【EASL Final Four】Bリーグのレベルアップをアジアに知らしめた千葉ジェッツの初優勝

アジアの強豪を破り千葉JがEASL王者に!

2016年9月、国内で二分していた2つのトップリーグ、NBLとbjリーグが統合されBリーグが開幕した。NBAに次ぐ世界2番目のリーグを目指すという壮大な目標を掲げて立ち上がったBリーグは、年を追うごとに盛り上がりを増し、ファンの拡大と共に、各クラブの経営力や選手の実力も確かなレベルアップを遂げていった。

それに伴い、日本代表もそれまで遅れを取っていたアジア地区のライバルと徐々に戦えるようになり、ニック・ファジーカス、渡邊雄太、八村塁ら強力な戦力が加わった2019年には自力でのFIBAワールドカップ出場。続けて東京2020オリンピックも経験し、昨夏のワールドカップではアジア最上位を獲得したことで、パリオリンピックへの出場権を手にした。オリンピックへの自力出場は、実に48年ぶりのことだった。

昨夏のワールドカップが大きな追い風となり、かつてないほど勢いに乗っている日本バスケ界において、東アジアスーパーリーグ(EASL)での千葉ジェッツの優勝は、改めてその勢いを感じる出来事だった。

EASLのグループラウンドを6戦全勝で突破した千葉Jは、フィリピン・セブ島で行われたファイナル4の準決勝でニュータイペイキングス(台湾/P.LEAGUE +)を、決勝でソウルSKナイツ(韓国/KBL)をそれぞれ大接戦の末に下して、初の東アジアチャンピオンに輝いた。

MVPを獲得した富樫勇樹のハイパフォーマンスは2戦とも千葉Jの原動力となり、そんな富樫に会場に集まったファンは熱視線を向けた。ファイナル4に勝ち上がったほか3チームの選手たちも、準決勝前日の記者会見ではそろって富樫を警戒するコメントを残しているほど、今大会での富樫への注目度は高かった。

だが当然、千葉Jは富樫だけのチームではない。チーム最大のスターである富樫の脇には、リーグ屈指のビッグマンであるジョン・ムーニー、オーストラリア代表のゼイビア・クックス、日本代表の原修太、さらにはBリーグの若手の中でも屈指のポテンシャルを秘める小川麻斗や金近廉、大ベテランの西村文男や荒尾岳らも控えており、総合的に高いタレントレベルを誇っている。

富樫はB1のレギュラーシーズンとEASLの並行を過酷なスケジュールだと認めつつ、「若手が多い中でこういう経験を積めば積むほど(良いと思う)。2021-22シーズンにコロナの影響で15試合戦えなかったときは、最後にその差が出たと感じているので、僕の中ではプラスに捉えて戦っています。この2試合もしっかりとチームのレベルアップとともに、優勝を目指して戦いたいと思います」と準決勝前夜に意気込んでいた。

そして、優勝後には改めてEASLの経験がBリーグのシーズンにもプラスに作用すると強調した。

「Bリーグのシーズンとは別に、それとプラスして成長の機会があると僕は捉えています。僕にとって、EASLはほかのチームよりもむしろアドバンテージ。さらに、優勝という経験で若手もベテランも含めて、チームとして上のレベルにいけたと思います。リーグ戦はここから3月、4月と強豪チームとの対戦が続きますが、まずはしっかりとチャンピオンシップに出ること。CSに出てしまえば、どのチームにもチャンスがあります。ケガ人を出さずに完成度を上げながら、5月にピークを持ってこられるようにしたいです」

原、小川、荒尾が見せた存在感

ファイナル4での2試合で、とりわけ強い存在感を放ったのは富樫、ムーニー、クックスの3選手だった。だが、原、小川、荒尾の3選手の献身的な働きも見逃せない。

2戦とも先発出場した原は、コンディション不良によりバイウィーク中の日本代表での活動を辞退。ファイナル4直前に行われた群馬クレインサンダーズとのB1リーグ戦も欠場しており、実戦復帰は約1か月ぶり。

ニュータイペイとの準決勝では、ジョセフ・リンと並んで同チームの動力となっていたアメリカ人ガードのケニー・マニゴー(196cm)をマーク。2日後の3位決定戦で18得点、10リバウンドを記録することとなるマニゴーを僅か7得点に封じている。さらに、決勝でもソウルSKのエース、オ・ジェヒョンに対して持ち前のフィジカルと運動量を生かして食らい付き、準決勝で20得点を挙げていた同選手に9得点しか許さなかった。

準決勝後、原は「自分のシュートについてはあまり気にしていません。ディフェンス面でやられた部分はありますが、相手の外国人選手(マニゴー)をマークしてイメージどおりに動くことができたので、そこは収穫でした。流れが悪い時間帯に、本当に些細なことですが、相手に簡単にボールを持たせないとか、そういうディフェンスをすることができたと思うので、すごく良かったです」と復帰戦の出来を総括。

Bリーグ開幕前の2015年に千葉J入りし、特にこの数シーズンはウィングの外国籍選手が増えたことで、原は彼らを抑える役割を与えられた。その経験が彼を選手としてステップアップさせ、マニゴーやオ・ジェヒョンのようなフィジカルな選手相手にも全く引けを取らない強力なディフェンダーへと進化させた。EASLでの原の活躍は、Bリーグのレベルアップを実感する要素の一つだった。

小川と荒尾の若手&ベテランのバックアップ組もそれぞれの持ち場でチームを支えた。

小川は準決勝こそ大舞台での緊張もあって不発だったが、決勝では原がベンチに下がっている時間帯にオ・ジェヒョンをマークし、ディフェンスの強度を見事に引き継いだ。また、攻めては3Qにトランジションから思い切り良く放った3Pをヒットすると、その直後に速攻でレイアップを決めて5連続得点。44-38としたところで、ソウルSKに後半初めてのタイムアウトを取らせてみせた。

小川は決勝後に「準決勝で僕と金近が良くなくて、ジョン(パトリック)さんからも、ずっと『Young guys』と言われていました。思うようにプレーできなかったところもありましたが、しっかりとコミュニケーションを取りながら、思い切ってプレーすることだけを考えていました」と試合を振り返った。準決勝ではショットを打てるタイミングでもパスを回してしまい、ドライブでも相手を抜き切ることができない場面が続いたが、その教訓を生かした決勝のプレーからは、まさに“思い切りの良さ”が感じられた。

そして、荒尾だ。準決勝では4分6秒の出場でボックススコアに残る数字はパーソナルファウル1つのみ。決勝でも7分16秒のプレーでオフェンスリバウンド2本にファウル4つというスタッツだった。この数字だけを見せられて、彼の貢献を推し量ることは難しい。だが、特に決勝では、彼の貢献がなければ勝利できていなかったかもしれないほど、その存在感は大きかった。

4Q8分38秒、3点ビハインドの場面。アイラ・ブラウンに代わってコートインした荒尾は、その僅か30秒後にジョン・ムーニーのショットがこぼれたリバウンドをもぎ取り、富樫の同点3Pにつなげた。また、相手エースのジャミール・ウォーニーをフィジカルを生かして懸命に守り、巨体を投げ打ってルーズボールにもダイブするなど、4Qは4分59秒もコートに立ち続けた。

その献身について、原は「岳さんは言葉はあまりないのですが、プレーで見せてくれて。アイラ(ブラウン)が調子が悪いときにはつないでくれたり…つなぐという言葉が失礼なくらい戦力としてジョンさんも信頼しています。今日も昨日も相手にやられはじめたところで岳さんが出てディフェンスの強度も上がったので、出場した4、5分でチームの流れを変えてくれます。僕もそういう意識で、短い時間でも仕事ができるようになっていきたいです」と敬意を表した。

原はこのコメント以外にも、取材冒頭で試合の総括を求められた際に、荒尾の名を出してこう語っている。

「岳さんのディフェンスが本当に…いや、本当に(メディアで)取り上げてください。荒尾岳、37歳がああやって体を張ってやっているのに、僕も勇気をもらっているので、お願いします!」

この言葉は、荒尾の貢献が優勝においてどれだけ重要だったかを表している。

冒頭で触れたように、Bリーグ誕生に伴ってバスケの人気と競争力は大きく高まった。そして、使える資金が増えたことで優秀な外国籍選手を迎え入れることができるようになり、20-21シーズンから新設されたアジア特別枠が、フィリピンや韓国をはじめとしたアジア各国へのリーグの認知度をさらに高めた。海外からやってきた才能豊かな選手と日々マッチアップすることで、日本人選手も大きくレベルアップし、日本代表の強化にもつながった。

富樫は言う。

「現役中にこれだけの変化があったのは選手として幸せなので、それをしっかりと引っ張っていけるようにしたいです。今日、試合にもいらしていた島田慎二チェアマンとも良いコミュニケーションを取りながら、日本のバスケを強くしたい。その思いはみんな一緒だと思うので、これから良いリーグ、さらにレベルの高いリーグとなって皆さんに楽しんでもらえたらと思います」

EASLでの千葉ジェッツの優勝は、改めて日本バスケ界、そしてBリーグの発展をアジア諸国に印象付けることとなった。

© 日本文化出版株式会社