「ひとーつ、ふたーつ、みーっつ…」
掛け声に合わせ、かごから取り出された白と黄色の玉が空に舞う。
昨年11月中旬、宇都宮市内の河川敷。寒空の下、少し季節外れの運動会が開かれた。
集まったのは、同市内の子どもの居場所「月の家」と「もうひとつの家 アットホームきよはら」に通う小中学生たち。綱引きや玉入れ、リレーなど学校の運動会さながらの種目を楽しんだ。
この二つの居場所を利用しているのは、貧困や親の病気などで家庭で十分な養育を受けられずにいる子どもたち。不登校気味だったり、親がお弁当を作れなかったりして、学校の運動会に参加できていない子も多い。
こうした居場所では食事や入浴といった支援に加え、多くの子どもにとって「当たり前」の経験を積ませることも大切な役割になっている。
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この10年間で、県内の「子どもの居場所」は飛躍的に増えた。基本的な生活習慣を身に付けるだけでなく、学習支援や好奇心を育むための体験の場としてなど、その機能は多岐にわたる。昨年12月には「こどもの居場所づくりに関する指針」が閣議決定され、自治体は取り組みの促進を求められている。
宇都宮市は2018年、市内の子どもの貧困率を独自に調査した。経済的な貧困状態にある子どもは約8人に1人、人とのつながりや体験の機会に恵まれない「関係性の貧困」に置かれている子どもは約3人に1人と算出した。
関係性の貧困状態が続くと成功体験が少なく自己肯定感が低くなり、大人になると経済的な貧困になりやすい傾向がある-。そう分析する同市は、貧困の連鎖を断ち切る策として居場所づくりに力を入れている。
子どもが直面する困難の度合いに応じて、居場所の種類を3段階に区分。貧困であるかどうかにかかわらず誰もが気軽に利用できる子ども食堂などの場では、活動の中で支援が必要な家庭を把握することを目指す。市内に5カ所ある「親と子どもの居場所」では、支援を必要とする家庭の孤立を防ごうと、親からの相談対応をはじめ、子どもが生活・学習習慣を身に付けられるよう早期支援を図る。
困窮などでより困難を極める子どもは「月の家」や「もうひとつの家 アットホームきよはら」につなげ、食事、入浴、洗濯などの支援から濃密に関わっている。
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「今日は楽しかった?」
「楽しかったです!」
運動会が終わり、スタッフに声をかけられた小学5年、舞(まい)さん(11)=仮名=は満足そうに返事した。
舞さんが月の家に通い始めたのは昨年11月のこと。ここに至るまでには、舞さんの家庭の状況を把握し、月の家につなげようと奔走した支援者の姿があった。
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困難に直面する子どもを支える最前線として「子どもの居場所」がある。衣食や学習支援、多様な体験とともに「安心」を提供している場所だ。困窮する家庭で暮らす子どもはもちろん、家計の状況にかかわらず子どもと親を支援しようとその数も機能も増えてきている。子どもを支えるさまざまな手だてを追った。