賀来賢人の新たなる挑戦「日本のみならず世界の反応がどうなのかワクワクしています」

賀来賢人が表現する“現代を生きる忍者たち”の姿。

『今日から俺は!!』や『TOKYO MER~走る緊急救命室~』など多様なジャンルの作品に出演。突き抜けてコミカルな役柄を演じたり、シリアスかつ、時には体力勝負のハードな現場に挑み、役者としての幅の広さに高い評価が集まっている。そんな賀来賢人さんが、新たな挑戦をした。Netflixシリーズのドラマ『忍びの家 House of Ninjas』では主演を務める一方で、(村尾嘉昭、今井隆文との共同)原案から編集などのクリエイティブな作業の全般に関わり、手腕を発揮した。テーマは、かつて日本に存在していたとされる“忍び”(忍者)。その着想は、コロナ禍に生まれたという。

「役者としての仕事が困難な状況になり、このまま仕事がなくなったらどうしようという不安が生まれました。でもそれなら、自分で仕事(作品)を作ればいいと思ったんです。そこで考えたテーマが、以前から興味を惹かれていた忍び。海外の方から見たらものすごく魅力的なヒーローなのに、日本人はその存在を信じてもいなければ、興味を持っていない人が多いような気がします。忍びを扱う新しい作品も、実はあまり見かけないことにも疑問を持っていました。史実は途切れていてわからないことも多いけど、調べれば調べるほど面白いし、日本独自のカルチャーなんですよね。特に個人的に惹かれるのは、彼らは幕府や名士に仕えて、主に諜報などを仕事にしていたとされていますが、あくまでもその存在を世間に知られてはならず、耐え忍ばなければいけないところ。においを残してはいけないから肉を食べないとか、秘密主義のために同族結婚をするなどの制限を課しながら、いかに自分たちの存在を消すかに徹底している。そういう“耐え忍ぶ”姿こそ日本人のマインドに通ずるものであり、すごく魅力的なんじゃないかな。こんなにロマンのあるジャンルを放っておくわけにはいかないと思いました。すぐに企画書を作り始め、Netflixに提案したのが約3年前。テーマを気に入っていただき、海外にも通用する作品にするために、脚本と監督を務めたデイヴ・ボイルの参加が決まりました。デイヴと共に改めて詳細まで詰めた企画書を作り上げたのが約1年後、さらにその1年後に撮影が始まり、ようやく完成しました」

舞台は現代の日本。忍びを引退して数年経った忍び一家・俵家が、再び影の任務を負うことになるという物語だ。一家を江口洋介さん、木村多江さん、高良健吾さん、賀来さん、蒔田彩珠さん、宮本信子さんらが演じ、さらに演技力の高い役者陣が次々登場しては、物語を彩る。

「役者やスタッフたちが、なによりこの試みとシナリオを面白がってくれたことが一番嬉しかったです。アメリカ出身のデイヴの視点は僕ら日本人とはまた違っていて、忍びの捉え方も斬新だったし、改めて日本の文化の素晴らしさや、我慢強かったり、相手を慮ったりするような日本人の気質にも気づかされ、誇りを感じました。海外配信する作品だからこそ、海外の人たちにどうワクワクしてもらうかを常に頭に入れていて丁寧に作り上げました」

賀来さんの構想は、一流のスタッフたちによってブラッシュアップされ、形になったという。

「例えば、俵家の日本家屋はゼロから建てたセットなんですが、オリエンタルな内装や壁の色、それを引き立てる照明や映像のバランス、美術品に至るまでこだわりぬいています。また、デイヴのアイデアでアメリカの映画監督ブライアン・デ・パルマのような世界観で’70年代~’80年代の薫りがする音楽や映像美を追求したり、そうかと思えばネットで忍者の専門用具をポチる描写を入れたり(笑)。そういう緩急をつけながら忍びの世界をより魅力的に見せつつも、もうひとつ大事にしたのは、家族の絆。家族の在り方って、世界共通の普遍的な題材でもあると思っていて。僕、映画『リトル・ミス・サンシャイン』が大好きで、そんな家族ならではのあたたかみをどこかに描きたかったんです。今作ではいつの間にか団欒をなくし、機能しなくなった俵家の家族の仲をどう復活させていくのかも見どころです。ちなみに現場では、カットがかかっても全員リビングに座ったまま動かずに、ずっとお喋りしていて(笑)。年齢も経歴も違う役者たちの中に家族感が自然と生まれるぐらい、居心地のいいセットでした」

自身の役者経験は役作りから物語の構成、セリフにも生きたよう。

「僕が演じた晴は優しい性格が一番の魅力なんですが、セリフが少なく、決してわかりやすいキャラクターではありません。キャラ立ちを狙っていないぶん、どこまで晴の人間性を表現できるかはチャレンジでした。僕これまで、結構濃い役も演じてきたじゃないですか(笑)。そこはもう演じられることがわかったので、今度は真逆のタイプを演じてどこまで通用するかを試してみたかったんです。それから、主役は僕だけではなく登場人物全員という意識でした。誰一人残らず、本当に実在するかのように人間ぽく、リアルに描くか。そのために、説明ゼリフはなるべく排除しつつ、言葉のやり取りや表情、画像の構成だけで物語を展開することに注力して。1話で大体わかってしまうのではなく、毎話少しずつキャラクターの個性を知れるような脚本にしたかったんですが、あまりにも情報が少ないのも伝わりにくくなるから、そのバランスについては時間を費やして話し合いました」

プロデューサーという、新たな役割にも魅力を見出したという。

「最初から最後まで、すべてに関われる仕事。各部署のクリエイターたちが素材を集めてくる過程や、提示するアイデアを把握することで、みなさんがどういう動きをしてひとつの作品が出来上がるのかを知ることができました。もちろん出役もしながらは大変だったけど、得たものが大きくて、とにかく楽しかった。配信が始まった今は、日本のみならず世界の反応がどうなのかワクワクしています。必ずまた、続きが見たくなる物語が出来上がったので、まずは気兼ねなく見ていただきたいです」

Netflixシリーズ『忍びの家 House of Ninjas』 次男・晴がトラウマを抱える発端となった、過去のとある事件をきっかけに、忍びの仕事を引退した日本最後の忍び一家・俵家。家族の心がバラバラになりながらも、一般市民としてひっそりと暮らしていたある日、平和を脅かす窮地に立ち向かうために、再び使命を与えられるという、ファミリー・スパイ物語。Netflixにて世界独占配信中。

かく・けんと 1989年7月3日生まれ、東京都出身。代表作は、ドラマから映画にシリーズ化された主演作『今日から俺は!!』をはじめ、『TOKYO MER~走る緊急救命室~』シリーズや、主演ドラマ『死にたい夜にかぎって』など。

シャツ¥39,600(ラッピンノット/ウメダニット ) パンツ¥53,900(エムズ ブラック/セコンド ショールーム TEL:03・3794・9822) 靴はスタイリスト私物

※『anan』2024年3月13日号より。写真・赤澤昂宥 スタイリスト・小林 新 ヘア&メイク・西岡達也 取材、文・若山あや

(by anan編集部)

© マガジンハウス