ヘッドホンでもスピーカーでも実力を発揮! HIFIMANの多機能アンプ「Goldenwave SERENADE」レビュー

ヘッドホンやスピーカー環境で、音楽ストリーミングサービスやハイレゾファイルなどのデジタルソース、スマホなどの音声をいい音で楽しみ尽くしたい。できれば筐体はコンパクトな方がいい。

そんな願望を叶えてくれる欲張りな1台が、平面磁界駆動型ヘッドホンの開発で知られるHIFIMAN(ハイファイマン)から登場した。DAC、ストリーミング/ネットワーク再生対応のヘッドホン/プリアンプ「SERENADE(セレナーデ)」である。

HIFIMAN「Goldenwave SERENADE」 ¥196,900(税込)

セレナーデは、HIFIMANと、ヘッドホンアンプを得意とする中国のメーカー「Goldenwave」とのダブルネームで発売されている。というのもGoldenwaveは最近、HIFIMANの関連会社となり、両者の得意技術を搭載したコラボ第一弾として登場したのだ。

セレナーデは横幅が30cmで薄型のシャーシが嬉しい。オーディオラックからデスクトップ上までさまざまな場所に置けるのが理由だ。そして入出力のインターフェイスも豊富だ。フロントパネルにはXLRバランス、6.35mmシングルエンド、4.4mmバランス出力、入力ソースやサンプリング周波数などを表示する有機ELディスプレイ、ボリュームノブを搭載する。

前面には4pinXLRバランスや4.4mmバランス、6.35mmのシングルエンドのヘッドホン出力を搭載。

リアパネルには、USB Type-Bをはじめとした豊富なデジタル/アナログ入力を装備。出力はXLR/RCA、RJ45の有線LANを備え、NASを利用したネットワーク再生やストリーミングに対応するストリーマー機能を有していることが大きなポイントである。

背面にはLAN接続のほか、USB Type-B入力やプリアウト出力端子などを搭載。

オーディオ回路部の魅力は独自のD/Aコンバーター「HYMALAYA(ヒマラヤ)DAC PRO」を搭載すること。コンパクトなR-2Rラダー方式回路のDAC回路で、 FPGA回路と精度0.01%の抵抗により、R-2R方式で定評のあるDACチップPCM1704を上回る数値を叩き出し、PCMソースをネイティブにD/A変換する。

HIFIMAN独自のDACアーキテクチャー「HYMALAYA DAC」の選定品である「HYMALAYA DAC PRO」を搭載。

アナログ回路は、プリアンプ部がA級増幅のプリアンプ回路によるフルバランス構成でALPS製4連バランス・ボリュームと組み合わせられている。シングルエンド(RCA)入力されたアナログ信号を高精度のシングルエンド・バランス変換回路によりバランス変換し、バランス駆動ヘッドホン使用時の音質を高上。またトロイダルトランスによる電源駆動も特長だ。

セレナーデの内部イメージ。

オーディオ回路部の性能が高いとさまざまなソースを利用したくなる。そこでセレナーデのストロングポイントである対応ソースの幅広さが生きてくる。パソコンやスマホとUSBケーブルで接続したり、フォノイコライザー搭載のレコードプレーヤーと接続したりするのもよいだろう。そして先述したとおりLANによるネットワーク接続を生かしたストリーマーとして使えることに注目したい。

本機はDLNA/UPnP(OpenHome対応)によるNASを利用したネットワーク再生に対応しており、定額制ストリーミングサービスはTIDAL ConnectとSpotify Connectに対応する。Amazon Music等他のサービスを聴きたい場合は、スマホやパソコンとAirPlayやBluetooth接続してもよいだろう。さらに、革新的なGUIを持つRoon(ルーン)のエンドポイントとしても利用できる。(同一ネットワーク上にルーンサーバーの設置が必要)

TIDALをはじめSpotifyなど、多彩なネットワーク再生に対応する。

ヘッドホンにSennheiser「HD 800 S」(バランス接続)を使用して、アイ・オー・データのNAS「Soundgenic」から女性ボーカル、メロディ・ガルドー『オントレ・ウー・ドゥ』(48kHz/24bit FLAC)を再生したが、すべてを通しての音質が筆者の期待を大きく上回ってきた。

Sennheiser「HD 800 D」をバランス接続して試聴。

音色、音調が自然な上、高音域から低音域まで全体域に力感があり、R-2R方式のよい音がダイレクトに伝わってくる。現代ブラジリアン・ジャズの実力者であるバーデン・パウエルの息子、フィリップ・バーデン・パウエルが抑揚高く演奏するピアノのディテールが明瞭で、メロディ・ガルドーのボーカルはイントネーションや声の質感表現力に長け、空間に浮かび上がるピアノとボーカルの距離感が適切に表現できていることも印象的だ。

ちなみにネットワーク再生の操作アプリは汎用品を利用する。今回はアイ・オー・データから無償提供される「fidata Music App」を使用したが、楽曲選択、再生/停止、曲送り、プレイリスト作成などの基本操作が行えた。

試聴する土方久明氏。

続いて、Apple Musicで聴いたAdoの『唱』は、イントロで中央に定位するボーカル音像に立体感があり、ベースは低域方向のレンジも広く、弾力感を感じさせた。

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ここでヘッドホン環境におけるセレナーデの音質を一旦まとめたい。R-2R方式のDACに対する期待値はいやが上にも高くなっていたわけだが、分解能、各帯域の質感表現に長けており、印象がよかった。つまり低音域の表現を左右するヘッドホンの駆動力が高く、満足できる音を確認できた。

スピーカーのシステムでも活躍できるか!? 超ド級のシステムで検証!

セレナーデにはもうひとつ大きな魅力がある。それがスピーカー環境へ投入できることだ。RCAおよびXLRのライン出力があるので、1台のソース機器としてハイファイオーディオシステムに組み込んだり、ボリューム調整機能を利用して単体のパワーアンプと組み合わせたりして、一般的なパッシブスピーカーを鳴らすことが可能だ。さらに小型シャーシの設置性のよさを生かして、近年存在感の増しているアンプ内蔵アクティブスピーカーと組み合わせたデスクトップシステムも構築できる。

薄型の筐体だが、太めのケーブルの取り回しも容易だ。

そこで、編集部と相談して、ライン出力およびプリアンプ部の音声品質と使い勝手も検証することにした。

取材当日、音元出版の試聴室に入った僕は予想外の光景に驚いた。目の前に設置されていたのは、市場価格約370万の英国Bowers & Wilkins社のハイエンドスピーカー「803 D4」ではないか。そしてパワーアンプは日本が誇るハイエンドメーカー、アキュフェーズのA級ステレオパワーアンプ「A-80」。ソース機器&プリアンプとして使用するセレナーデにとって不足はない組み合わせともいえるが、「このハイエンドシステムとバランスは取れるのであろうか?力不足にならないか」と一抹の不安もある。

しかし、結果から話すとセレナーデは僕の予想を超える実力を発揮した。

取材は音元出版の試聴室にて実施した。

まずはNASに保存されたハイレゾファイルから、クラシックのオーケストラ楽曲、グスターボ・ドゥダメル,ロサンゼルス・フィルハーモニック『ドヴォルザーク:交響曲第7・8・9番』(96kHz/24bit FLAC)を聴く。楽曲冒頭のトッティは全楽器が壮大に音を出すが、低音域を担当するコントラバスに厚みがあり、トランペットなどの金管楽器は艶やかで色彩感に溢れる。楽曲全体の分解能は価格以上のものがあり、コストパフォーマンスに優れた音だと気が付く。ヴァイオリンやチェロなどの弦楽器は艶やかかつ生楽器らしさもあり、表現力不足による人工的な音とは無縁の音だ。

試聴に使用したスピーカーはBowers&Wilkins;「803D4」。

女性ボーカル、アデルの『30』(44.1kHz/24bit FLAC)は、SNの高さに裏付けられた、素晴らしく透明感のある声質でバックミュージックに対するディテールがシャープだからアーティストとの距離感が近く感じる。ピアノの音色は艶やかで音場も広い。

2曲を聴いて気がついたのだが、セレナーデのソース機器、プリアンプとしての音質は全体的にディテールがシャープで音が早い。そしてこの音がさらに活きてくるのが現代のJ-Popだった。YOASOBI『アイドル』(96kHz/24bit)は、エレクトリックシンセサイザーの粒立ちがよく、音色のよさと相乗効果により、かなりの好印象。本楽曲の特徴であるエレクトリックベースの重量感とスピードをしっかりと表現しつつ、音が団子にならない。メロディアスかつノリのよい本楽曲を理想的に近い形で表現してくれる。もちろんパワーアンプの力も大きいが、DAC部やプリアンプ部のよさを感じ取ることができた。

さらに、セレナーデは話題の統合型再生ソリューションroon(ルーン)のエンドポイントとして使用できる。ここではアイ・オー・データのオーディオサーバー『HFAS2-X40』をroonサーバーとして使い、サブスクのストリーミングサービスのQobuzより、男性ボーカルのグレゴリー・ポーター『ナット・キング・コール&ミー』を再生した。先述した音のよさに加え、ここではiPadの画面上に表示されるroonのグラフィカルユーザーインターフェイスに気持ちが高鳴る。グレゴリー・ポーターのアルバムやシングル、参加楽曲がデザインセンスよく表示され、音楽の海へ飛び込むように縦横無尽に楽しむことができるのだ。

セレナーデはRoonのエンドポイントとしても使用できる。

最後はセレナーデに備わるライン入力端子を利用して、アナログレコード再生を行った。ターンテーブルはテクニクスの「SL-1000R」、カートリッジはフェーズメーション「PP2000」を使い、 アキュフェーズのフォノイコライザー「C-47」とセレナーデをRCAラインケーブルで接続して、ハードバップJazzの名盤、ソニー・ロリンズ『ニュークス・タイム』のリード曲に針を落とす。セレナーデのデジタル再生は現代的な描写力を持つハイファイな音づくりだったが、アナログ入力はそれに加え、中音域を含むアナログのよさを惹き立たせる手抜きを感じさせない再生音だった。ソニー・ロリンズのテナーサックスは太く適度な色彩があり、全体域の音調表現も安定している。

テクニクス「SL-1000R」を使いレコードの再生音もチェック。

機能的には、ハイレゾ、ストリーミング、アナログ再生までソースへの対応力があり、使用していて満足度は高いはずだ。このコンポーネントに感じた唯一の小さな問題は、ボタン1つでプリアンプモード、DACモードが切り替えられるのが便利な反面、試聴中にそのボタンを押していくと、ボリューム可変からフルボリュームに音量が変わってしまうことだ。メニュー上で DACモードへの変更を、一度確認を促すUIを求めたい。

プリアンプモードとDACモードの切り替えは天面にあるボタンからワンタッチで変更できる。

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総評となるが、セレナーデはR-2Rの良質なDAC部を持ち、その音を注目度が上がるroonも含め多様なソースに対応するDAC/ネットワークプレーヤー/プリアンプとして楽しめる。スピーカー環境においてはBowers&Wilkins;とアキュフェーズのハイエンドシステムに組み込めるクオリティも保持していた。無論、これ以上の価格の製品を投入すれば音の再現力は上がるはずだが、グルーブのよさやスピード感のある音も含めて、音質/機能的なコストパフォーマンスはかなり高いと断言したい。

(提供:HIFIMAN JAPAN)

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