都心のシェルターでおもに“中型ミックス犬”を保護し、譲渡につなげる代表の思い

ここでは、犬と、犬を取り巻く社会がもっと幸せで素敵なものになるように活動している方々をレポートします。

今回は、都心に動物保護シェルターを設立し、多くの犬たちの保護、譲渡のほか、適正飼育の啓蒙にも力を入れる保護団体「東京わんにゃん シェルター&アダプション」の活動を紹介します。

「元野犬というだけで全頭殺処分された状況をなんとか変えていきたかった」

「東京わんにゃん シェルター&アダプション」代表・大野真由子さん。2007年から個人で犬猫の保護活動を始め、2014年に団体を設立。100頭以上の犬や猫の命を救う。写真左は愛犬のルディくん

東京都中央区の都心にシェルターをもつ「東京わんにゃんシェルター&アダプション」(以下シェルター)。大都会のビルの一角に作られたシェルターには、東京をはじめ他県からレスキューされたおもに中型ミックス犬たちが過ごしています。代表の大野真由子さんは、他県の愛護センターに収容されていた元野犬や、多頭飼育崩壊現場などからレスキューされた犬たちをシェルターに迎え、まずは人との信頼関係が築けるよう時間をかけてトレーニングします。

クリスマスに保護されたホーリーくん(推定7才)。預かりボラさんの急死により、大野さんのシェルターに

「当シェルターでは、『数をこなす』保護活動は行いません。トレーニング後は、一頭一頭の保護犬に合ったご家族を時間をかけて探し、譲渡を希望されるご家族には、動物福祉に基づく適正飼育についてのレクチャーを行います。保護犬を幸せな家庭へ譲渡することがゴールではなく、譲渡を通じて、保護犬の現状や、正しい知識のもと生涯飼育することの大切さなどをひとりでも多くの飼い主さんに広めていきたいと思っています。それが結果的に犬の殺処分を減らす根本的な解決策なんですね」と話す大野さん。区内の小学校では「命の授業」を定期的に行い、子どもたちに「犬が豊かな感情をもっていること」「命に対する責任の重さ」などを伝えています。

区内の小学校では「命の授業」を実施。動物にも感情があること、生涯責任をもって飼育する大切さを伝えます

動物虐待のニュースにより保護活動への意欲が強まる

そもそも保護活動に邁進するきっかけとなったのは今から約15年前のこと。動物が大好きだった大野さんは、友人が飼えなくなった猫を自宅で引き取ることから保護活動を始めました。
「そんななか、ニュースで子猫を外で捕まえて虐待し、命を奪っていた人の事件を知ったんです。この世の中にそんなひどいことをする人がいるなんて……、と本当にショックでした。そして、外で暮らす犬や猫たちの悲しい現実を痛感し、悲しむだけではなく、まずは私にできることをやってみよう!と決意しました」

大野さんは自宅で少しずつ犬を保護するようになりましたが、保護できる数には限界があり、自身でシェルターを設立することを決意。まずは犬についての知識を深めようと、犬のトレーニング学校に通うことから始めました。そして、シェルターの場所については、タイミングよく縁故の紹介で現在のビル1階の一角を使わせてもらうことができたそうです。

元野犬のあんこちゃん(推定8才)は、なかなかご縁がつながらず、何年もシェルターに

こうして2014年に個人でシェルターをスタートした大野さん。スタート当初はボランティアも集まらなかったため、ひとりで約20頭の犬や猫のお世話をしていたことも。
「当時は寝るヒマもないほど大変でした(笑)。でも、最初人に対してまったく心を開いてくれなかった元野犬のコなどが、真剣に愛情を込めて接するうちに、人を信頼するようになってくれる。それが何よりもうれしいことでした」

団体としての活動を始めてからは、他県の動物保護団体と横のつながりもでき、とくに宮崎県で活動をするNPO法人咲桃虎との代表とは志を同じくして協力しあう関係になりました。

「2015年ごろはまだ、宮崎県をはじめ多くの県では、元野犬は人なれが難しいからと、ほぼ全頭が殺処分されていました。そのため、宮崎県ほか他県からうちのシェルターに元野犬の保護犬を積極的に迎えることに。元野犬に多い10〜20㎏の中型ミックス犬は、正しい接し方をしていけば人に慣れるし、体も丈夫なので飼いやすい犬なんです。でも、関東の愛護センターでも中型ミックス犬は譲渡が進まず、センターでその生涯を終えるコが多いんですね」

左は山口県から来たタイロンくん(推定10才)。とてもビビリで犬も人も苦手。スタッフにより人なれ訓練中。右は宮崎県から来たあかねちゃん(推定1才)。活発で人が大好き!

そんな現状に心を痛める大野さんは、2015年に前述のNPO法人咲桃虎の代表とともにフェイスブックで「大好き♥中型ミックス犬!」というグループを開設。元保護犬だった中型ミックス犬の飼い主さんが全国からグループに参加し、愛犬との楽しい日常生活をたくさんの画像とともに紹介。現在、メンバーは約3000人となり、中型ミックス犬の魅力をアピールする一助になっています。

代表の大野さんとスタッフ。ドッグトレーナーの方、プロのトリマーの方もシェルターを支えます

次回は都心にありながら、犬たちが快適に過ごせるためのシェルターの工夫についてレポートします。

出典/「いぬのきもち」2023年12月号『犬のために何ができるのだろうか』
写真/田尻光久
写真提供/東京わんにゃん シェルター&アダプション
取材・文/袴 もな
※保護犬の情報は2023年10月6日現在のものです。

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