戦争の記憶、後世に 鶴岡市民有志、証言動画作成

「地元の戦争体験者の証言を記録する会」が制作した教材用動画

 戦争の記憶を後世に残そうと、鶴岡市民有志が記録映像の制作に取り組んでいる。これまでに、広島の原爆投下や東京大空襲、シベリア抑留などの証言動画を作成。今年1月には小中学生向け教材用の最新作を市内全ての学校に贈った。未来を担う子どもたちに苦難の歴史を知ってほしいとの願いを込めた。

 制作しているのは「地元の戦争体験者の証言を記録する会」(阿部博行代表)。1945(昭和20)年に敗戦し、時の経過とともに史実の継承が困難になる中、貴重な体験談を次代につなごうと2021年3月、医師や元教員など有志7人で結成した。阿部代表は「紙に残す取り組みは多くあるが、映像は少ない。薄れゆく記憶を、地元の人たちの生の声で残したかった」と狙いを語る。

 同年、第一弾として、広島市で被爆した鶴岡市在住の洋画家三浦恒祺(つねき)さんにインタビューし、原爆が投下された8月6日、「終戦への足音~原子爆弾の被爆体験証言」として38分の動画にまとめた。翌22年には東京大空襲と庄内の空襲、インパール作戦、シベリア抑留体験を、昨年は学徒勤労奉仕・動員、満州をテーマに制作。3年間で計6作品を仕上げた。

 一般向けの動画制作と並行して、力を入れているのが小中学生向けの教材用動画だ。最新作の「満州からの引揚(ひきあ)げ―斎藤幸子さんの体験」を含め、これまでに3作品を作り、市内の全37小中学校に関連資料を添えて寄贈した。

 教材用動画を担当する元・朝暘一小校長の小田悟志さん(65)は「一般用と異なり、時間を10~20分程度に抑え、資料映像や写真を駆使して分かりやすさを心がけた。ぜひ授業に取り入れ、未来のことを考えてもらいたい」と話す。制作費を抑えるため、編集技術は全て一から学んだ。教材用2作目の「東京大空襲と鶴岡の空襲」は今年2月の県自作視聴覚教材コンクールで最優秀に輝いた。

 阿部代表は「今年の夏までに『疎開』をテーマにした作品を完成させ、集大成としたい」と語る。一般向け動画は今夏をめどに市立図書館に寄贈、団体や個人の希望者にも提供する予定だ。

「満州からの引揚げ―斎藤幸子さんの体験」の一シーン

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