「TBSドキュメンタリー映画祭 2024」大久保竜プロデューサー 取材した映像には続きがある【CINEMORE ACADEMY Vol.27】

テレビやSNSでは伝えきれない事実や声なき心の声を発信し続ける本気のドキュメンタリー作品に出会える場として、2021年より開催されてきた「TBSドキュメンタリー映画祭」。2024年の今回で4回目の開催となり、多くのドキュメンタリー作品が3月15日より全国6都市にて順次公開予定だ。TBSというテレビ局がなぜドキュメンタリーの映画祭を続けているのか?その意義とは? 本映画祭の企画・エグゼクティブプロデューサーを務める大久保竜氏に話を伺った。

監督はTBSの様々な部署の社員


Q:大久保さんは報道局 局次長であり報道コンテンツ戦略室長とのことですが、いわゆる“報道畑”は長かったのでしょうか。

大久保:新卒でTBSに入り30年ちょっと経ちますが、これまで担当したほとんどがバラエティーや情報番組。いわゆる“制作局”や、“情報制作局”という部署でした。報道に来たのは50歳を過ぎてからです。日曜朝の「サンデージャポン」も長く担当していまして、あの番組で使っているニュースはほとんどが報道の素材。その関係もあって、報道との付き合いは以前からありました。

Q:「サンデージャポン」といえば、この映画祭は爆笑問題の太田光さんがチェアマンになっていますね。

大久保:「サンデージャポン」「爆報!THEフライデー」など、太田さんとは昔からご縁があり、それでチェアマンをお願いしました。太田さんは本当に律儀で、全作品を観てくれているんです。しかも監督に会った瞬間に「観たよ!」と声まで掛けてくれる。監督たちは皆喜んでいますね。

Q:作品制作の社内公募では、ニュースやドキュメンタリーの担当者以外からも応募があったと聞きました。

大久保:この映画祭が始まったのは、TBSのアーカイブを元に作った映画『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』(20)のヒットがきっかけでした。それで最初は、アーカイブ作品を集めた映画祭を始めようとしていたのですが、社内の色んな部署から「自分もやりたい!」と手を挙げる人がたくさん出てきた。「昔撮った素材があって、追加撮影すると一本の映画になりそうです」など、色んな意見が出てきたんです。

『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』予告

今回の映画祭に出品している監督たちはTBSや系列局の社員が中心ですが、ドキュメンタリー制作をメイン業務にしている人は一人もいません。例えば、元々は制作をやっていて、今は管理部門にいる方から手が挙がったり、普段は政治記者をやっている人が「MR.BIG」を追いかけていたり、ドラマのプロデューサーがなぜか「イエスの方舟」追ったりしている。もちろん、所属部署の業務をやることは当然ですが、皆それぞれの上司に「今の仕事を頑張るから、隙間の時間でドキュメンタリー制作をやらせてくれ」と訴えたんです。

先ほどの「イエスの方舟」を追っているドラマプロデューサーは、「是枝監督も最初はコアなドキュメンタリーから始めてカンヌまで行ったんです!」と、熱く上司を口説いていました(笑)。自分のメインの仕事をこなしつつも、ライフテーマとして追い続けたいものがある。そういう人がこの映画祭を利用しようと社内で広がっていった。そういう嬉しい状況でした。

報道とドキュメンタリー


Q:本当に色んな部署の方が色んなテーマで作られていますね。

大久保:久保田智子さんはアナウンサーで入ってきて今は報道局のデジタル部門で記者をやっていますが、「自分の家族のことを記録としてちゃんと伝えたい。それにはドキュメンタリー映画しかない」と言い続けて、2年越しで今回の『私の家族』の映画化が決まりました。嵯峨祥平さんは普段は恋愛バラエティーをやっていますが、仕事とは全然関係ないラップを追いかけて『ダメな奴 ~ラッパー紅桜 刑務所からの再起~』を作りました。SDGsのテーマでは、川上敬二郎さんという「報道特集」のディレクターが『サステナ・フォレスト~森の国の守り人たち~』という作品を作り、『BORDER 戦場記者 × イスラム国』の須賀川拓さんはずっと戦場を撮り続けている。「情熱大陸」プロデューサーの沖倫太朗さんは「情熱大陸」の尺だと収まらないからと、自ら演出して『映画 情熱大陸 土井善晴』を作っちゃいました(笑)。

系列局も頑張っていて、北海道のHBCが作った『102歳のことば ~生活図画事件 最後の生き証人~』や、大阪MBSの『家さえあれば~貧困と居住支援~』、福岡のRKBからは『リリアンの揺りかご』『魚鱗癬と生きる -遼くんが歩んだ28年-』など、バラエティに富んだ作品がたくさんあります。

Q:元アナウンス部で報道局にいる佐古忠彦さんや久保田智子さんなど、職種や立場を超えてドキュメンタリーを監督されている方もいます。報道とドキュメンタリーは似て非なるものかと思いますが、皆さん、どのような思いをお持ちなのでしょうか。

大久保:報道部門は“速報”という宿命を背負っている以上、たくさん取材して撮ってきたとしても、放送されるのは1分前後のストレートニュースや、10分ほどの特集コーナーくらい。それでも報道に携わっている人間からすると、どうしても忘れられない取材の一つや二つは必ずあるもの。ただそれをちゃんと形にして発表する場所がないのです。また、戦争地帯に取材に行き死体が転がっているのを目の当たりにしても、コンプライアンス上それを放送することは出来ない。テレビの放送をやっている限りは、そういうジレンマを抱えていることも事実。自分が実際に取材して感じたものはしっかり丁寧に伝えたい。そういう思いは皆持っていると思います。

Q:テレビ局が制作した映像をテレビで流すのではなく、映画で流すということに社内で議論はありましたか。

大久保:そこはよく言われますね。「テレビ局なんだから、映画館ではなく全部テレビでやるべきだ」と。ただ、先ほどお伝えしたように、戦場の死体はテレビで映すことが出来なかったりと、どうしてもテレビで流せないものはある。そういう意味ではジレンマなのですが、映画にすることによって、コンプライアンスや時間の問題で諦めたものを伝えることが出来る場合もあるんです。

『坂本龍一 WAR AND PEACE 教授が遺した言葉たち』予告

Q:『坂本龍一 WAR AND PEACE 教授が遺した言葉たち』を拝見しました。「筑紫哲也NEWS23」での特集が映画内でとりあげられ、筑紫さんの姿を久しぶりに見て感慨深いものがありました。TBS社内のアーカイブを活かすことによる、気づきや学びみたいなものはありますか。

大久保:自分たちが作った番組は放送後しばらくは覚えていますが、何年も経つと記憶も薄れていくし、そもそも番組を観る機会も少ない。こういった機会に改めて見直すと、当時の制作者たちの思いや、今に繋がっていることなど、気づきも多いです。「News23」は今でも続いている番組ですし、今のスタッフはそういった過去の映像を見ながら、いろんな会話をしていると思います。彼らにとっても相当勉強になっていると思いますね。

取材した映像には続きがある


Q:東海テレビのドキュメンタリーや、大島新さんや五百旗頭幸男さん、ダースレイダーさん、プチ鹿島さんたちが作る作品など、ドキュメンタリー映画界は新たな盛り上がりを見せています。刺激を受けている部分はありますか。

大久保:東海テレビさんや大島さんの作品と比べると、TBSの場合はいい意味で雑多。いろんな人がいろんなジャンルを撮っているところが特徴です。大島さんとも、「色んな人がいるから、色々やった方が良いですよね」と話したことがあります。日本のドキュメンタリーはやっぱり数が少ない。もっと増えた方が良いし、もっと気楽に話せるようになる方が良い。とにかく参加選手を増やそうよと。所属は関係なく、やりたい人がどんどんやっていけば、切磋琢磨が広がって全体の質もあがると思いますね。

Q:この映画祭は、TBSで放送している報道や番組にどのような影響を与えていると思われますか。

大久保:ニュースでも番組でも、自分が取材して撮っている映像にはその続きがある。放送して終わりじゃないんです。自分が追い続けている以上は、放送したものに対してのアンサーを出したい。この映画祭はその場になり得る。そこが影響としては大きいでしょうね。もしかしたら、50年後、100年後に作品を見る人がいるかもしれない。そこまで想定して作ることが出来る場にもなっているかもしれませんし、そうなって欲しいですね。

エグゼクティブプロデューサー:大久保竜

TBS DOCS、 TBSドキュメンタリー映画祭の企画、エグゼクティブ・プロデューサー。TBSテレビ報道局局次長、報道コンテンツ戦略室長。音楽バラエティ班、ドラマ班を経て情報バラエティ番組の立ち上げを多数。過去の主な企画・プロデュース番組は「サンデージャポン」「爆報!THEフライデー」「桜井・有吉THE夜会」「有吉ジャポン」など。

取材・文:香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。

撮影:青木一成

TBSドキュメンタリー映画祭 2024

公式サイト:https://www.tbs.co.jp/TBSDOCS_eigasai/

【会場・日程】

東京・ヒューマントラストシネマ渋谷

2024年3月15日(金)~3月28日(木)

大阪・シネ・リーブル梅田

2024年3月22日(金)~4月4日(木)

名古屋・センチュリーシネマ

2024年3月22日(金)~4月4日(木)

京都・UPLINK京都

2024年3月22日(金)~4月4日(木)

福岡・キノシネマ天神

2024年3月29日(金)~4月11日(木)

札幌・シアターキノ

2024年3月30日(土)~4月11日(木)

舞台挨拶の時間やゲスト詳細は、公式ニュースをご参照ください。

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