日英女子サッカー界リーダーが語るジェンダーレス社会と性差別問題

髙田春奈氏(左)マギー・マーフィー(右)写真:Getty Images

女性を尊重する日とされている3月8日の国際女性デー。1904年の同日、アメリカで行われた婦人参政権を求めるデモが起源となり、1975年に国際連合(UN)が記念日として定めた歴史がある。近年では日本サッカー協会(JFA)でもこの日を「女子サッカーデー」と定め、人々の多様性を尊重する様々な取り組みが行われている。

ここでは、今年開催された国際女性デー関連イベントで、日英それぞれの女子サッカー界を牽引する女性リーダーたちが語った印象的なエピソードを紹介していく。


髙田春奈氏 写真:Getty Images

大きな転換期を迎えたWEリーグ

2020年6月に日本で初めて女子サッカープロリーグとして設立されたWEリーグ。同年7月に初代の代表理事(チェア)として岡島喜久子氏が就任。翌年9月にはWEリーグが本格始動し、2022年9月29日に2代目チェアとなった髙田春奈氏は現在も活躍中だ。髙田チェアは、JFA女子サッカーデーの一環として3月5日にオンライン開催されたパネルディスカッション 『女子スポーツの歩みとこれから』に出席。WEリーグの意義について改めて説明した。

「WEリーグは女子サッカーの発展を目指すことはもちろんだが、それ以上に掲げていることは日本の女性活躍社会を牽引すること。サッカーを含め女子スポーツを通じて、世の中にいい影響を与えていきたい」

また、サッカー大国が多いヨーロッパ圏のリーグと比較した際、WEリーグがより力を入れるべき点として「リーグ事業の充実化」を挙げた。

「まずはWEリーグが主催する独自の大会『WEリーグカップ』を男子以上に盛り上げていきたい。そこからサッカーを軸にたくさんの仲間ができたり、楽しさを共有したり、そしてWEリーグの理念を感じてもらったり。サッカーファン以外の人たちにも楽しさを感じてもらいたい」

2023年7月、WEリーグは「リーグ事業の充実化」への大きな一歩として、本拠地を東京都渋谷区のシェアオフィスへ移転した。10月には同じ渋谷エリアに日本女子サッカーの情報発信拠点『Home of .WE』をオープン。施設ではリーグ関連コンテンツや試合放映、グッズ販売も行なっている。多様性と国際性を大切にする文化の中心エリアに拠点を置くことで、幅広い様々な層に気軽に女子サッカーに触れてもらう効果が期待されている。

マギー・マーフィー氏 写真:Getty Images

男女平等を目指す英女子サッカー

3月8日はサッカー発祥の地である英国でも国際女性デーに関連するイベントが各クラブで行われた。南イングランドのルイスFC(英女子2部)では、今シーズン限りでの退任を発表したCEOのマギー・マーフィー氏が、フランスのパリで開催された国連教育科学文化機関(ユネスコ)主催イベント『Score a Goal for Women』に出席。女性CEOとして自身の切実な想いを語った。

「自分がCEOとして働くとは思いもしなかった。私が子どもの頃はサッカーが好きでプレーをしていて、それを否定する言葉も自分の中では受け入れていた。しかし、小さな批判の声は積み重なれば大きなものへと変わっていく。 私が実際にこの仕事に転向したのは、直面する課題があったから」

当時背負っていた課題についてマーフィー氏が多くを語ることはなかったが、CEOになった現在でも性別に関する問題を日常的に感じることがあるという。

「たとえば各メディアがクラブを訪問取材に来た際、ぜひ試合を見てもらおうと案内しても『女性CEOとお茶を飲んで話をする方がいい』と言われることがある。それは、私が単に『管理者の女の子』だと思われているからかもしれない。会話をすることは素晴らしいことだけど、時折それが性差別的に感じることも実際にはある」

マーフィー氏が率いるルイスFCは、世界でも稀に見る男女平等クラブとして知られている。しかし過去(2017年例)にはチケット販売価格において、女子チームが3ポンド(約450円)、対する男子チームは10ポンド(約1500円)と男女差のある価格設定を採用していた。

「男子と差のある価格設定は、女子サッカーの質を否定することとイコールだとすぐに気付いた。私たちが女子サッカーの価値を信じているならば、それ相応の価格は当たり前。そのため、毎年チケット価格を少しずつ上げている。そうすることで人々が思う『女子は男子よりも価格が低いことが当たり前』という思考を徐々に変化させていきたい」

また、パブでビールを飲むことがいちばんの癒しというマーフィー氏は、拠点であるルイスの街で感じた地域の人々の変化が嬉しかったという。パブを訪れた際、店内ではちょうどルイスFC男子の試合が放映されていた。試合を観ていた男性が『ルイスFCに女子チームがあることを知っているか?』と話しかけてきて、女子チームの面白さやスタジアムに観戦に行く予定などを語ってくれたという。まさかマーフィー氏がルイスのCEOだとは全く知らずに。

この出来事からマーフィー氏は「サッカー繁栄のプロセスは、人々が『サッカーを楽しみたい』という気持ちが最も重要であり、何よりも強いものだ」と改めて感じたそうだ。


日英のサッカー界で活躍している2人の女性リーダーの声に耳を傾けてみると、サッカーは単なるスポーツにとどまらず、上手く活用することで社会的価値観に変化を与えられるという共通点が見えた。そして、その効果を生み出す女子サッカーの繁栄に最も重要なのは「みんなでサッカーを楽しむ」というシンプルで普遍的な活動なのである。

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