テツandトモ「お笑いを1回辞めたんです」、“エリート芸人集団”吉本興業で味わった「若き日の挫折」

テツandトモ 撮影/向後真孝

赤と青のジャージ、ギター片手に「なんでだろう♪」で一世を風靡したテツandトモ。2003年の大ブレイクからしばらく後、テレビ出演の機会が減って「消えた一発屋」と呼ばれるも、実は全国各地で年間約200本のイベントに出演する「隠れ売れっ子」として現在も活躍していることは、つとに知られている。結成から25年を超えた彼らの「THE CHANGE」とは――。【第1回/全5回】

赤いジャージのテツさんが「そちらにお茶ありますか?」と気遣ってくれたと思えば、青いジャージのトモさんは「隣の会議室の音、入っちゃわないですか? 大丈夫ですか?」と録音の心配をしてくれる。あまりの気取ったところのなさに、テツandトモの真髄をいきなり目の当たりにした気がした。

昨年デビュー25周年を迎えた彼らは、もともと「お笑い芸人になろう!」とコンビを組んだわけではない。日本大学芸術学部の同級生だった二人が芸人になるまでには紆余曲折があった。

トモ「テツは演歌歌手志望、僕は役者志望で上京してきて、大学卒業後はそれぞれ芝居をやっていました。27歳のときに同級生の結婚式の余興で一緒に歌を歌ったら、たまたま居合わせた今の事務所の人に誘われたんです」
テツ「それで“歌手になれるんだ”と思ったら“お笑いをやらないか?”って言われたんですよね」

ただ、お笑いとの接点はここで降って湧いたわけではなかった。トモさんが「僕は昔、吉本(興業)さんにちょっとだけ在籍していたんです」と明かす。

トモ「僕が大学を卒業する年に、吉本さんが“新喜劇のような舞台を東京でもやろう”という企画を立ち上げたんですね。コントや漫才ではなく芝居、つまり喜劇をやると聞いて、楽しそうだと思ってオーディションに行ったら受かりました」

この舞台に出ていたのは、これから世に羽ばたこうとする東京吉本の面々だった。

「とてもじゃないけど、この人たちとは戦えない」デビュー前の挫折

トモ「月亭方正さんがいたTEAM-0さん、3人組で人気のあったインパクトさん、それから極楽とんぼさんにココリコさん、本田みずほちゃん。そこに僕みたいに一般オーディションで受かった人が入って、一緒に稽古して芝居してました。ゲストで間寛平師匠や宮川大助・花子師匠がいらっしゃることもありましたね。当時、テツはその舞台を見に来てたね」
テツ「そうそう。単純に“友達が吉本に入ってお芝居をやる”っていうから見に行ってました」

トモさんは大学時代から友人とコンビを組んでTBSの深夜番組『星期六我家的電視・三宅裕司の天下御免ね!』の素人オーディションに出場したり、お笑いライブを主催したりしたこともあった。

トモ「だから、お笑いはずっと近い距離にはあったし、もちろん好きでした。でも吉本に入ったら本当に周りのみんながすごかったんです。ふだんの会話のテンポもそうだし、舞台の上ではもちろん台本があるけど、その表現力やアドリブがとにかくすごい。僕も芝居はやっていたけれど笑わせるための芝居じゃなかったし、とてもじゃないけどこの人たちとは戦えないと思いましたね。2年ぐらいお世話になって“やっぱり僕はお笑いは無理です”と言って辞めたんです」

一方のテツさんは「完全な“見る専”でした」という。

テツ「小さい頃から歌が好きだったので、音楽で笑わせる人はすごいと思ってました。かしまし娘さんみたいな、楽しい音曲漫才が当時から好きでしたね。そういう人に憧れてはいましたけど、お笑いをやるなんて考えたことなかった」

事務所から誘いを受けた二人は2か月悩む。トモさんが「僕はお笑いは一回辞めたわけだし、テツは本当に真面目な青年で、まったくそういう気質じゃないこともわかっていましたから、断り続けてました」と言うのに対し、テツさんは少し違った思いを抱いていたという。

テツ「トモの相方としては僕は4人目なんです。なんていうコンビ名でどんなネタをやっていたのか、前の3人とのコンビを全部見てました。吉本を辞めた経緯も知っていたけど、もし本当にお笑いをやることになったら、僕一人では絶対無理でも、トモがいればなんとかなるかなって思ってましたね」

結局、二人は「やってみようか」と誘いを受ける。1998年2月、お笑いコンビ・テツandトモがこの世に産声を上げた――。

テツandトモ
●中本哲也(なかもと・てつや)
1970年5月9日生まれ。滋賀県出身。
●石澤智幸(いしざわ・ともゆき)
1970年5月10日生まれ。山形県出身。
日本大学藝術学部演劇学科の同級生同士で1998年に結成。1999年の放送開始と同時に『爆笑オンエアバトル』(NHK)に出演し、常連に。『M-1グランプリ』2002年ファイナリスト。2003年に『テツandトモのなんでだろう~両さんバージョン~』などをきっかけにブレイク。現在もお笑いと歌で全国各地のイベント等に出演を重ねる。レギュラー番組に『テツandトモのなんでだラジオ!』(山形放送)がある。

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