ハイチのアリエル・アンリ首相は11日、辞意を表明した。同国ではここ数週間、暴力事件が相次ぎ、首相に対する退任要求が高まっていた。
この日、カリブ海諸国はジャマイカで会合を開き、ハイチの政権移行について協議した。
アンリ首相は現在、武装ギャングによって帰国を阻まれ、プエルトリコに滞在している。
アンリ氏は、「（政権移行）評議会の設置をもって」、内閣が総辞職すると述べた。
動画での演説の中で同氏は、「私はすべてのハイチ人に冷静さを保ち、平和と安定が一刻も早く戻るよう全力を尽くすよう求める」と語った。
武装ギャングによる圧力
アンリ首相は、1月末から南米ガイアナとアフリカのケニアを訪問し、国内の暴力に対処するための国際治安部隊の派遣について合意した。しかしその後、ハイチに帰国できていない。
アンリ氏は、2021年にジョブネル・モイーズ大統領が暗殺された後、後任が決まるまでハイチを率いる予定だった。しかし、治安の回復が第一だとして、繰り返し選挙を延期してきた。
多くのハイチ国民は、選挙によって選ばれていないアンリ氏の統治の長さに疑問を抱いている。また、武装ギャングらがアンリ氏の退任を求めており、最近になって、首都ポルトープランスの大部分を掌握した。
ギャングらは先に、ポルトープランスの主要刑務所と近くの刑務所の2カ所を襲撃。約3700人の収監者が脱走した。また、警察署や、首都の国際空港、港湾なども標的にしている。
ポルトープランスとその周辺地域は現在、1カ月に及ぶ非常事態下にあり、夜間外出禁止令が延長されている。
国連の世界食糧計画（WFP）のハイチ代表を務めるジャン＝マルティン・バウアー氏は11日、36万人が家を追われていると述べた。
「物資の流れも途絶えており、ポルトープランスの食料市場に大きな影響を与えている」とバウアー氏は言い、現在、陸海空のすべての経路でハイチへの物資の搬入が不可能になっていると付け加えた。
ハイチはすでに栄養不良が問題となっており、間もなく著しく悪化すると、深刻に懸念されている。
ハイチで選挙担当相の経験があるマティアス・ピエール氏は、同国は現在、「非常に不安定」な状況にあり、軍隊や警察も騒乱に対処する能力を備えていないと述べた。
ピエール氏は、アンリ氏が辞任を公に認める前に、BBCのニュース番組で辞任について言及。武装ギャングが新たな権力分立協定に加わることを求めていると述べた。
さらに、国際的な軍事連合の「支援」なしには、こうした政治的解決は不可能だと付け加えた。
国際治安部隊と政権移行評議会の行方は
現在、国連が支援する1000人規模の治安部隊の先行きが不透明な状態となっている。この部隊はケニアが主導し、ハイチの秩序回復を助ける計画となっている。
ケニア外務省の高官、コリル・シングオエイ氏は、アンリ氏の辞意表明を受け、ハイチへの警察派遣は保留になったとBBCに語った。
また、ケニアは更なる決定を下す前に、ハイチで新しい憲法当局が設置されるのを待つと付け加えた。
一方アメリカは、計画を遅らせる必要はないとしている。
アントニー・ブリンケン国務長官は先に、治安部隊にさらに1億ドルを支援すると約束。アメリカは合わせて3億ドルをこの部隊に拠出している。
人道支援にも、3300万ドルを振り向けている。
こうしたなか、カリブ海の14カ国1地域が加盟している「カリブ共同体（CARICOM、カリコム）」は11日、ハイチでの危機についてジャマイカで協議し、政権移行評議会の骨子案を発表した。
委員会は7人の投票メンバーと2人のオブザーバーで構成され、複数の連合や民間セクター、市民社会の代表らに加え、宗教指導者1人が含まれる。
一方、ハイチの次期選挙への立候補を考えている者は参加できない。
アメリカは、今後2日以内に評議会が設立され、暫定首相が任命されることを期待していると述べた。
この評議会が、2016年以来行われていない選挙への道を開くことが期待されている。
政情不安や自然災害に苦慮
ハイチはカリブ海の国家で、ドミニカ共和国と国境を接する。推定人口は1150万人。国土の面積は2万7800万平方キロと、ベルギーより一回り小さい。
ここ数十年の慢性的な政情不安、独裁政権、自然災害などにより、ハイチはアメリカ大陸で最も貧しい国となっている。
2010年の地震では20万人以上が死亡し、インフラや経済に甚大な被害をもたらした。
2004年にハイチ安定化のために国連平和維持軍が派遣されたが、2017年に撤退している。
2021年7月、モイーズ大統領がポルトープランスで正体不明の武装集団に暗殺された。政治が行き詰まる中、国内では騒乱とギャングによる暴力が続いている。
（英語記事 Haiti's prime minister Ariel Henry resigns as law and order collapses）
