Omoinotake、『Eye Love You』主題歌が放送重ねるごとに話題に ヒゲダン「Subtitle」との共通項も?

Omoinotakeがリリースした新曲「幾億光年」が話題を集めている。

同曲は、現在放送中のテレビドラマ『Eye Love You』(TBS系)の主題歌として書き下ろされた楽曲。リズミカルなピアノのバッキングが全体を牽引する極上のアンサンブルの上で、徐々に熱を帯びていくエモーショナルなボーカルが胸を打つ。なかでも、ドラマのストーリーとリンクした歌詞は大きな反響を呼び、リリース以降もチャート成績は好調だ。

歌詞で描かれているのは、遠い場所にいる人への不変の愛。Omoinotakeはこの曲で「どんなに遠い距離や、長い時間に隔たれても、例えもう二度と会えず届かなくても、決して褪せることのない、愛しい人への不変の想いを描きました」とコメントしている(※1)。その言葉の通り、この曲は愛情を光にたとえて、〈君〉に対する愛はどんなに遠く離れていても、いつまで経っても変わらず届く〈確かなヒカリ〉だと歌いかける。

一見すると、この曲は失恋後の強い未練の歌のようにも聴こえる。だが、歌詞に登場する〈旅〉や〈星〉といったモチーフを考慮すれば、死別した大切な人への思いを歌っているようにも受け取れる。作詞した福島智朗(Ba)は、昨年11月に自身のInstagramにて、同バンドが学生時代にお世話になっていたCDショップの店員が亡くなったことを明かしていた。それを踏まえれば、この曲はバンドに縁のあるその人物への思いがストレートに表現された楽曲とも考えることができるだろう。

ドラマの放送が進むにつれて、この曲への注目は日に日に高まっていった。特に第5話が放送されるやいなや、ドラマとリンクした歌詞に大きな反響が集まった。ドラマのあらすじはざっくりと次の通り。

主人公の本宮侑里(二階堂ふみ)は、目が合うと相手の心の声が聞こえる特殊な能力を持っている。その能力のせいで恋愛を避けていた侑里はある日、韓国人留学生のユン・テオ(チェ・ジョンヒョプ)と出会う。テオから聞こえてきた声は韓国語だったため、侑里はテオであれば恋愛できるのではないかと考え、ストーリーは展開されていく。

そして話題になった第5話では、侑里が経営する会社のパートナーの花岡彰人(中川大志)が密かに侑里へ想いを寄せていたことが明かされる。この花岡の本当の気持ちが描かれたシーンにおいて、花岡は「(心の声で)ずっと好きだった」というセリフを放つのだが、この言葉は「幾億光年」のラストのフレーズである〈過去形にならない「I Love You」〉を彷彿とさせることから、同曲は主人公の侑里ではなく花岡視点の歌としても捉えられると多くの視聴者が悟ったのだ。さらには、やはり歌詞の内容から死別のパターンが拭いきれないということで“バッドエンド”の憶測も飛び交うなど、この曲への注目度はドラマが放送されるたびに増している。

このように、楽曲の全貌がリリースから少し経ったあとに解明されていく仕掛け。もちろんキャッチーなメロディや聴き心地の好いサウンドなど、このヒットは彼らの音楽的なセンスあってこそのものではある。そうした点に加えて、連続ドラマとのタイアップというフォーマットを存分に活かしたギミックによって楽曲人気を押し上げているのだ。現在各種チャートに表れているロングヒットの兆候は、まさにOmoinotakeのソングライティングの妙によるものと言えるだろう。

Omoinotakeといえば、メンバーが3人とも島根県出身で、Official髭男dismと同郷のバンドとして知られている。Omoinotakeはギターのいない特殊な編成で活動しているが、ヒゲダンと同様にピアノを主軸としたスタイルで、音楽性は基本的にソウルやR&Bなどを下地としたJ-POPであるなど、共通点も少なくない。

思えば、ヒゲダンが一昨年リリースした「Subtitle」もドラマ『silent』(フジテレビ系)の主題歌としてヒットした曲だった。以来、音楽シーンではここ1、2年ほどドラマ主題歌の目立ったヒットがなかったが、ここへきてようやく「幾億光年」が注目を浴びている。まるで同郷のヒゲダンからオモタケへとバトンが渡されたかのような胸アツ展開ーーといった見方は、少々こじつけが過ぎるだろうか。

そもそも、この「幾億光年」のサビ直前の〈デイバイデイ〉でリスナーを引き込むテクニックはヒゲダンの「Pretender」の〈グッバイ〉を思い起こさせるし、イントロなしでボーカルとピアノの伴奏から始めるのは「Subtitle」とも重なる。また、「Subtitle」もドラマの主人公ではない相手視点でも捉えることのできる楽曲で、バンドの新たな王道を打ち立てた楽曲だった。

Omoinotakeが、この「幾億光年」で見せたソングライティングは、今後の大ブレイクを予感させるものだ。おそらく視聴者も「Omoinotakeの主題歌でもっといろんなドラマや映画を観たい」と思っているに違いない。タイアップ作品に寄り添った抜群のテクニックを見せる両バンドが、揃って日本の音楽シーンを盛り上げる日も近いだろう。

※1:https://realsound.jp/movie/2023/12/post-1509555.html

(文=荻原梓)

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