「補欠ゼロ」を掲げ、子どもたちが楽しめるサッカーに取り組む小学生向けスクールが茨城県小美玉市にある。「FC.クレアティーボ」代表の市ノ沢征明さん(53)は、全員が必ず出場し、子ども自身が主体的に考えてメンバーやポジションを決める小さな大会を昨年秋に始めた。脱「勝利至上主義」の取り組みで、遊びの延長としてサッカーを楽しんでもらいたい考えだ。
■ 全員出場の大会
「コーチ、僕たちが勝ったよ」「次は誰が出る? まだ1回も出てない人がいるよ」。同市張星のグラウンドに9日午前、約60人の小学生が集まった。開かれたのは「FUNサッカーフェスティバル」。フットサルのピッチほどの広さを3面使い、6人対6人で10分間の試合を繰り広げた。
見守る指導者の指示は必要最低限。大声で怒鳴ったり、叱ったりすることもない。誰もがボールを触れるよう、レベルや学年に関係なく必ず全員を出場させるのが大会の条件だ。
グラウンドでは選手たちの笑いが絶えない。後方からロングシュートが決まると、相手チームのコーチが「スーパープレー来た!」とたたえた。リラックスした状態で試合に臨む子どもたちは、時々驚くようなプレーを見せるという。
■想像上回る活躍
同市出身の市ノ沢さんは、小中高とサッカー漬けの日々を過ごし、県内の社会人チームでプレーした経験を持つ。2012年にNPO法人化した現在のチームでコーチを務め、当初は「技術が大事」と厳しく指導していた。
息子もサッカーにのめり込み、県外の強豪校に越境入学。だが、指導者からの度重なる暴言に耐えられず退部、転校を余儀なくされた。
厳しい指導から現在の方針へ変わったきっかけは、ある公式戦。主力選手を休ませ補欠選手を先発させると、想像を上回る活躍を見せた。他の補欠選手も出してみたところ、試合経験を積んだ子どもほど上達。選手自ら考えるチームに変わり、全体の力も上がった。
「誰一人として見捨ててはいけない」。子どもたちの成長を目の当たりにし、19年ごろに指導方針をがらりと変えた。基礎練習も大切だが、子どもたちは試合でこそ楽しめると気付いたからだ。
■遊び通して成長
この日の大会を終えた5年生の生天目理仁君(11)は「試合に出してもらった。みんなで協力できて楽しかった」と笑顔。母親の里美さん(46)は「全員出られるのがいい。友達もできて、伸び伸びと楽しめている」と好意的に受け止める。
理想は、近所の子どもが自然に集まってボールを蹴った昔のように、子どもが遊びを通してサッカーを好きになり、成長することだ。
「つまらなくてやめてしまう子を減らし、生涯スポーツにつなげれば、サッカーは文化に発展すると思う。サッカーを子どもたちに返したい」。市ノ沢さんの挑戦はこれからも続く。