トランプ陣営の対日政策文書とは その7 故安倍氏のアメリカへの要請

古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・アメリカは「曖昧政策」をやめ、台湾防衛を明確にするべき時機だ、と安倍氏が提唱。

・安倍氏は習氏に「日本の尖閣防衛の強い意思を誤認すべきでない」と通告してきた。

・安倍氏の中国の侵略の野望に対する言辞や行動は国際的にも模範。採用されるべき戦術。

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ロシアのウクライナ侵略が始まってから、その自然な結果として日本でも、アメリカでも、このロシアの軍事行動と中国と台湾の間の熱い軍事衝突の勃発の可能性との明白な類似が語られるようになった。その思考の地政戦略的な文脈では安倍晋三首相亡き後の日本ではとくに中国共産党政権の侵略的な膨張に対する台湾との連合体に日本もその一部として位置づけられるのだ、という認識が生まれたようだった。

安倍晋三氏は2022年4月、つまり暗殺されるほんの3ヵ月前だったが、ロシアのウクライナ侵略から2ヵ月後の時点でアメリカの主要新聞ロサンゼルス・タイムズに論文を寄せて、ウクライナと台湾の窮状の類似点と相違点とを鮮やかな表現で説明していた。安倍氏はそしてその論文でアメリカと台湾との関係がこんご決定的な変化をとげることを提唱したのだった。

安倍氏のその論文は以下のような骨子だった。

「台湾と中国との間には非常に大きな軍事力のギャップがある。ちょうどウクライナとロシアの間の軍事力格差と同じようだ。ウクライナも台湾も正式の軍事同盟の相手はいない。ロシアと中国はともに国連安全保障理事会の常任メンバーである。だから国連安保理での拒否権を有する。つまり国連の紛争や侵略への介入はロシアや中国が反対すれば、まったく望めないということである。ウクライナも台湾も国連にはなんの期待もできないわけだ」

「1979年にアメリカが国内法として施行した台湾関係法は『アメリカ合衆国は十分な自衛能力の維持を可能ならしめるに必要な数量の防御的な器材および役務を台湾に供与する』と規定している。台湾海峡の平和や安定はアメリカにとっても重大な安全保障の対象だともうたっている。だが実際に台湾が中国の軍事攻撃を受けた際の危機に対してアメリカが直接に軍事介入するかどうかは、不明のままである」

アメリカのこの台湾に対する曖昧政策はいまや中国にアメリカの決意を過小評価させることを奨励する結果となり、インド太平洋に不安定性を産んでいる。中国が台湾に軍事攻撃をかけても、アメリカが台湾を直接に軍事支援しない可能性もあることになるからだ。しかし、いまやアメリカは中国による台湾へのいかなる軍事侵略の試みに対しても台湾を防衛することを明確にするべき時機がきたのだ」

以上のように安倍晋三氏はこのアメリカ向けの論文のなかで、アメリカ政府が台湾有事に対して、必ず台湾を軍事支援するという明確な態度をとることを促したのだった。つまり現行の台湾関係法を根拠とするアメリカ歴代政権の曖昧政策は中国の台湾への軍事侵攻を激励することになってしまう、という率直な警告だった。

安倍氏はこの論文で以下の個人的な体験をも強調していた。

「私は日本の首相として中国の習近平国家主席と会見したときは必ず、習主席に対して明確に、日本側がいざという際には尖閣諸島を守るという強い意思を誤認すべきではない、ということを告げてきた。日本の尖閣防衛の意思には揺るぎがないという中国側への通告だった」

安倍氏の中国共産党政権の侵略の野望に対するこのような言辞や行動は国際的にみても、まさに模範だったといえよう。この戦術はインド太平洋の他の諸国の指導者たちにとっても、台湾に対する中国の圧力が増した場合の将来の規範として採用されるべきである。

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トップ写真:G20サミット初日、中国の習近平国家主席を招く故安倍晋三元首相(2019年6月28日大阪府)出典:Kim Kyung-Hoon – Pool/Getty Images

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