「第2回新潟国際アニメーション映画祭」審査員長 ノラ・トゥーミー アニメ業界を目指す人こそ映画祭に来て欲しい【CINEMORE ACADEMY vol.28】

昨年誕生した「新潟国際アニメーション映画祭」が今年も開催。2024年3月15日(金)から6日間にわたって開催される今回は、アイルランドのアニメーションスタジオ、カートゥーン・サルーン出身のノラ・トゥーミー監督が、長編コンペティション部門の審査員長を務める。

コンペティションだけにとどまらず、高畑勲レトロスペクティブをはじめとする特集上映やトークイベントなど、アニメーションにどっぷり浸れる6日間。来日を控えたノラ・トゥーミー氏に、本映画祭や日本アニメへの思いを語ってもらった。

影響を受けた『わんぱく王子の大蛇退治』とジブリ作品


Q:日本で開催されるアニメーション映画祭ですが、日本のアニメにはどんな印象をお持ちですか。

トゥーミー:日本のアニメは欧米で爆発的に受け入れられています。劇場や映画祭にファンが大勢詰めかけていますよ。私が日本のアニメに触れたのは大人になってから。既にアニメーションを学んだ後で、『AKIRA』(88)や『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』(95)から入りました。それまで、アニメーションは子供のものという認識でしたが、日本のアニメは大人を含めた多くの観客に対して作られている。ストーリーテラーとして、とても励まされたし希望が持てました。

Q:好きな日本のアニメ作品や監督はいますか。

トゥーミー:私も含めたカートゥーン・サルーン全体に多大な影響を与えたアニメーションは、『わんぱく王子の大蛇退治』(63 監督:芹川有吾)です。この映画はデザインワークも素晴らしく本当に美しい。見せ方の演出も秀逸で、とてもエピックで叙事詩のような壮大な物語。まるでホメロスの「オデュッセイア」を観ているような感覚がありました。映画の中では、小さな男の子が空を飛んだり、急に駄々をこねるように泣き出したりするのですが、そういったアニメーションを観たのも初めての体験でした。カートゥーン・サルーンの皆が影響を受けた映画です。

『わんぱく王子の大蛇退治』予告

あとはやはりジブリ作品ですね。ジブリ作品は全てが素晴らしいですが、特に『となりのトトロ』(88)は、自分の子供が小さいときに一緒に観て親近感を覚えた作品です。私自身が病を患っていたことから、母親の気持ちに感情移入してしまい、映画に入り込んでしまった記憶があります。先日、舞台版の「となりのトトロ」を子供たちと一緒にロンドンで観てきましたが、それもすごく良かったです。

アニメ業界を目指す人こそ映画祭に来て欲しい


Q:今回の映画祭で気になるものはありますか。

トゥーミー:高畑勲監督のレトロスペクティブが非常に楽しみです。以前、トロント国際映画祭で『かぐや姫の物語』(13)を観ましたが、本当に素晴らしかった。かぐや姫が月明かりの下、林の中を走り抜けていくシーンがあるのですが、表現豊かに手書きで描かれていて、彼女の怒りや自由への渇望が見事に表されていました。これまで見たこともないような表現だったので、目を見開いて驚愕したことを覚えています。今回のレトロスペクティブでは『かぐや姫の物語』の上映もあるので、とても嬉しいです。

また、トークセッションも楽しみですね。私も参加しますが、「スタジオ地図」代表取締役プロデューサーの齋藤優一郎さんや、カナダ国立映画庁を通して長年お付き合いのあるマイケル・フクシマさんなど、貴重なトークを聞ける良い機会だと思います。アニメーションを学んでいる学生や、アニメーションについて詳しい人やそうでない人も、いろんな人が興味を覚えるような面白い話が聞けると思います。他にもオールナイト上映など、素晴らしいプログラムがたくさんありますね。

そして、フィルムコンペティションも重要ですね。このコンペティションには世界中から色んな作品が集まってきています。期待出来る作品ばかりですよ。

『かぐや姫の物語』©2013 畑事務所・Studio Ghibli・NDHDMTK

Q:映画祭は人材育成の一翼を担っている部分もあると思いますが、今頑張っている若手やアニメ業界を目指す人たちに向けてアドバイスをお願いします。

トゥーミー:アバイスとして言えることは、「こういった映画祭に来てください」ということ。映画祭には、この業界を目指している人が大勢来ていますので、そういう人たちと会って話をして友達になってください。そこで育まれた友情は一生モノです。私自身も、昔映画祭で会った人たちと今でも一緒に仕事をしています。そういった生涯の友を是非見つけてください。

そして、トークセッションに参加すること。そこで話をしているのは、この業界で20年、30年と経験を積んできている人たちなので、彼らの話は非常に価値があります。特に後半の質疑応答はとても重要。そこで聞ける情報はネットでは見つけられないものが多い。そこだけのオフレコ話も出てきますしね。そういった話を聞くことは非常に貴重ですし、いろいろなヒントがもらえると思います。

最後に、これは私の仲間のトム・ムーアもよく言っていますが、とにかく“描くこと”です。下手だと思ってもいいんです。良くても悪くても描き続けることが大事。描くことによって、世界や周りを見る目が変わってきます。ずっと描いていると、自然とスローダウンしてきて、注意深く周りを見回したり、様子を伺ったりする観察力が養われます。とにかく描くことを強くお勧めします。そして、今アニメ業界入りすることは、すごくいいタイミングだと思いますよ。

アニメーションが持つ魔法


Q:アニメは子どもから大人まで幅広い層が楽しめて、子どもが映像作品に触れる初期段階の媒体でもあります。アニメーションの持つ力やその存在意義をどのようにお考えですか。

トゥーミー:多くの方が、人生で初めて観たアニメを覚えているのではないでしょうか。そして、そのアニメに影響を受けた人も多いと思います。小さな子供は、最初に触れたアニメーションのキャラクターをまるで友達のように感じて育っていく。それがアニメーションの持つ魔法です。

アニメーションというものは、人間の動きや表情を絵で描くことによって、フィルターを通して濾過していくような作業をしています。そうすることにより、実写に比べてよりキャラクターに入り込むことが出来る。例えば『火垂るの墓』(88)では、二人の兄妹が苦しい思いをしながら暮らしていく姿が描かれますが、これを実写でやってしまうと、あまりにも辛くて内面まで入り込めないと思うんです。重く感じて敬遠されてしまう可能性すらある。アニメーターが愛をもって丁寧に描いているからこそ、あの兄妹に入り込むことが出来て、苦しみながらも二人は強い絆で繋がっていることが分かる。アニメーションだからこそ、あの物語は見られるものになっていると思います。

そういった魔法のような作用をアニメーションは持っています。キャラクターや物語に入り込みやすくすることで、観客をよりキャラクターに近づけてくれる。アニメーションだからこそ繋がることが出来るんです。

『クラユカバ』©塚原重義/クラガリ映畫協會

Q:いよいよ映画祭が始まりますが、今どんなお気持ちですか。*2024年2月取材時。

トゥーミー:本当に楽しみにしています。日本に行くのも新潟に行くのも初めてですし、審査員長を務めるのも初めて。楽しみと同時に重責も感じています。アニメーションを学んでいる学生や、同業者、映画を楽しみにしているファンの方など、多くの人と会えるのを楽しみにしています。「新潟国際アニメーション映画祭」というスペシャルなイベントに参加できることを名誉に思います。

ノラ・トゥーミー

アイルランドのスタジオ カートゥーン・サルーンの初期から、受賞歴のある短編映画やコマーシャルの監督を務め、アカデミー賞®にノミネートされた『ブレンダンとケルズの秘密』ではトム・ムーア監督と共同監督をする一方、幼児向け番組『ウーナとババの島』など数多くのシリーズの開発プロセスを指導した。アカデミー賞®にノミネートされた『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』では、ストーリーとボイスのディレクターを務めた。監督を務めた『ブレッドウィナー』ではアカデミー賞®とゴールデングローブ賞にノミネートされたほか、米国アニー賞の最優秀長編映画(インディペンデント)賞、アヌシー国際映画祭で観客賞、審査員賞など数々の国際賞を受賞。最近では、ニューベリー賞を受賞したルース・スタイルズ・ガネットの絵本にインスパイアされたNetflixオリジナル長編アニメーション『エルマーのぼうけん(My Father's Dragon)』を監督。

取材・文: 香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。

第2回新潟国際アニメーション映画祭

Niigata International Animation Film Festival

主催:新潟国際アニメーション映画祭実行委員会 企画制作:ユーロスペース+ジェンコ

会期:2024年3月15日(金)〜20日(水)

公式サイト:https://niaff.net

公式 X(旧 Twitter) :@NIAFF_animation

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