っており、確保した部屋は避難者が滞在していなくても稼働できず、避難者が入らなければ支給は発生しません。2次避難のために部屋を確保したせいで、一般客向けの予約ができないという事態は、起こらないのでしょうか。中川さんによると、「今のところは大丈夫です。一般のお客さんはそれほど多くないので」とのこと。

とはいえ、「北陸応援割」の開始や、北陸新幹線延伸による新幹線小松駅開業により訪れる人は増え、状況が変わる可能性も。

「入っている予約状況を見ながら避難者を受け入れています。北陸新幹線が開通する3月16日以降は部屋が抑えられていて、その分受け入れはできていません。そのため、「避難者を追い出す」という批判には違和感を覚えました」とMakotoさん。

一時的でしかない対策、人気は高級旅館に

今回の「北陸応援割」について、コロナ禍に実施された「Go To トラベル」「全国旅行割」などの観光支援事業の効果や影響を振り返るとどうなのでしょうか?

Makotoさんの働くホテルでは、2020年、2021年はほとんど仕事がなく、休業補償などにより給与はあったものの、4、5人退職して人員の補充はないまま。現在は掃除やベッドメイクをする人が足りず、自身の仕事を終えた後、手伝ってから帰宅していると言います。

「Go To トラベル」や「全国旅行割」では、「期間中は売り上げはバンと上がりましたが、再訪はせいぜい2割3割。終わるとともに元に戻ってしまい、その後が大変難しい」と消極的に受け止めたとのこと。

駅内のカウントダウンボードで開業までをカウントダウン ※撮影は2月22日(筆者撮影)

今回の「北陸応援割」も、「将来的に売り上げにつながり、業界自体が発展するとは思えない」と言います。また、ホテルの特性でビジネス客か、小松空港からの台湾観光客が多く、クーポンを利用して小松で観光する人が増えるというのは考えにくいと言います。

「コロナ禍から3年も4年も同じようなことしている。民間ではできない巨額の予算をかけてやるので、続ければ続けるほど、国や行政に対する依存度が強まってしまう」

中川さんは「効果自体はあった」と評価しつつも「大きいところのホテルや旅館の方が需要があったのではないかと思っています」。

「全国旅行割」に先立って実施された県民割では、期間中にキャンペーンの割引を利用し宿泊したお客さんが6組だけだったことや、県内での人気のホテルに予約が集中したことから、「高級な宿ほどお得感がある。安いところが安くなったとしても需要が少ない」と落胆。それらの経験により、今回の「北陸応援割」といったキャンペーンにも大きな期待を寄せることはないそうです。

なぜ、この時期に? 宿泊施設が感じた矛盾

さらに、中川さんは今回の割引キャンペーンについて、3つの問題点を指摘。

1つは被災者の2次避難所と受け入れを行っている施設と、そうでない施設との不公平感について。「例えば20部屋ある旅館が2つあって、片方は20部屋確保して、もう片方は0の場合、キャンペーンでは善意で受け入れている施設に全く恩恵がない。協力に対して報酬があるからいいという考えかもしれませんが、被災者がいなければ宿への支給はありません」。

2つ目は実施のタイミング。「石川県からの受け入れの要請が3月31日までで、被災者が滞在する時期とキャンペーンが重なるのは把握できているはずです。避難で能登から人を遠ざけている状況だと思いますが、そんな中で大々的に『来て』と言うことに矛盾を感じます」。

3つ目は、避難者が滞在する宿泊施設に、クーポンを使って観光を楽しむ旅行者が同時にいること。「相反する気持ちの方々が、同じところに集まってもいいのかなと。要請を発している自治体は、その状況についてどのように考えているのでしょうか。もちろん、キャンペーンとは関係なしに仕事や旅行があって来られる方については違和感はありませんが」。

Makotoさんもキャンペーンで来た観光客と被災者の温度差を不安視。また、新幹線駅として開業する小松駅周辺についても同様に懸念しています。「100年に1回あるかないかのことなので、お祭り騒ぎになるのでは。お客さんも地元の人たちもテンションが上がる中で、被災者は家に帰ることもできずに滞在しているのです。個人的には、館内で鉢合わせないような対応が必要かもしれないとも思っています」

3月16日には、どれくらいの盛り上がりになるのか……(筆者撮影)

コロナ禍、そして地震に翻弄されるホテルや旅館。「仕方ないよね」と受け止めつつMakotoさんは語りました。「この地域で暮らし、社会的な意義を考えて避難する人を受け入れています。自分たちも行政にお世話になることもある立場だから」

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3月16日~4月26日宿泊分に適応される「北陸応援割」(予算額に達し次第終了)は、国内だけでなく海外からの訪日旅行客も割引を受けられ、飲食店や観光施設、土産物屋などにも集客は見込めるため、地域の経済を盛り上げる側面はあります。一方で、宿泊業関係者の中には、複雑な思いを抱く人がいるのもまた事実です。

■Makoto 石川県から情報発信しています。(@realizeishikaw1)さんのXアカウント https://twitter.com/realizeishikaw1
■法林寺温泉のホームページ https://horinji.org/
■法林寺温泉(@horinjionsen)のXアカウント https://twitter.com/horinjionsen
■国土交通省 観光庁 北陸応援割について [https://www\.mlit\.go\.jp/kankocho/page06\_000372\.html
](https://www.mlit.go.jp/kankocho/page06_000372.html)

(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・谷町 邦子)

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