【京都・大阪・神戸大学の副学長に聞きました】多様な環境で 自ら育ち、学び続ける人に

世界水準の教育研究を推進する国立大学。学生一人一人が最適な学びを得られるよう多くの機会を用意し、サポートを行っている京都大学・大阪大学・神戸大学。教育担当の副学長に聞きました。

起業などを学べる大学院教育支援機構教育コースがスタート変化する時代にこそ自発的に学び続ける姿勢を

京都大学・副学長 國府寛司さん

「自由の学風」の伝統の中、「自学自習」を重んじてきた京都大学。自主性を尊重するといっても、放任ではありません。

「研究の最先端に触れ、大学での学びがどんなものか多様な切り口で体験できるよう、学部1回生前期を中心に“ILAS(アイラス)セミナー”という少人数ゼミを250以上開講してサポートしています」とは、教育、学生、入試担当理事・副学長の國府寛司さん。

「KYOTO iUP(アイアップ=日本や世界で活躍できる優れた外国人材育成のプログラム)」で受け入れている留学生と日本人学生が、共に切磋琢磨できる国際的な環境作りも推進中。日本人学生が、外国人教員による留学生向けのオール英語の授業を活用するのも一例です」と話します。

また、女性教員や女子学生を増やす取り組みも。「特に女子学生の少ない理工系では、キャリアパスがイメージできるパンフレットの作成や高校へのアプローチなどを積極的に行っています」

大学院教育では、今年度、大学院教育支援機構による「産学協同教育コース」と「教育能力向上コース」を開設。希望者は研究科によらず履修可能。「起業や大学教育の方法を学ぶ機会を提供することで研究職以外のキャリアが広がり、日本の課題である博士人材活用につながれば」と國府さん。

「国際紛争や感染症の流行、生成AIなど社会が大きく変化している今、大学は、社会で活躍するための基礎を築く場であるのはもちろん、必要なときに学び直せる場であることが求められています。学生は卒業後も自発的に何度でも学び直しに戻る気持ちを持ち、私たちもそれに応える幅広い学びを提供していきたいと考えています」

\------------------------------

安心して学び続けられる環境を提供し続けたい

強みを生かした学際融合で際立つ人材を育てる

大阪大学・副学長 田中敏宏さん

さまざまなプロジェクトで人材の育成環境を整えている大阪大学。中でも、大学内にある、島津製作所との協働研究所をベースにした“REACHプロジェクト”が注目を浴びています。

「島津製作所の方々と共同研究をした学生が、修士課程を終えた後に島津製作所に就職し、その後は博士課程で共同研究を進めながら博士号取得を目指すという取り組みです」と話す、教育、入試、学生支援担当統括理事・副学長の田中敏宏さん。大学内に企業の研究所を設置し、そこで学生が学び、就職しながら研究者としてのキャリアを積み重ねていけるという新たな産学連携。全国的に大学院進学者が減少する中、経済的な心配をせずに大学院へ進学できるのが最大の利点です。

また、阪大の強みを生かした学際融合の一つに、“マルチリンガル・エキスパート養成プログラム”があります。「24言語を学べる外国語学部で、他学部の学生が興味がある言語を学べ、外国語学部の学生が他学部のカリキュラムを受講できます。第二外国語以外に語学を学べる機会を提供することで、国際的に活躍できるチャンスも増えるのでは」と期待を寄せます。

2022年に人文学研究科が設置され、日本学専攻が新たに創設されましたが、世界の中の日本に注目した組織“大阪大学グローバル日本学教育研究拠点”を設置しているのも阪大の特徴。田中さんは拠点長でもあります。「国内外から蓄積された、日本の文化や社会についての幅広い知識は、基礎的教養としてどのような研究にでも役立つもの。これを基点に、日本でしか生まれえない独創的なグローバル人材を育成していきたい」

\------------------------------

シームレスな研究者育成支援や「異分野共創」を強化

自ら価値を生み、社会に求められる人材を育む

神戸大学・副学長 大村直人さん

将来の博士人材を育成するため、高大接続にも力を注いでいる神戸大学。教育・グローバル担当理事で副学長の大村直人さんは、「小学生から博士課程までシームレスな教育を実現し、次世代の研究者育成支援を続けることで、理系人材の裾野を広げられれば」とその意義を語ります。

その一環として、2025年4月には、「みらい開拓人材育成センター」が組織改編されます。中身は、小・中学生を対象とし、国立研究開発法人科学技術振興機構と連携した「神戸みらい博士育成道場」や、高校生対象の「“越える”力を育む国際的科学技術人材育成プログラム(ROOTプログラム)」が。これに加えて、博士人材の育成を目的に、数理・データサイエンスなどの素養を深化するなど、学部生、院生に対しても、産業界を含めた多彩なキャリア形成を後押ししていきます。

このほか、“異分野共創”を掲げ、全学部生を対象とした分野横断型のプログラムを展開。「異分野や異文化への理解を深めることで、新たな視点が得られます。産業界や自治体との連携も強化し、イノベーションにつなげていきたい」と大村さん。さらに、留学生を交えたグループワークや、海外の講師とつながるオンライン・オンデマンド授業などを取り入れた“国際共修”プログラムも拡充予定です。

「実務家教員によるアントレプレナーシップ教育、価値創造をテーマにしたバリュースクールなど、社会での実践力を養う学びの場も用意します。学生には興味関心を広げてもらい、港町・神戸にふさわしい、多様な人材が集う“知の拠点”として、存在感を示していきたい」

© 株式会社サンケイリビング新聞社