「わたしがここにいる」(3月12日)

 わたしは、双葉町の浅野撚糸に勤める19歳の女子社員。カフェで接客を担当し、訪れた皆さんを、温かなコーヒーでもてなしています―。館内では、糸を撚[よ]り合わせる機械が忙しく回る。「きょうも、張り切って」。無言の励ましを受けているよう▼いわき市小名浜で生まれ育った。大きな揺れを忘れはしない。幼稚園の中にいた。逃げ出たお庭は割れ、水が噴き出していた。友だちと泣きじゃくった。小学校の入学式は延期され、給食は出なかった。「古里のお役に立ちたい」と思うようになったのは、いつ頃からだろう。この会社でなら、と選んだのが今の職場だ▼今年初め、高校生の視察を受けた。同じ世代として説明役を任された。突然、質問が飛んだ。「復興とは何でしょうか」。とっさに口をついて出た。「わたしがここにいること」―。この手で建物を造れる訳ではない。でも、何かお手伝いはできる。不便を感じる時もあるけど、双葉で暮らし、働き続ける。決意は揺るがない▼女子社員の言葉はSNSを通じて全国に広がり、共感を呼んだ。今いる場所で踏ん張る県民176万人の思いを撚り合わせよう。太く強い復興の糸になる。さあ、14年目の明日へ。<2024.3・12>

© 株式会社福島民報社