《リポート》空き家、地域の「宝」に 茨城・かすみがうら市 リノベ教室や紹介ツアー

古民家を見学する「空き家ツアー」の参加者=かすみがうら市田伏

茨城県かすみがうら市の空き家対策が注目を集めている。古民家を市が宿泊施設に活用する先行例をつくり、続いて地域おこし協力隊などが「空き家再生チーム」を結成し、活用可能な空き家を掘り起こしている。「古民家リノベ(改修)スクール」「空き家紹介ツアー」を2本柱に、空き家を「お荷物」ではなく地域活性化に向けた「宝」に変えようと模索する。

▽市内に500軒

市地域未来投資推進課によると、2022年度に市が実施した実態調査では、市内に約500軒の空き家があることが判明。管理不全の空き家は解体や維持を働きかける一方、活用可能な空き家は改修した上で再生を図る。

市内には既に成功例がある。霞ケ浦湖畔の同市坂で20年7月にオープンしたゲストハウス「古民家江口屋」だ。酒蔵や特定郵便局として使われた明治後期の建物を市が買い取り、4組程度が泊まれる施設に改修した。訪日客が訪れるなど、宿泊者数は年々伸びているという。

▽利用者へつなぐ

放置された空き家は不動産業者が手を出しにくい物件となっており、市は信用力を背景に所有者と利用者の間をつなぐことをもくろむ。

2月26日に実施した「空き家ツアー」には市内外から15人が参加。霞ケ浦地区の9軒を見学して回った。協力隊員が、市のリストを基に1軒ずつ掘り起こした物件だ。協力隊員の森山あすみさん(22)は「所有者を探し続け、半年かけてたどり着いた人もいた」と苦労の一端を語る。

空き家オーナーの1人、谷下田幸一さん(67)は「母が亡くなって1年ちょっと。かなりさびれてきていますが…」と、築70年近い建物を紹介。「網大工の仕事場だった」などと説明し、参加者らは興味深そうに建物の内外を見学した。

別の空き家の持ち主は「江口屋がきれいになったのを見て貸し出しを考えた。改装し過ぎないなど、貸すかどうかは相手次第」と話した。

参加した金融関係者は「霞ケ浦が近く、きれいな農村風景が広がる場所。企業の保養施設、ゲストハウス運営などの用途で引き合いがある」と古民家の魅力を説明する。

▽市から民間へ

リノベスクールは筑波大生が関わり、空き家を改修しながらゲストハウス開設を目指す。地域おこし協力隊も自ら住居にしている建物を直しつつ、複数の飲食店が台所を共有する「シェアキッチン」開業などを検討する。

市産業経済部の高井淳理事は「既存の宿泊施設などとの競合ではなく、古民家を活用したにぎわいを民間主導にシフトしながら広げていきたい」と話す。

市は24年度以降に向けて「第2期空き家等対策計画」を策定するほか「第2江口屋」と位置付ける古民家宿泊施設の第2弾も、24年7月開業へ向けて準備を進める。

2月22日にあったリノベスクールの報告会で、筑波大の山本幸子准教授は「空き家は7軒に1軒と身近な問題。活用方法は確立しておらず、どこかの地域でうまくいったから他でもうまくいくとは限らない。空き家を磨いて宝にしていくプロセスそのものが大事だ」と現状を解説した。

© 株式会社茨城新聞社