王子様系アイドルの元祖は三田明? 沢田研二、郷ひろみ、堂本光一へと続く美少年の系譜

長髪、細身に甘いマスク……日本で"王子様系"が受け入れられたのはいつ?(画像はイメージです)

昭和の少女漫画にはよく長髪で細面、スラッとした体型の王子様的なキャラクターが登場します。芸能界にも数々の王子様キャラが存在しますが、そういったタレントが支持されるようになったのはいつからだったのでしょうか? 王子様系アイドルのルーツについて、シンガーソングライター・音楽評論家の中将タカノリと、シンガーソングライター・TikTokerの橋本菜津美が語ります。

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※ラジオ関西『中将タカノリ・橋本菜津美の昭和卍パラダイス』2024年3月1日放送回より

【中将タカノリ(以下「中将」)】 今回のテーマは王子様系アイドルの誕生について。少女漫画に出てきそうないかにもな美少年アイドルの歴史をたどっていきたいと思います。

【橋本菜津美(以下「橋本」)】 待ってました! 女の子はいつでも白馬に乗った王子様が来るのを待ってますよ!

【中将】 きょうび、白馬に乗った王子様って、松平健さんとか某国の最高指導者くらいですけどね……(笑)。

【橋本】 (笑)。

【中将】 近年でも堂本光一さんを筆頭に王子様系アイドルの方はたくさんいますが、長髪でスラっとしてて甘いマスクで……というタイプの男性が日本でいつから受け入れられるようになったのか。

そもそも日本はセクシャリティーに寛容な国でした。その風向きが大きく変わったのが明治以降。ゲイを罪とするキリスト教的な価値観や、男は男らしく、女は女らしいことを良しとする軍国教育の影響で、同性愛や中性的であることは嫌悪の対象になったわけです。

【橋本】 そういう価値観を引きずった人たちってまだまだいますよね。

【中将】 そうですね。戦後の芸能界にもその影響は長く残り、男性スターといえば筋骨隆々でちょいワルでという感じの人ばかりでした。その潮流にようやく変化が訪れたのが1960年代初頭。10代向けの青春歌謡シーンでジャニーズや三田明さんなど清潔でかわいらしい顔立ちのスターが台頭します。特に三田さんについては、同性愛的な嗜好を持つことで有名だった三島由紀夫が「三田明が天皇だったらいつでも死ぬ」と公言するほど。

【橋本】 そんなラブだったんだ(笑)。

【中将】 はい。なので、僕は三田さんこそ王子様系アイドルの元祖だったのではないかという説を唱えたいと思います。その三田明さんのデビュー曲は、『美しい十代』(1963)。

【橋本】 検索して若い頃の三田さんを初めて見ましたが、なんてツヤツヤな男の子! これは女子だけでなく三島さんのハートを射止めたのもナットクです。

【中将】 時代が時代なので短髪ですが、めちゃくちゃ甘いお顔なんですよね。楽曲的にもまったくイキったり性的な部分がなく、さわやかで模範的な美少年歌謡です。

さて三田さんがデビューして2~3年たち、1960年代後半になると、今度はグループサウンズブームが起きます。ビートルズやローリング・ストーンズの影響を受けた彼らは、長髪にミリタリールック。特にザ・タイガースはそこに中世ヨーロッパ風味の加わった、まるで手塚治虫さんの漫画『リボンの騎士』のようなファッションと、かつてないほど中性的な魅力あふれる沢田研二さんのルックスで注目されました。楽曲にもそのイメージは投影されています。そのザ・タイガースの曲の1つに、『星のプリンス』(1967)があります。

【橋本】 デビュー間もない頃ってこんな歌い方もされていたんですね! (沢田さんは)『勝手にしやがれ』(1977)の頃のイメージが強いので、あまりにかわいらしくてびっくりしました。衣装もとってもリボンの騎士ですね。

【中将】 ザ・タイガースによって生まれたグループサウンズの王子様的傾向は、オックスの登場で絶頂に達します。オックスはボーカル・野口ヒデトさん(現・真木ひでと)、キーボード・赤松愛さんのかわいらしいルックスと、それとは対照的な過激なパフォーマンスで「失神バンド」と呼ばれていました。彼らのデビュー曲は『スワンの涙』(1968)。

【橋本】 ねっとりみを増して、いかにも昭和のアイドル的な感じになってきました! 多少、やらされてる感じもありますが、ご本人たちは違和感を持っていなかのでしょうか?

【中将】 違和感ありありだったそうです(笑)。もともとロックがやりたくてバンドを始めた人たちですからね。グループサウンズの王子様的スタイルはその後まもなく、やっている本人たちによって否定、過去の遺物化されるという皮肉な運命をたどります。しかし、その手法は旧ジャニーズ事務所が形を変えて踏襲。1970年代に郷ひろみさんという大スターを生み出しました。その郷ひろみさんのデビュー曲は、『男の子女の子』(1972)。

【橋本】 この時代から50年以上も第一線で歌い続けている郷さんってすごいですね……ファンの方たちにとってはまだまだ王子様! この番組を始めるまで郷さんが旧ジャニーズ事務所出身とは知らなかったので、初めてこの曲を聴いたときは驚きました。

【中将】 沢田さんもそうですが、デビュー後にさらに違うイメージを打ち立てているので、王子様系だったことを知らない人は多いでしょうね。

さて、その後、年を追うごとに王子様系アイドルは旧ジャニーズ事務所の専売特許のようになっていきますが、それでも1970年代にはさまざまな背景をもった王子様系アイドルが存在しました。漫画『ちびまる子ちゃん』で山根くんが愛してやまないアイドルとして話題になった城みちるさんもその1人です。デビュー曲は、『イルカにのった少年』(1973)です。

【橋本】 フリフリのシャツにタイトなジャケット、それに甘いお顔……このレコードジャケットは王子様系として完璧ですね! 今でもこの系統のファッションで出てくるアイドルって大勢いると思います。

【中将】 三田さんの登場から約10年で王子様系のファッションや売り出し方はほぼほぼ完成していたってことですね。

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