『ブギウギ』小野美音からこのかへバトンタッチ スズ子とは決定的に違う愛子の孤独

スズ子(趣里)が新しい家に越してから5年が経ち、あれだけ幼かった愛子(このか)もすっかり大きくなっていた。小さい頃はあれだけ煩わせていた愛子だったが、大きくなったいまもスズ子を悩ませていた。『ブギウギ』(NHK総合)第113話では、スズ子が愛子の子育てに奮闘する様子が描かれた。

1955年(昭和30年)6月、スズ子は近所の主婦や子どもたちを招いて愛子の8歳の誕生日パーティーを開催した。8歳の子どもであればみんなとワイワイ騒いで遊ぶのが楽しかったりもするが、何やら愛子は誰とも話すことなく浮かない表情を浮かべている。スズ子が「みんなのとこ行きーや」と促しても、愛子はそっぽを向いてしまう。スズ子はもう一度説得しようと試みるが、愛子は「こんなんしてほしーない。余計なお世話や!」と拗ねてどこかへ行ってしまった。

大野(木野花)からは「愛子ちゃんには愛子ちゃんのペースがありますから」と言われるものの、スズ子は愛子のことを心配に思っていた。実は愛子は学校になじめずに「有名人の子」といじめられていたのだ。だが、そんなことも知らないスズ子は愛子のためにあの手この手で友達を作ってもらおうと試みる。

愛子を寂しくさせまいと過保護な教育を続けるスズ子。そこでスズ子は子育てのことについて大野に相談をもちかける。自我が芽生え始める小学生の年代は親の言うことに少しでも反抗したくなる年頃だが、スズ子は自分の子ども時代を振り返って「毎日毎日おもろいことばっかりでしたわ」と振り返る。思えばスズ子は梅吉(柳葉敏郎)とツヤ(水川あさみ)だけではなく、銭湯「はな湯」の個性的な常連客にも恵まれていた。芸能人の母親を持ち、幼少期から孤独を経験してきた愛子とは境遇がまったく異なる。

●愛子(このか)が見せたスズ子(趣里)の過保護教育に対する反発

後日、麻里(市川実和子)にも相談するスズ子。しかし、麻里もまた子育てに苦労していたことを明かす。結局どの家庭でも子育ての悩みは尽きないのだ。そう考えるとスズ子は恵まれていたのかもしれないと思えるが、スズ子もまた血縁関係で悩んでいたことが思い出される。羽鳥善一(草彅剛)は「まずは与えるものを与える。後は子どもが勝手に考えるさ」と何やら子育てを知ったような口ぶりで話すが、スズ子は「まったく力沸きまへんな」と笑顔を見せる。

解決策と言える解決作が見つからないまま自宅へと戻ったスズ子はもう一度愛子と向き合うが、やはり愛子はスズ子を避けている様子。母親が有名人として世間からちやほやされていることが子どもながらに受け入れられないのだろうか。そこでスズ子は朝食にフレンチトーストを作ってあげるが、愛子が一口食べて言ったのは「まずい」のひと言。その言葉にスズ子は激昂し、愛子と言い合いになってしまう。本当に味がまずかったのかは定かではないが、愛子にとって過保護の教育を続けるスズ子のやり方への反発だったのかもしれない。

これで収まるのであればそれが良かったのだが……ある日、スズ子のもとに見知らぬ男から愛子を誘拐されたくなかったら3万円を出せという電話がかかってくる。愛子が何よりも心配ではあるが、物語的にはスズ子と愛子が心を通わせる転機になる出来事のように思う。まずは愛子の無事を祈りつつ、スズ子と愛子の親子関係が良い方向に向かってほしい。
(文=川崎龍也)

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