トム・ブラウンみちお「タメ口を許してくれた」布川部長とのコンビ結成、布川ひろき「自分を預けられる」関係

トム・ブラウン(左から布川ひろき、みちお) 撮影/三浦龍司

「しょうゆにしょうゆをかけて、飲みます」唐突にもほどがあるつかみからの、『サザエさん』の中島くんが合体する合体漫才へ。文字にすると意味が分からないが、実際に見ると強烈なパワーに巻き込まれ、思わず笑い声をあげてしまっている。その特異すぎるスタイルは、どうやって生み出されたのか? コンビ名を「少年ジャンプ」の野球漫画『ペナントレース やまだたいちの奇蹟』の選手名からとったという、お笑い芸人トム・ブラウンの現在に至る転機、「CHANGE」に迫った――。【第2回/全4回】

抜群の身体能力を持つ一年生をスカウト

みちおさん(39)が「ケンタッキーは骨ごと飲み込みます!」と言うないなや、布川ひろきさんが「キャー!」と絶叫して思いきり頭を叩く、トム・ブラウンの漫才でのつかみ。ボケとツッコミという単純な図式では説明できない、独特な2人の関係が魅力となっているが、その始まりはコンビ結成の前、高校時代にまでさかのぼる。

布川「高校時代は柔道部でした。それで、2年生のときに“相撲で全国大会にいった1年生(※みちおさん)がいる”というんで、そいつのクラスにまでいって声をかけました。みちおのことはひと目でわかりましたね。“あっ、この人だ”って」

布川さんに勧誘されたみちおさんは、あっさりと柔道部へ入部。なぜ全国レベルだった相撲を捨てて?

みちお「相撲をやっているとき、裸だから女の子にモテないんだと思っていたんです。漫画とかだと、柔道部で彼女がいる人がたまにいる。じゃあ、柔道部ならモテるかもって、可能性を信じて入部したんです」

その結果は……?

みちお「いや、これが全然、モテない」

布川「モテるわけがない」

入部動機からして独特なみちおさんだったが、部活に入ってからも、かなり個性的だったようだ。

布川「空手部もすぐ横で練習していて、柔道部と仲が良かったんです。両方の部の3年生で遊びにいくと、2年生でひとりだけみちおが来るんですよ。ほかの2年生と仲が悪かったわけじゃないのに、みちおはひとりでも来るみたいな感じでしたね」

みちおさんから、布川さんに予想外のお願いが

これが20年以上前の高校時代の話。ちなみに布川さんは当時、部長をつとめていた。柔道部ともなれば、先輩・後輩の上下関係に厳しそうなイメージがあるが……。

布川「そういうのは気にしない感じでした。言葉使いも最初の半年は敬語だったんですけど、僕が筋力トレーニングをしているときに、みちおがいきなり“タメ口でいいですか?”って聞いてきたんですよ。僕は一回、“ん?”って顔したんですけど、懐が浅いって思われたくなかったんで、“いいよ”って言いました」

みちお「やっぱり、“ん?”って顔はしていましたね」

トム・ブラウン 撮影/三浦龍司

布川「でも、いま考えると、断っても懐は浅くないよな。普通だよな」

思わずタメ口を許可してしまった布川さん。ただ、みちおさんも“布川部長”のことを、ナメていたわけではなかった。

みちお「部員はみんな仲が良かったんでゆるみそうになるんですけど、練習は練習でやるし、ちゃんと部長をしているんですよ。締めるところは締めて、ゆるめるところはゆるめるっていう、理想の部長でした」

当時から布川さんのことは尊敬していたのだ。

「これは無理かも」スノーボードからお笑いの道へ

高校を卒業後、布川さんはお笑いの道を志し、みちおさんを誘うも、断られてしまう。

みちお「中学2年からスノーボードをやっていて、そっちで食べられる道を探していたんです。プロを目指して専門学校に入って、インストラクターの資格も取らせてもらったんですけど……プロには技術うんぬんの一個先に、命の覚悟みたいなものが必要なんですよ。“できるかわからないけどやってみよう”という。もちろん安全確認をしながらですけど、自分はその覚悟を超えられないなと気づいたんですね。そんなときに、友人がちょっとえげつないケガをして、“これは無理かも”って、スノーボードのプロの道をあきらめたんです」

トム・ブラウンみちお 撮影/三浦龍司

その後、みちおさんは一度断ったお笑いの道へ進み、すでに芸人として活動を始めていた布川さんから声をかけられ、トム・ブラウン結成となる。これは、柔道部の部長時代の布川さんを知っていたからこそだった。

みちお「布川さんが札幌のローカル番組に出ていて、布川さんが出ているなら自分は余裕だなって思ったんですよ。一緒に柔道部で遊んでいて、めっちゃ好きで尊敬しているけど、どっかなんかバカにしやすいんですよ。そこがいいところなんですけど、その感じがあったから、布川さんがお笑いの世界でいけるんだって、思っちゃった感じですね」

一方、そんなみちおさんをお笑いに誘った布川さんはどう思っていたのか?

布川「一番、思うのは、養成所とかで知らない人同士でコンビを組んでやっているじゃないですか。それが信じられなくて、すごいなと思っていました。

全然、知らない人に自分を預けられる、それは僕は信用できないなって思っちゃうんです。“ビジネスパートナーだから”という考え方もあるんでしょうけど、だとしても“怖くないのかな?”って思っちゃいますね」

今では唯一無二のコンビとなったトム・ブラウン。そのもともとは、柔道部でのちょっと変わった先輩後輩の関係にあったようだ。

トム・ブラウン
布川ひろき(ぬのかわひろき)/1984年北海道生まれ
みちお/1984年北海道生まれ
2009年に結成。高校時代に柔道部の先輩だった布川がみちおを誘ってコンビ結成。同年に上京するが、しばらく自分たちの芸を模索する時期が続く。18年に『M-1グランプリ』の決勝に進出すると、そこで披露した合体漫才が話題となり、一躍脚光を浴びた。テレビ番組への出演が増える中、単独ライブツアーをほぼ毎年行っていて、24年も北海道、東名阪、福岡でのライブが予定されている。

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